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母の羽の下で――ある雛の話  作者: Kentarou Tou / Kentarou Theater


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1/10

第一話「羽の下」


---


最初に知ったのは、温かさだった。


暗かった。


何も見えなかった。


しかし温かかった。


その温かさが、世界のすべてだった。


---


温かさには、重さがあった。


上から来る重さだった。


押しつけてくる重さではなかった。


包んでいる重さだった。


その重さの中に、音があった。


規則正しい音だった。


どくん、どくん、という音だった。


雛はその音を聞いていた。


聞き続けていた。


その音が止まると思わなかった。


止まるものだとは、知らなかった。


---


揺れることがあった。


温かさが揺れた。


外から何かが来た時だった。


風が来た時。


雨が来た時。


別の音が来た時。


揺れるたびに、温かさは離れなかった。


包んだまま、揺れた。


---


雛は、温かさの中で眠った。


眠って、また目を覚ました。


目を覚ましても、温かさはあった。


それでまた眠った。


それだけだった。


それだけが、最初の世界だった。


---


ある時、温かさが少し動いた。


離れた。


ほんの少しだけ、離れた。


冷たさが来た。


小さな冷たさだった。


雛は声を出した。


どんな声を出したか、雛には分からなかった。


ただ、何かが出た。


すると、温かさが戻ってきた。


また包まれた。


雛は声を出すことをやめた。


温かさが戻ってきたから。


---


それで分かった。


声を出せば、温かさが戻る。


声を出せば、離れたものが戻る。


雛はその法則を、言葉なく知った。


体で知った。


---


外の音が変わる時があった。


明るさが変わる時があった。


暗くなる時と、少し明るくなる時があった。


しかし温かさは変わらなかった。


暗くても明るくても、温かさはあった。


それが世界のすべてだった。


---


(第一話 了)


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