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7 イケメン令嬢は周りを大切にするから大切にされる

 アンナ姫は、私がアンナ姫を殺すと思って必死に逃げるが、勿論私の目的はそのようなことではない。

 私は、周りの衛兵が村人との戦いに必死になっていることを確認すると、ヘンリーとマーガレットに近づく。

 そして、先にマーガレットの断頭台の首部分の固定を外すと、解放する。


 涙をぽろぽろと零しながら私に抱き着きたくてそわそわしているマーガレットを抑えて、ヘンリーも同様に解放した。


「……死んだかと思った」

「死んだかと思いましたわ!」


 似たようなことを言う二人。なんだか前よりも仲良くなっているような気がする。


 さて、次は衛兵と戦う村人の安全性の確認。

 ただの農家である村人よりも、衛兵の方がずっと強い。しかし、殺す気で来る村人に対して、衛兵の方は殺すことを躊躇(とまど)っているようだ。

 村人の中には、怪我をしている人間もいる。だが、死者は出ていないようだ。


 私は、皆に声をかける。


「皆! 目的は達した! ここは逃げ……」

「何をしておる」


 突如響く、低い声。

 この声を私は、聞いたことがある。

 私だけじゃない。きっとこの場にいる誰もが聞いたことのある声だろう。


 何故ならば、その声は……国王の声だったから。



 振り返れば、高級感のある服装をした、髭を生やした威厳(いげん)のある男……この国の、国王がいた。

 国王の周りには、先程までこの場にいた衛兵の、倍の数の衛兵が国王を守っている。


「パパ!」


 私から逃げている途中で国王の姿を見つけたアンナ姫は、ぱあっと明るい顔をする。

 その後、私を見ては勝ち誇ったように、にやりと笑う。


 確かに、この衛兵の数では逃げることは難しい。


 マーガレットが、私の袖をぎゅっと掴む。

 ヘンリーは、私を庇うように私の前に出て、国王とその周りの衛兵を睨む。



 国王は続ける。


「何をしておる……。アンナ!」

「……へ?」


 先ほどの勝ち誇った顔から一転。きょとんとした表情になるアンナ姫。

 国王は、アンナ姫に近寄って蔑むような目線を送る。


「私がお前から聞いた話と随分(ずいぶん)違っているじゃないか。無理矢理男を手に入れようとし、冤罪でその恋人を貶めて、罪のない村まで潰そうとしたそうじゃないか」

「それは……その……」

「お前は今日から、この国の姫ではない! 今日からお前は罪人だ!」

「そ、そんな……!」



 涙ぐむアンナ姫。国王が周りの衛兵に命じると、アンナ姫は衛兵に捕らえられる。


「なんで……なんでよ!? 私は姫よ! 私は国民を……自由に扱える存在なんでしょ! 思い通りに動かないなら殺して当然でしょ! 皆、私をもっと大切にするべきでしょ!」

「それは違う」


 私は否定し、革靴の音を鳴らしながら、アンナ姫へと近づく。


「人は、大切にされた人間を大切にしたいと思う生き物だ。お前が今まで大切にされてきたのは、国王が国民を大切にしてきたから。今や、国王の努力の意味を失くす程、お前は皆を無碍(むげ)にしてきたんだ」


 私の言葉に、アンナ姫は歯を噛み締める。

 私は続ける。


「お前は、ヘンリーとマーガレット。どちらかを選べないならば、どちらも大切じゃないと言ったな。あの時は、答えられる状況ではなかった。先程は、二人共大切じゃないと嘘をついた。だが、今なら本当のことを言える」


 私は背後を向いて、立っているヘンリーとマーガレットを、ぎゅっと。強く抱きしめた。


「私はどちらも大切だ。決してどちらも蔑ろにしたりしない。二人共、愛している」


 その言葉に、ヘンリーは照れて目を反らし。マーガレットは照れながらも笑顔を向ける。

 アンナ姫が、声を上げる。


「何よ……何なのよ! あんたら何なのよ! 何なのよおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 叫び声は徐々に遠くなっていく。振り返れば、アンナ姫が暴れていたので衛兵に連れていかれていることが分かった。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 それからというもの。


 私とヘンリーとマーガレット。三人の名誉は回復した。

 私達の罪が冤罪だったと知れ渡り、姫により貴族としての立場を失墜(しっつい)させられた可哀想な子達との同情的意見もある。


 私達は、家族から貴族に戻る選択肢を提示された。


 マーガレットは、貴族に戻ることを決めた。


「お兄様が寂しそうなので、仕方がなく戻りますわ」


 とのこと。それを聞いた兄上の答えは……。


「有り得ない。俺が寂しいわけないだろう。寧ろ広々とした家で悠々と暮らしていたところだ。戻ってくるなんて迷惑極まりない」


 と返答したが、マーガレットが家に戻ると兄上の手作りのリンゴパイが用意されていた。リンゴパイは、マーガレットの好物である。



 続いて、他の皆はと言うと……。


 赤髪の男と、眼鏡の四角い男は、またどこかで依頼を受けているらしい。眼鏡の男が自分の意見を少しずつ出すようになったことで、赤髪の男もその尖った性格が少しずつ収まってきている。と、風の噂で聞いた。



 アンドレはなんとあれからマーガレットに惚れたらしく、日々求婚しては本気で殴られている。マーガレット曰く、「アンナ姫との婚姻がなくなったから、自分の地位を上げるために私に求婚しているのですわ」とのこと。

 真意は本人しか分からない。



 そして私とヘンリーは……。


 また、村で暮らしている。

 ハリーも一緒だ。


 私達は、この村が好きだった。


 この村での暮らしが好きだった。

 この村の人達が好きだった。

 そしてこの小さな馬小屋でヘンリーと暮らすことが、好きだった。


 私はヘンリーが購入した指輪を彼に返した。


 いつか、彼が私にその指輪を渡す時が来るだろう。

 私はその日を、その時の彼の表情を、言葉を。

 楽しみにしている。

この度は本小説をお読みいただき誠にありがとうございます。

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