25 君のおかげで
新年度を迎え、高校へと進学した。知り合いは誰もおらず、初めは馴染みずらかった。だが、いつの間にか話すクラスメイトができて、休み時間を共にする友人も増えていった。
桜も散る季節。入学シーズンが過ぎた今でも、制服の袖には違和感を覚える。
中学生活が懐かしいと思う一方、あれから三人とはたまに連絡を交わす程度で、誰とも会ってはいない。
そういうものだと思う。小学生の頃の友人とは縁が切れたように、自然と中学校の仲間とも距離が離れていくのだろう。
「……鈴川君?」
駅のホームで電車を待っていると、背後から声を掛けられた。
振り向くと、そこには見知った少女の姿が。
「片里さん……?」
「久しぶりだよね。卒業式以来?」
くしゃっと顔を緩めた片里さんは、微笑みを浮かべている。僕は、目を丸くして口を開いていた。
「うん、久しぶりだね。第一高校はどんな感じかな。月島君とはクラス一緒になった?」
「ううん。離れたけど、部活一緒だから毎日顔合わせてるよ。彩葉とは会ってないけど……鈴川君の方は?」
「ぼちぼちかな。でも、この高校を選んで良かったとは思っているよ」
そっか、と髪の毛を押さえる片里さん。
若干の沈黙。電車のアナウンスがスピーカーから音楽とともに流れ出す。
こうやって普通に話せるのは、自分でも少し意外で驚いた。中学校の頃は、あんなにも苦い想いで過ごして来たのに。
「私反対側だから行くね」
「……待って」
不思議そうに首を傾げ、足を止める片里さん。
自分でも、なぜ呼び止めたのかは分からない。
――分からないけど。ここで終わらせちゃ、ダメな気がして。
「月島君も含めて5人でさ、また会わない?」
今振り返ると、心の底で強く思うことがある。中学最後の一年間は、僕にとって辛くて、苦しくて、でも楽しかったということ。
世間で言うところの、青春という言葉が当てはまるのだろう。
後悔なんて、一つもなくて。沢山泣いたし、辛い思いもしてきた。でも、同時に多くのことを学んだ。
そんな人達だからこそ、縁を切らせたくなくて。
「……っうん! 私もみんなと会いたいな」
卒業式の日は、もう会えないかも知れないと思っていた。
後悔のない人生なんて、存在しないと思う。だからこそ、僕は一つでも悔いの残らないよう生きていきたい。
そんなことを教えてくれたのは、目の前にいる片里さんや、赤沢さんで。
「それじゃあグループの方に連絡送ってみるね」
今の進路に進んだきっかけも、みんなのおかげだから。やりたいことなんて、将来のことなんて何も決まっていない。
でも、自分がしたいことを、貫いてみるよ。
電車の警笛が、ホームを駆け抜ける。じゃあね、と片里さんの姿が扉の向こうに消えた。
高校生活は、まだ始まったばかり。
「……僕も、陸上部見学してみようかな」
このまま、走り続けてみるよ。
発車の合図が鳴る。片里さんを乗せた電車が、ホームから離れていく。通り抜ける突発が、僕の袖を掴んで連れ去ろうとしてくる。
舞い上がられた桜の花びらが、肩へと降り立つ。
春も終わり、夏の息吹きが近付いている。振り落とされないように、しっかりと僕はローファーの踵を鳴らす。アスファルトが波打つ硬い音を、胸の中に仕舞い込んだ。




