24 始めさせてくれて、終わらせてくれて。
体育館での式典、担任教師とのホームルームも終わりを告げ、玄関へと移動。外に出て外観を眺める。
――この景色も、今日が最後。新年度からは、今の仲間とは別れ、新たな仲間と出会う。
春の涼しげな風が、凪の髪をなびかせる。
「途中から答辞見てなかったよね。怒られなかったのかい?」
「どうせ最後だし、適当でも大丈夫だよ」
「なんか凪って変わったね」
薔薇を片手に日向が、話しかけてきた。ふふっ、と僅かに笑っている。
「どんな風に変わった?」
「少し顔つきがたくましくなった……いや、男らしくなったっていうかな」
「元々男だから当たり前じゃない?」
それもそうか、と納得げに頷いている。
「めちゃくちゃカッコよかったじゃん、答辞。あたしが育てた子供も立派に育ちましたな」
うんうん、と芝居げに首を縦に振る彩葉が、友人らと別れて近寄ってきた。背後には、涙ぐむ後輩たちの姿も。
「赤沢さんに育てられた覚えないんだけど」
「でも、本当に凪は変わった気がするよ」
「あたしも! 答辞挨拶を鈴川君がするって知った時びっくりしたもん。断らなかったんだって」
「名門私立の高校だよね? 第一とか第二は受けなかったって話聞いているけど」
「えー、鈴川君も一緒に第二行こうよー。柏木君とあたし付いてくるよ?」
あはは、と日向が困りげに笑いをあげている。周囲に目を向けると、目的の人物を捉えた。二人に断りを入れると、仲の良い男女に割って入る。
「月島君、少しだけ片里さんとお話ししてもいいかな……?」
「鈴川……あぁ」
おめでとう、とぎこちない笑みを浮かべられた。きょとんとする水菜を先導し、人気の少ない渡り廊下に辿り着く。
「卒業式の日に時間とっちゃってごめんね」
「ううん。鈴川君の答辞、私軽く涙出ちゃった……良かったなぁ」
「それは片里さんのおかげだよ」
え、と疑問符の声を水菜があげる。だが、凪は気にせず話を進めた。
人々の明るい喧騒けんそうが、校内に反射し、渡り廊下を木霊する。晴天の青空が、大海原のように大きく地上へと口を開けている。ひらひら、と緩かに宙を舞う桜の花びらが、手のひらへと乗っかる。
「それでどうかしたの? 珍しいよね、鈴川君が私に用あるなんて」
「……それは――」
あ、水菜先輩っ、という声とともに複数人の女子学生が、こちらへと近付いてくる。次いで、水菜の手を引き、どこかへ連れて行こうとする。
――この瞬間を逃したら、もう一生、伝える機会がないだろう。
口を開くと、乾燥した舌が、口内にまとわりつく。一瞬、言葉が出ない。だが、一歩踏み出すと、視線を離さず声を紡いだ。
「あ、あのね、今は……」
「――好き、だった。片里さんのことが……好きでした」
思わず固まる水菜に、女子学生たち。だが、刹那にして彼女らは何かを察して、どこかへ消えていった。
周囲の雑音が、鳥の鳴き声が、風の揺れる音すらも、何もかもが消失したかのような錯覚に陥る。
「ほんと、なの?」
「うん」
水菜は一旦顔を伏せると、頭を下げてしまう。次いで、顔を元に戻すと視線を逸らしながら呟いた。
「私なんか、人に好きって言って貰える人間じゃないのに……ありがとう。今まで辛い気持ちにさせちゃってたかな」
「……辛かったよ。でも、僕は片里さんのおかげで変われたから」
――この片想いを始めさせてくれて、終わらせてくれてありがとう。
胸元が嗚咽をあげ、目元が湿り出す。顔に春風を浴びる。頰から液体が流れていく感覚。
だが、自然と笑っていられた。
――僕の恋も、終わったんだ。
締め付けられる胸を押さえながら、制服の裾で涙を拭き取る。
「うわ、水菜ってば鈴川君いじめて泣かせちゃったの? 最低だっ」
「ち、違うって……そ、そうだよね?」
「……いじめられた」
「ちょ、鈴川君ってば!?」
「ほら間違ってないじゃん。水菜が悪いんだー」
彩葉の声に振り返ると、日向や耀まで立っていた。
「遅いからって月島君が気にして僕たちに声をかけたのさ」
「第一だよね、二人って。高校でもラブラブしちゃってさー?」
「言い方っ、彩葉……!」
折角だしさ、と彩葉が携帯を取り出す。集まって、と手招きしてきたので、凪や水菜が近寄ると、自撮りモードで全体を写した。
全員の手には、丸められた卒業証書が。
「最後なんだし写真撮ろ! 月島君も入って入ってっ」
数回シャッターが押される。彩葉が素早く携帯を操作したと思いきや、グループラインが追加され、そこに写真が送信されてきた。
――本当に、これでお仕舞いなのか。
「鈴川君は私立校なんだよね? 学校違っちゃうけど、頑張ってね!」
人形のような水菜の瞳が、笑顔に揺れる。
――みんなとは違う。でも、もう怖くない。勇気は、君から貰ったから。
携帯に目を向ける。撮られた写真の中の自分は、上手く笑えていた。
全員と雑談を交わしながら、校門前まで辿り着いてしまう。
もう一度、校舎に身を翻す。全て、思い出は心の中に。
桜吹雪が、五人を包み込む。空高くへと巻き上げられ、春の嵐は去った。ダンスを踊るように落下していく花びら。
五人はそれぞれ背を向ける。
――さようならは、少し寂しい。ならば。
また、いつの日か会えることを楽しみにして。
今回は、中学最終学年の一年を舞台にしてみました。
初恋を思い出して、著者は苦しみながら書き上げましたとさ……。
特に最後の方は、一度筆を投げ出しました。でも、完結できて凄く嬉しいです。
こうして私が作品を書きあげられるのも、読んでくださる皆様のおかげです。
大変感謝しております。ありがとうございました。
次回作は現在進行形で書いており、激重の恋愛ものを作れればなぁと思っております。
このあとラスト一話ありますので、見ていただければ幸いです。
最後よければ、感想や評価、ブックマークをしていただけると、著者が壁に頭突きしながら喜びます……!




