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保護者様の本気

 ――ちゅっ。


 本当に、軽く触れる程度に……。めぐみはメデュノアにキスをした。

 初めて自分から異性にした口づけは、酷く甘い。

 どきどき高鳴る心臓は、とどまるどころか加速していくのに。ぎゅっと閉じたまぶたが、ふるふると震えた気がする。


「ん……」


 そっと唇を離し、めぐみは起きあがろうとするのだが――。

 ぐい、と。強い力で引っ張られて再びその唇を塞がれた。


「ん、んんっ!?」

「ん」


 突然のことに何が起きたのかすぐに理解はできなかったのだが、自分を抱きしめる腕に、めぐみは気付く。

 もちろんそんな人物は、メデュノアしかいない。


 ――キス、されてる……っ!?


「ん、のぁ……んぅ」

「――サンキュ、めぐみ」

「……ふぁっ、何、するのっ」


 最後のぺろりと唇を舐められて、メデュノアがくくっと笑う。

 元の体に無事魂がもどったようで、ベッドから起きあがる。

 長い白銀の髪に、金色の瞳。めぐみはよかったと思うよりも何よりも先に、キスをされたという事実に何も考えられなくなってしまう。

 自分から触れるだけのキスをする予定だったのだから。


 どうして、という疑問がめぐみのなかをくるくるする。

 けれど、同時に――。


 ――嫌じゃ、なかった。


 耳まで赤くして、キスをされた口を隠すように手で覆う。少しだけにじむ涙は、嫌悪感ではなくて羞恥からくるものだった。


「嫌だったか?」

「なっ……う、うぅ……」


 嫌ではなかった。

 なんて。そんな恥ずかしいことを、素直に言えるめぐみではない。どう答えたらいいだろうと考えてみるが、まったく答えが出てこない。

 言葉にならない言葉を発しながら、意地悪を言ってくるメデュノアを睨みつける。


「あー、もう。そんな泣きそうな顔をするな」

「し、してないもん。だって、ノアがいきなりするから……っ!」

「そうだったな。もうしないから、そんな顔をするな」

「……っ」


 メデュノアの言葉にめぐみが驚けば、にやりと口元をあげられる。


 ――はかられた!


「なんだ。またして欲しいのか?」

「違うもん! 私は一生懸命ノアを助けようと思ったのに……っ」

「ああ、そうだな。ありがとう、めぐみ」


 ふるふると震えるめぐみを抱きしめて、メデュノアがあやすように背中を撫でる。


「ごめんな、めぐみ」

「ノア……。違う、もとはといえば、私がうさちゃん人形にノアを召喚しちゃったのがいけないんだよ。今まで不自由な思いをさせたり、私、面倒ばかりノアにかけてたよね……」

「そんなこと、気にするな。もともと、お前は異世界から召喚された被害者だろう?」


 自分が悪いのだと言い張るめぐみと、そんなことはないというメデュノア。

 セレイツに召喚をされためぐみは、確かに最大の被害者だろう。


「それにな、めぐみ」

「?」

「俺はめぐみと旅をしたの、結構楽しかったぜ」

「ノア……」


 だからそんなに辛そうにするなと、メデュノアはめぐみを慰める。小さく「ありがとう」と言って、めぐみはぎゅっとメデュノアにしがみついた。

 この保護者様のふところは、いったいどれだけ広いのだろうか。


「私も、ノアと一緒で楽しかった。ノアがいなかったら、どうなっていたか……」

「めぐみ……」


 セレイツと結婚をさせられていただろうか。

 それとも、魔物に殺されていたかもしれない。

 いや――リザレクションを多用して、命を落としたかもしれない。


 そう考えて、めぐみの背にぞくりとしたものが走った。


「ううぅ、ふ、くぅ、うわあぁぁぁん。ノアが、元に戻ってよかったよぉ」

「ったく。俺は大丈夫だって言っただろう? ほら、よしよーし」


 安心したのだろう。

 ずっと我慢していた涙があふれ、メデュノアの前で泣きじゃくってしまう。恥ずかしいという思いはあるけれど、止まらないのだから仕方がない。

 出会えた人が、メデュノアでよかったと――めぐみは心から感謝した。


 これからは、日本へ帰るための手段を探さなければいけないのだ。

 今まで以上に大変になるのだから、ないてばかりはいられない。そう、めぐみは自分に喝をいれる。

 ――そう思ったのだが。


「なぁ、めぐみ」

「うん?」

「好きだ」

「……………………え?」


 保護者様に、告白をされてしまいました。











 ◇ ◇ ◇


「めぐみさん、いい加減メデュノアと結婚をしたらどうですか? 嫌い、というわけではないんでしょう?」

「セドリックさん……。そりゃあ、ノアのことは……好きですけど。そんなこと、そう簡単に決められないです」


 めぐみは魔王城で暮らし始めて一ヶ月。

 この二人のやり取りは日課となりつつあった。


 めぐみは、日本に帰りたいのだ。

 もちろん――メデュノアのことは大好きなのだけれど、方法があるのであれば一度日本へ帰りたいのだ。

 それでこちらに帰ってくる、ということを考えている。もちろんその方法は未だに不明ではあるのだけれど。


 セドリックはめぐみが日本へ帰ろうとしているなんて、みじんも思っていない。

 毎日のように図書館で魔法のことを調べているのは、たんにこの世界のことを知りたいと思っているからだと解釈をしている。

 けれどメデュノアは、めぐみのその思いをきちんと理解しているから、あの告白以来なにも言わない。必要以上に触れてもこない。

 いつもの保護者様である、メデュノアだった。


「めぐみ」

「ノア!」

「セドリック、お前も毎日よく飽きねぇなあ……」


 呆れたような顔をしながらやってきたメデュノアは、セドリックへ資料を渡す。

 攻め入ってきた人間たちに関するもので、魔王であるメデュノアのサインがしてある。以前待ちが襲われたときの、事後処理だ。


「やっと終わり?」

「ああ。もう、人間がやすやすと攻め入ってはこないだろう」

「よかった……」


 メデュノアは国民を守るために、聖魔条約を結んだのだ。

 これは人間と魔族が結んだもので、互いに戦いを仕掛けないというもの。ただし、魔物に関しては魔族でコントロールをすることでができないので除外だ。

 有効期限は五年だが、上手く運べば継続することができるだろう。


「これで俺も落ち着いたから――やっと、めぐみをくどけそうだな?」

「え……っ!?」


 ――保護者様の口からおかしな言葉がもれている。

 なんて、半笑いになってしまうめぐみ。


 めぐみもメデュノアのことが好きなのは、まぎれもない事実だ。

 ただ、日本のことがあるから頷けないだけで……。


 ――本気の保護者様を相手に、勝機はあるんだろうか。

 いや、ない。と、瞬時に判断をしてしまう自分が情けないとめぐみは思うが、仕方がない。


 これからの生活は、やっぱり大変そうだ――……。

完結です。

ここまでお付き合いいただきまして、ありがとございました。

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