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好きな人には、好きな人がいて。  作者: 座闇 びゃく


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17/26

16 好きな人には。

「そ、そうだよね。僕の方こそごめん」


「ううん。でもやっぱり鈴川君って優しいね」

 

 えへ、とりんご飴を持った水菜が、躊躇いがちに笑う。その笑顔で、凪の冷え切った心も、じんわりと温かさが広がっていった。

 水菜が歩き出そうとした矢先。通りからはみ出てきた通行人か現れる。

 ぶつかった水菜は、下駄を鳴らしながら体勢を崩した。宙を舞う浴衣の裾が、ひらりと踊る。

 

「片里さん……っ」


 そばにいた凪が、咄嗟に片腕を掴む。もう一方の手で、前から水菜を抱き留める。

 下駄の甲高い音が止まる。水菜と視線が合うと、炎のように揺れる瞳がこちらを見つめていた。

 ふっ、と水菜が深く息を吐いた。通行人の視線を集めている。


「あ、ありがとう」


 水菜は視線を逸らすと、手を離そうとした。凪も、掴んだ手の力を緩めようとする。

 だが、引こうとする水菜の手に、力込めた。戸惑うように丸くした瞳が、凪を刺してくる。

 脳裏に掠めたのは、彩葉の姿。


『私、少し頑張ってみる」


 好きな人の手を繋ぐ。どれだけ、その手を取るために勇気が必要だったのだろう。

 ――僕も……このままは嫌だ。

 

「その、人多いし……手繋いだままにしない?」


 えっ、と水菜の瞳が揺れた。躊躇いがちに首が縦に動く。

 凪が、小さな手を取った。

 この手を離してしまえば、どこかに行ってしまいそうで。離そうと思えば、すぐに遠ざかってしまって。二人の距離感は、簡単で曖昧で。

 ――僕の片想いも、簡単に諦められたらよかったのに。

 このままずっと、この手が繋がっていればいいのに。

 ぎゅ、と指先に力を込める。口元が緩んでしまいそうになり、唇を固く閉じる。

 僅かに視線を横に向ける。水菜は、顔を下に向けて、つま先を見つめていた。

 その表情に、凪の指先がぴくりと痙攣する。

 横目見た水菜の瞳は、薄い水の膜の中で揺れていた。

 ――そんな表情、見たことない。

 ねぇ、なんで……。



■□■□




 神社のベンチに腰掛ける。凪が手に力を弱めると、自然と繋がれた手は解けた。

 

「せ、折角だしさ。二人で撮らない?」


「う、うん」


 水菜が小さく頷いた。携帯を構える凪だが、上手く二人分入る角度に調節できない。

 悔しげに目尻を縮ませる。

 くすり、と遠慮気味に笑う声。


「鈴川君って妙に不器用なところもあるよね」


 貸して、と携帯を水菜が構える。二人分の姿が入る角度に合わせると、シャッターを切った。

 

「あ、ありがとう……その、さ」


「うん?」


「今日の浴衣……き、綺麗だと思う」


「っ……あ、りがとう」


 視線を外し、垂れた前髪を指先で弄りながら、水菜が答えた。

 思わず、凪も視線を逸らしてしまう。

  

「片里……?」

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