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20話〜変わらぬ憧憬〜



「え?お茶会ッスか?勿論いいですよ!」


庭園に行くと丁度テッドが倉庫に道具をしまっているところで、お茶会に誘うと快くOKしてくれた。

邪気のない太陽のように明るい笑顔を向けてくれるテッド。いつも貴方の笑顔には癒されています、ありがとう!

時折地雷スイッチを押してしまうせいなのか、影を帯びた表情を浮かべるフィンレイとは違いテッドはいたでも元気で快活だからあまり遠慮もしなくて良いし楽だ。主従関係というほど重い関係ではなく所謂先輩後輩なようなそこそこ気安い関係を築けているのもグッドポイントだ。


「そうだ!一生懸命育てていた薔薇が咲いたんスよ〜。皆様に見てもらいたかったんですよ!そこでお茶会とかどうっスか?」


ぽん、と何かを閃いた!とでも言いたげな仕草をした後テッドは瞳を輝かせながらそう提案をしてきた。

テッドが育てた薔薇……。是非見てみたい。テッドはもても腕の良い庭師で、また花についても詳しく研究熱心だから。うちで開いたお茶会などに来て下さる令嬢もいつも庭の花々を褒めてくれている。

この庭を作ったのは私じゃなくてテッドなんだけど私まで誇らしくなってしまう。


「いいわね!テッドが育ててくれるお花は全部綺麗だからとても楽しみだわ」


勿論だ、と即答するとテッドは照れくさそうに、けれど確かに嬉しそうに顔を綻ばせた。


「僕も、テッドさんの育てるお花、それに作られる庭が大好きです。姉様と話すキッカケにもなった大切な大切な素晴らしい庭園です……!」


フィンレイははにかみながら私の言葉に賛同するように花を、そして庭園を褒め称える。

くっ、可愛い……!!フィンレイのはにかみ笑い、可愛すぎる。激レアだ。もしこれがスチルだったら絶対に私はロック画面に設定していた。そしてスマホを見る度に癒されていた。

この世界にカメラがないのが悔やまれる。いや、あったとしても笑った途端突然シャッターを切る姉は嫌か。


「そうですね、お茶会に来られるご令嬢もいつも褒めてらっしゃりますよ」


アリシアもこくり、と頷いてそう言うがその声音はどこか平坦で、作られた笑みもやはり何処か硬い。


「いや〜、急に皆さんにお褒め頂くと照れちゃうっスよ!けれど、そんなふうに思っていただけてるって言うのは純粋に嬉しいっス!これからも皆さんを満足させるために精進していきますよ〜!」


それに気が付いたのだろうか、テッドは一瞬アリシアを心配げに見るも直ぐに快活な笑顔で拳を天に突き出す。テッドの庭作りの才能だけでなく、こういう気遣いが出来るところを私は尊敬している。

心の中でテッドにありがとう、とお礼を告げて私たちはテッドの案内で茶会の場所へと向かった。


辿り着いた先には、美しい薔薇をメインとして様々な植物が咲き誇っていた。その中心にパラソルつきの白いテーブルと椅子が置いてある。

あそこでお茶会をするだなんて、お姫様にでもなった気分になりそうだ。

私は胸をドキドキさせながら、テーブルに近づいていく。

椅子は少し多めに置かれており、私たち4人全員が座れた。テーブルにフィンレイが作ってくれたお菓子を置いてからあることに気が付く。

そうだ、お茶がない。

お茶会をしようといっていたのにお茶がないなんて。

私は自分のミスに呆れかえり、溜息を零した。


「お茶会をするって言っておきながらお茶を用意するのを忘れていたわ。言い出したのは私なんだから私がいれてくるわね」

「いいえ、お嬢様にそんな事させられません。わたしがいれてきますよ。皆様何がお好みですか?」

「え?いいわよ!アリシアは今日は客人なんだからゆっくりしておいて!」


そう主張するもアリシアは納得がいかないような表情をしている。

メイドとして、やはり客人という立場だとしてもお嬢様にお茶をいれさせる訳にはいかないのかしら。

どうも前世の記憶を思い出してからお嬢様としての意識が少し薄れているように感じる。

まあそれもそうよね。元々令嬢として生きていた時の記憶も沢山あるけれど前世の記憶も多い訳だし。庶民意識が芽生えてしまうのも無理ないわ。


「本当に、いいのよ。今日は特別なんだから」

「……お嬢様……、いつも紅茶を飲まれる時はわたしに仰って下さっていたのに」


貴族の令嬢たるものいつでも令嬢意識を忘れないことは大切なのかもしれないけれど、今日は自分がみんなをもてなしたかった。

いつも紅茶を美味しくいれてくれるアリシアに、私もアリシアの腕には及ばなくても紅茶を差し出してみたかった。普段は中々出来ないことをしてみたかった。

けれどそれは間違いだったのだろうか。アリシアにとって、全く嬉しくない事だったのだろうか。

アリシアは顔を曇らせて、俯いた。


「お嬢様は……変わられましたよね。

フィンレイ様という弟君が出来たという影響もあるのでしょうか。最近どのような事にも積極的になられて……。それは、確かに良い事だと思います。けれど、わたしきっと寂しいんです。なんだかわたしのよく知っているお嬢様が離れてしまうような気がして……。わたしの事を頼りにしてくれなくなるんじゃないか、と思って……。ただの使用人としてこんな傲慢な感情抱くなんて間違いですよね……申し訳ございません」


アリシアは俯いたまま話し始める。

ぽつりぽつり、と聞き取りにくい声量で紡がれるアリシアの本音。

なにひとつ聞き逃してはいけないと、神経を研ぎ澄ませてアリシアの声に耳を傾けることに集中する。

そして明らかになった。

アリシアは私の急な変化に戸惑っている。そして寂しさを感じているんだ。

アリシアは生まれた時から私に仕えることになっていたメイドだ。幼い時からずっと傍にいた。

少し年上のアリシアが面倒を見てくれていた。

私が出来ないこともアリシアは容易くやってみせて、私はアリシアに憧憬の念を抱いていつかアリシアに追いつきたいと淑女教育に励んだ。

アリシアは私の目標だ。それは、昔だけでなく今も。

アリシアは引っ込み思案だった私が突然お茶会を開きたいと言ったことに驚き戸惑い、私が遠くに行ってしまうような気がしたのだろう。

それは、何もおかしい感情なんかじゃない。

誰もが持つ、当たり前のもの。使用人だからとか、そんなの関係ない。


「傲慢なんかじゃないわ。私が急に変わろうとするから驚いたのよね。私だって逆の立場だったらきっとそう思う。けれどひとつ確かなのは、絶対に私はアリシアから離れたりなんかしないってこと。アリシアは昔も今も、私の憧れで支えだから……。私は、フィンレイの良い姉になる事だけでなく、アリシア達の良い主になる為に今苦手なことを克服しようとしているの。アリシアが少しでも誇れる主人になる為に」


真っ直ぐにアリシアの方を見つめる。

いつの間にかアリシアは地面ではなく私の方を見ていて、視線が交差した。アリシアの瞳が私の言葉の真意を見定めるように、不安げに揺れる。


「……これからもそばにいてね、アリシア」


その不安をなくすために、私はにっこりと微笑んだ。

この気持ちが、伝わりますように。




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