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二 ひとまずの幸せ

 それから何日も何日もかけて雪山を越え、南へ、南へ。

 ちなみにあれだけわんさかいた魔獣達は主人である悪魔を失った事で共食いを始め自滅。すっかり辺りは魔獣の死骸だらけになっていた。

 そうして戻って来たのは、王都のすぐ北、公爵邸。

 ここへ来たのはついこの間なのに、なんだか懐かしいのは何故だろうか。

 公爵夫人が飛び出して来て、「ニユさん。お戻りになったんですね」といそいそと応接間に案内してくれた。

 応接間で待っていたのは、豪華な椅子に掛ける立派な礼服の青年――若公爵である。その隣に公爵夫人が、そしてテーブルを挟んで向かい側にニユが座った。

「おやニユさん。久し振りだね。……おや、ケビン殿下やメイドさんは?」

 そう問われても、心は痛まなかった。それはきっとニユが、もう心に決めているからだ。

「公爵さん。話は長くなるけど、聞いて」

 笑顔でそう言って、ニユは今までの、公爵邸を後にしてからの事を洗いざらい話し始めた。


 公爵はドンが滅ぼされたとの知らせを受けて喜ぶと同時に、ケビンが失われたと知って悲しんだ。

「……残念だ。ケビン殿下が、亡くなられたなんて。――それにしても、ニユさん、君の功績は凄い。一人であの魔人を倒したとは。後世に讃えられるべき、名誉だよ」

「ううん。アタシ、全然まだ道半ばだよ。……それでね公爵さん、頼みたい事があるんだ」

 赤いリボンを揺らし、頭を下げるニユに、公爵は「何かな?」と尋ねる。

「アタシからのお願いは三つ。一つ目は、前も言ったけど王都がボロボロなんだ。だから、建て直して欲しい。二つ目は、ドッゼル王国の国王代理を貴方が務めて欲しいんだ。きっと、王様役がいなかったら、国は困った事になっちゃうでしょ? よく分かんないけど、この国を幸せにして。そして三つ目」

 ニユは茶色の瞳で青年を射抜く。「どうか、一年だけ待って。もしそれまでにここへできなかったら、公爵さんが本当の国王になっても良い。でもお願い、でも絶対の絶対、仲間を、ケビンを生き返らせてみせるつもりなんだ。……どう?」

 無茶振りだとは、分かっている。

 でも絶対、ケビンを甦らせて、国王にする。だからそれまで、公爵に国王代理になって欲しい。身勝手だが、それをきっとケビンも望んでいると、ニユは思ったから。

 長い長い沈黙の後、公爵は柔らかく微笑むと、意外にも、「良いだろう」と答えてくれたのだった。「ニユさん、貴方はこの世界の『救世主』だ。どんなおつもりかは知らないが、一つ、貴方の頼みをお聞きしよう。私は以前、妻共々助けて頂いたご恩がある。……どうかニユさん、頑張って、殿下を生き返してくれ給え」

 なんとも親切な公爵の言葉に、ニユの笑顔が咲き誇った。「ありがとう! ありがとう公爵さん!」


 そして一泊した後に公爵邸を出て、ニユが王都へ着いた頃には、王都建て直し計画が始まっていた。

 なんと手の早い事だろうか。公爵の私兵であろうかと思える人々が作業に取り組み、王城も完成しようとしていた。

 公爵は約束通りで国王代理を担う事となり、食糧難も収まって、世界はドンが亡き者となった事で確実に平和へと向かいつつある。

 つまり、最初の目的は果たし、ニユは『救世主』となったのであった。

 だが彼女の旅はこれで終わりではない。

 ケビンと、グリアムと、ルーマーと、また笑って過ごす為に。

 しかしまあ、とりあえず――。

「母さんも父さんも心配してるだろうし、帰ろっか。……エジー、行こう!」

 懐かしの我が家へ、ひとまず自分の無事を伝え、新たな旅の準備をする為に、ひとまず戻る事としよう。

 そうしてニユは、男爵邸へとエジーを走らせ続けるのだった。


                                   続く


 ご読了頂き、ありがとうございます。

 もしご意見がございましたら感想を、面白いと思ってくださったなら評価をお待ちしております。

 この物語の続きは、『望みへの旅路』という題名でこのサイトにて投稿していきますので、どうぞそちらもよろしくお願い致します。

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