16 好きな人には。
「そ、そうだよね。僕の方こそごめん」
「ううん。でもやっぱり鈴川君って優しいね」
えへ、とりんご飴を持った水菜が、躊躇いがちに笑う。その笑顔で、凪の冷え切った心も、じんわりと温かさが広がっていった。
水菜が歩き出そうとした矢先。通りからはみ出てきた通行人か現れる。
ぶつかった水菜は、下駄を鳴らしながら体勢を崩した。宙を舞う浴衣の裾が、ひらりと踊る。
「片里さん……っ」
そばにいた凪が、咄嗟に片腕を掴む。もう一方の手で、前から水菜を抱き留める。
下駄の甲高い音が止まる。水菜と視線が合うと、炎のように揺れる瞳がこちらを見つめていた。
ふっ、と水菜が深く息を吐いた。通行人の視線を集めている。
「あ、ありがとう」
水菜は視線を逸らすと、手を離そうとした。凪も、掴んだ手の力を緩めようとする。
だが、引こうとする水菜の手に、力込めた。戸惑うように丸くした瞳が、凪を刺してくる。
脳裏に掠めたのは、彩葉の姿。
『私、少し頑張ってみる」
好きな人の手を繋ぐ。どれだけ、その手を取るために勇気が必要だったのだろう。
――僕も……このままは嫌だ。
「その、人多いし……手繋いだままにしない?」
えっ、と水菜の瞳が揺れた。躊躇いがちに首が縦に動く。
凪が、小さな手を取った。
この手を離してしまえば、どこかに行ってしまいそうで。離そうと思えば、すぐに遠ざかってしまって。二人の距離感は、簡単で曖昧で。
――僕の片想いも、簡単に諦められたらよかったのに。
このままずっと、この手が繋がっていればいいのに。
ぎゅ、と指先に力を込める。口元が緩んでしまいそうになり、唇を固く閉じる。
僅かに視線を横に向ける。水菜は、顔を下に向けて、つま先を見つめていた。
その表情に、凪の指先がぴくりと痙攣する。
横目見た水菜の瞳は、薄い水の膜の中で揺れていた。
――そんな表情、見たことない。
ねぇ、なんで……。
■□■□
神社のベンチに腰掛ける。凪が手に力を弱めると、自然と繋がれた手は解けた。
「せ、折角だしさ。二人で撮らない?」
「う、うん」
水菜が小さく頷いた。携帯を構える凪だが、上手く二人分入る角度に調節できない。
悔しげに目尻を縮ませる。
くすり、と遠慮気味に笑う声。
「鈴川君って妙に不器用なところもあるよね」
貸して、と携帯を水菜が構える。二人分の姿が入る角度に合わせると、シャッターを切った。
「あ、ありがとう……その、さ」
「うん?」
「今日の浴衣……き、綺麗だと思う」
「っ……あ、りがとう」
視線を外し、垂れた前髪を指先で弄りながら、水菜が答えた。
思わず、凪も視線を逸らしてしまう。
「片里……?」
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