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17話 ~ 追憶 ~

最初は、ヴェルノ視点。

後半から、アンジェリカ視点に戻ります。


杏奈は高校に通う至って普通の女子高校生だった。

家族構成としては、父、兄。

母は随分と前に家を出ていった。

父はその事に気を病んで、あまり家に帰っては来なかった。

だから兄と2人で生活していると言っても過言ではなかった。


性格としては、真面目で誠実。目立った事は好きじゃなくていつも裏方に回るような仕事を好んでいた。

大人しくて本や、ゲームをする事が大好きだった。あの頃は、【乙女ゲー】っていう物に嵌っていたらしくて、俺にもよくその話をしてくれた。


休日なんかはいっつもそのゲームをしていて、楽しそうに笑っていた。そんな姿を見るのが好きだった。


あんまり人を信用しない一方で1度信用してしまえば何処までもその人を信じる。疑う事すら知らずに。

……その性格が災いして、杏奈は殺されてしまった。

ある日、彼女の大切にしていた親友に。


何故殺されたのかは、分からない。

杏奈の親友は杏奈を堂々と殺した為直ぐに警察に追放され捕まった。

けれど、親友……否、殺人鬼は何故杏奈を殺したのか、という警察の質問に答えることはなかった。


ただただ大好き、大嫌い、愛して、と意味の分からない言葉を繰り返すのみ。

杏奈を殺した殺人鬼は精神を病んでいたのかもれしない。


……と警察は言った。


その後の事は知らない。

知れるはずが、ない。


だって俺が死んだから。


耐えられなかった。辛かった。苦しかった。この身が引き裂かれてしまうのではないか、という位の痛みが俺を襲って。


杏奈の後を追うように、俺は命を絶った。


だって、杏奈は俺の唯一だったんだ。

血の繋がった唯一の家族。

杏奈が死んで、俺がのうのうと生きていける訳が無い。そんなの誰が許しても俺が許さない。

俺は杏奈を守る役割を担っていたのに、それなのに何処の馬の骨とも知れない親友の皮を被った悪魔から彼女を守れなかった。


「ごめんね、杏奈。俺が、兄さんが守れなくて」



*****



話を全て、聞き終わり。

暫く私はなんにも言えずにその場で沈黙していた。

私は、杏奈。そして死んだ理由は前世の私の親友に殺された事。そしてヴェルノは……私の兄だ。母親に捨てられ、父親にも疎まれた杏奈のただ1人の本当の家族。


事実を知って、頭から霞が晴れていくように、記憶が少しずつ、ちょっとだけだけど戻ってくる。彼の話が本当の事だとそれが証明してくれた。

彼は……ヴェルノは正真正銘私の兄だ。


私がそっと俯いていた顔を上げると、此方を感情の読み取れない目で見詰めているヴェルノと視線が交わった。


「……兄、さん」


口から言葉が勝手に零れ出す。

兄さんだけだけれど、大切な人の事を思い出せたという嬉しさとか、その大切な人も此方に来ていた喜びとか、でもそれは彼が自殺していたからこそ転生出来たわけで、彼が杏奈の死のせいで自分を殺してしまったという悲しさとかやるせない気持ちとか。


一気に負の感情と正の感情が押し寄せてきて、可笑しくなりそうだ。


「兄さん、兄さん……っ!わた、私、私……!」

「……ホラ、ゆっくり。落ち着いて、喋って」


記憶の中にある、いつも私を優しい声で呼んでくれた兄さん。

いつも笑いかけてくれた兄さん。守ってくれた兄さん。

何故、何故忘れてしまっていたの?こんなにも大切で大事な兄の事を。

兄さんを忘れていた自分が許せない。


「ごめ、ごめんなさ……っ、私……、私、兄さんの事を覚えていなくて、思い出せなくて……」

「……いいんだよ。杏奈は悪くないだろ?」


嗚咽混じりに謝ると兄さんが戸惑いがちに背中をさすってくれる。

前みたいに、接してくれて嬉しい。

ヴェルノを兄みたいだと思っていたけれど本当に兄さんだったんだ。


こっちに来てから、明るく振舞おうとしていたけれど、ネガティブになったり落ち込んだり、悲しくなったりする事が多かった。

元の世界の自分や大切な人の事すら覚えていなくて、その癖ゲームの記憶だけは鮮明にある。

自己嫌悪した。冷たいヤツだって、薄情な奴だって。自分が嫌だった。


「大丈夫。今、思い出してくれたならそれで大丈夫……」


顔を見なくても兄さんが穏やかな微笑みを浮かべているのが分かる。

私を肯定してくれるのが嬉しい。心に温かさが染み渡る。


「……よく、頑張ったな」


―――刹那。

私の中でダムが壊れるかのように、涙が更に溢れ出す。

その言葉を聞いて、1番欲しかった言葉を与えられた私は。


「……あ、りがとっ、ありがとう……。わた、私……」


そっと顔を上げると、兄さんがいるんだって。

ああ、安心するな。


安心すると、何故だか眠くなってきてしまった。そういえば、もう遅い時間だった。ヴェルノが来ている所悪いけれど眠気には勝てない。私は睡魔に抗うことなく、深い深い眠りに落ちていく。

お日様を受けて、微睡むように。

久々に訪れた健やかな眠りが気持ち良かった。


「……おやすみなさい、兄さん」


一言、前世でも必ずしていたおやすみの挨拶をする。


完全に意識がなくなる前に、兄さんの声が耳に届いた。

多分、兄さんもおやすみと返してくれたんだろうなぁ……。




「―――思い出してくれてありがとう、杏奈



コレでアイツは殺せたよな……?」



すっかり寝てしまった私は、そんなヴェルノの……兄の不穏な言葉を聞くことは無かった。



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