2 告白
教室には、人が閑散としている。のんびりとした時間帯、昼休み。
凪は、本を読んでいた。特にやることもない。だが、人に話しかけることも得意な方ではない。
「今何の本読んでるの?」
美徳のよろめき、と答えて顔を上げる。すると、クラスメイトの『柏木日向』が不思議そうにこちらを見つめていた。
凪は、バツの悪そうに視線を逸らす。だが、日向はうーん、と考える素振りをした。
「三島……てつお?」
「三島由紀夫だと思うけど、それ」
「そうなんだ。凪君は難しい本を読むよね。片里さんもいつも本読んでるし。二人とも三島由紀夫が好きなんだね」
「いや、片里さんが好きかどうかは分からないと思う……」
ふわぁ、と日向が眠たそうにあくびをする。
時間を確認すると、授業まで残り七分。一度トイレに行こうと席を立つと、教室内の片隅から視線を感じた。
振り向くと、水菜ともう一人の女子が、こちらを見つめていた。
視線が合った水菜は、すぐに顔を背ける。だが、もう一人の女子は、手を振ってきた。
凪は、あはは、とぎこちない笑顔を返して、トイレへと向かった。
男子トイレから出ると、何やら廊下が騒がしい。生徒の群れで、廊下が一面溢れかえっている。
少し近寄ると、生徒たちは凪の隣のクラスに集まっている模様。彼らの中心には、二人の生徒が。
一人は、友人たちに囲まれた女子生徒。もう一人に視線を送る。
すると、凪の眉根がぴくりと動いた。背丈が高く、がっしりとした体型。だが、大人げな雰囲気を持つ男子生徒――『月島耀』だ。
取り巻きの生徒たちからは、頑張れーといった声が飛び交っていた。
凪は、自分のクラスに戻ろうとしても生徒の群衆が邪魔で戻れない。
「その……つ、月島先輩のこと。一年生の時からずっと見てましたっ。先輩の走る姿、すごくかっこよくて……好きでした」
嬉しげな声援が、辺りに撒き散らかる。
一方、注目の的である耀は、静かに女子生徒の言葉を受け止めている。
「付き合ってください……!」
生徒たちの声が、一斉に止む。月島耀は、硬い唇を開いた。
「申し訳ない。好きな人がいるから」
「……それって、水菜先輩だったり……しますか」
「それには答えられない。ごめん」
一気に重い空気感が、辺りに落ちた。友人に背中を押されながら去っていく女子生徒。
それに合わせて、生徒たちの集まりも散っていく。
クラスに入ると、水菜の視線が廊下に向いていた。丸い瞳が、不安げに揺れている。その視線の先には、耀が。
ふー、と息を吐いた水菜に、友人たちがニヤニヤと話しかけている。
「良かったね、水菜。後輩に取られるところだったじゃん」
「取られるとかじゃ、ないし。そもそも彼氏でもなんでもない」
凪は、本を開きながら内心で思った。
――見たくなかった。
綺麗だと思ったのに。その瞳が捉えているのは、僕ではないのだから。
視線を手元に戻す。だが、残りの時間では、次のページを捲ることはできなかった。
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