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3-12 囮

アレスの狙いは一つ──コア。

なんとか氷の魔術で足止めしたいが、アレスは手を緩めない。

ジリジリと後退していく。


「いい加減に諦めろ、バートン。

この場で棄権するか、大人しくコアを渡すか。

どのみちお前に勝ち目はないのだ」


「──っ、渡すもんか。それに棄権もしないさ」


 素手対剣ではどう考えても分が悪い。

しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。


(一瞬でいい。隙を作る)


エバンとメルバ、そしてハンナは他の騎士科のメンバーに身動きを封じられていた。

幸いにも皆、ルシエルに背を向けている。

ルシエルは唇を強く噛んだ。

賭けは一度きりだ。

勢いよくポケットから小さな玉を取り出し頭上へ放り投げ叫んだ。

 

 「光よ散れ」


玉が弾け、閃光が走った。

それは、先ほど錬金科のメンバーからもらった魔導具だ。

辺り一面を白く染め、その光はアレスをはじめ騎士科全員の視界に刺さる。

ルシエルは身を低くし、合図と共に目を閉じているメルバの元へ駆け寄った。


「メルバ」


ルシエルは、コアを差し出した。


「橋だ」


「……わかった」


二人のやり取りを見ていたエバンは負傷していない腕を振り上げ、力いっぱい叫んだ。


「吹き飛べー!!!」


エバンから放たれた風は刃となり、橋を塞いでいた丸太に激突した。

丸太が削れ、木片が空へ弾ける。

そして、エバンが握りこぶしを作った瞬間、丸太は粉々に砕け散った。


「エバン!」


「わかってる!任せろっ」


走るメルバの後ろをエバンが追う。

ルシエルはハンナの元へ行き耳打ちをした。

ハンナは頷き、ルシエルの隣りで自身の杖を握り、構える。

ルシエルは腰の袋を抱え込み、詠唱を唱えた。

橋の入口に氷の壁がそびえ立ち、再度入口を塞ぐ。

視界を取り戻した騎士科のメンバーたちは、ルシエルとハンナを睨みつけた。


氷の壁の向こう。

橋の上を走る二人の背中が、わずかに見えた。

男たちは一歩足を踏み出した。


「待て!」


アレスは冷静な声でメンバーたちを呼び止める。


「?」


騎士科の三人はアレスを見ている。


「やってくれるな、ルシエル・バートン。コアを囮にしたか」


アレスは腕組みをしながら唇を歪ませている。



*  *  *  *  *


メルバは橋の上を懸命に走っていたとき、轟音と振動が全身に伝わってきた。

メルバは振り返ると、橋の入口に大きな氷の壁がせり上がっている。

後方にはエバンも来ていて、腕を庇いながらそちらを見ている。

血は止まっていない。

エバンが肩で息をしているのが見えた。

メルバはエバンの所まで歩み寄った。

そして、ポシェットの紐を抜き取り、彼の腕にきつく巻いた。

さらに負傷していない方の腕を取り、なるべく揺れないように支えながら小屋を目指した。


後方で爆風が弾けた。

騎士科を引きつけているルシエルとハンナのことが気がかりだ。

やはりここは戻るべきか?

いや、せっかくルシエルが作ってくれた場面なのだから、無駄にするわけにもいかない。

迷っていると、エバンがメルバの手を握った。


「ルーシーなら大丈夫。ハンナのことも」


エバンの目はいつもと違って鋭い。メルバの鼓動が跳ねた。


「ちょ、ちょっといつまで手を握ってんのよぉ。

ま、まぁ、私のせいで怪我させちゃったんだからいいけどぉ」


「へへっ、ちょっと、魔力切れかな。

さっきので使い果たしちゃったから力が入らないや」


メルバは軽口を叩きながらもその手はひっこめなかった。

そのまま二人は前を向き、小屋へ急いだ。


(ちゃんと戻ってきてよね……)


*  *  *  *  * 


──ルシエルが閃光の魔導具を放ち、メルバの元へ駆け寄ったとき、

ルシエルはコアを差し出した。

メルバは動けなかった。

失ったコアの重みが、胸を締めつける。


「橋だ」


その一言で、メルバは理解した。

メルバは唇を噛み、コアを受け取った。──



 

ルシエルは空の袋を大事に抱えアレスを睨みつけている。

 

「どうやったって力じゃ君たちには勝てないよ。けど、僕らにも僕らなりの戦い方があるんだ」

 

ルシエルはポケットから杖を取り出して構えた。

ハンナも同様に。


「無駄な足掻きはやめておけ。大人しくコアを置いてこの場を去ればこれ以上は何もしない」


「いやいや、もうすでにコアを一つ潰されて、エバンも負傷した。

僕もそこまでお人好しじゃないからさ。黙って逃げるなんてできない」


ルシエルは唇を片方だけ持ち上げ、杖を強く握り直した。


「言ってくれるな。だが、いつまで強がりを言っていられるか見ものだぜ。

お前たちは小屋に向かってくれ。ここは俺に任せろ」


アレスは三人にそう言い放つと剣に魔力を込め出した。

ルシエルはすでに詠唱を終えている。


「ハンナ頼んだよ」


「うん、わかった。ルシエルも気をつけて」


ハンナはルシエルから距離を取り、詠唱を唱えて杖を振った。

すると走る騎士科の三人の後を追うように地面が波打ち、ぬかるみとなって彼らの足を掬う。


同時にルシエルは水の塊をアレス目掛けて放ち、アレスは剣から光を放った。

それは互いにぶつかり合い、衝撃音と共に弾けた。

ルシエルは次々と水を生み出し放出し、さらに左手には靄を生み出している。

さすがに力くらべでは騎士科には敵わない。

徐々に押されている。

だが、それも想定内だ。

ルシエルはタイミングを見計らって靄を最大限に広げてアレスに向かって放った。


靄が広がり、アレスを包む。

そして、ルシエルの掛け声に合わせて濃度が増し氷となりアレスの動きを封じた。


「ルシエル、こっち」


ハンナが茂みの影から顔を出している。

ルシエルは茂みに飛び込みハンナと共に道なき道を走った。


アレスを取り巻く氷は、すぐに破壊された。

ぬかるみに足を取られたメンバーも自力で脱出している。

しかし、どこを見てもルシエルの気配は感じられなかった。

アレスは地面に落ちている袋を拾い、鼻で笑った。


「やってくれたな。ルシエル・バートン」


アレスは何も入っていない袋を強く握り締め歯を食いしばった。

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