3-13 鉢合わせ
後方で衝撃音が響く中、メルバとエバンは振り向かずに橋を渡りきった。
森の奥に小さな小屋が見える。
「エバン、傷は大丈夫? 小屋、見えたわよ」
「うん。オイラは大丈夫だから、急ごう」
メルバはエバンの歩調に合わせた。気が付けば後方での喧噪も消えている。
──(ルシエル達、どうしたかしら)
メルバは早く合流できることを願いつつ小屋の前に到着した。小屋の壁は蔦に覆われている。メルバは窓から覗いた。中には魔法陣が青白い光を放ち、二本の杖が浮遊している。
「エバン、杖あったわよ」
メルバは扉に手を掛け、ゆっくりと開けた。人はいない。
静寂に包まれた室内はひんやりとした空気が漂っている。
「杖って全部で三本だったわよね? ってことは、一本はもう持ち出されてるわね」
「誰だろう? 早いな」
メルバは浮いている杖をつかみ、ルシエルから受け取ったコアをはめ込む。緑色に光るコアは、一度輝きを失い、やがて青い光へと変わった。あとは最終地点の湖までいけばいい。
エバンの傷のこともあるし、ルシエル達とも合流しなければならない。ここで待つべきか、それとも橋を戻るべきか。行き違い、なんてこともあり得る。こういう大事な時の判断はいつも誰かに任せていたメルバ。
エバンの判断に委ねる?
──(私が決めなくちゃ)
その時、扉がキーっと鳴いた。
「ルシエルぅ。待ってたわよぉ、もう。心配したじゃない……、あっ」
そこにいたのは、ルシエルではなかった。シャーロット率いる錬金科のメンバーだ。
「あら、早い到着ね。メルバ。ん? あなたたち二人なの?」
「ちょっとぉ、シャルじゃないのよぉ。じゃない、エバン行こう。こうなったら、先を急ぐわよ」
「え? ルーシーたちを待たなくていいのか? 二人もここに向かってきているはずだろ?」
「そのはずだったんだけど、シャルが来たから予定変更ね。シャーロット・リンデルを甘く見ちゃだめよ。エバン」
「あら、随分と警戒されているのね。私たち。安心して。杖も手に入ったことだしすぐにおいとまさせてもらうわ」
最後の一本を手にしたシャーロットは不敵な笑みを浮かべながら腰のポシェットに手を入れる。そして、小さな玉を取り出し、床へ落とす。
メルバが止める間もなかった。
玉は床に触れた瞬間、小さく爆ぜ、瞬く間に部屋中を煙で充満させた。その直後、バタンと扉の閉まる音がした。
「──ッ、なによこれ? 目が……」
「メルバ、大丈夫か? 外だ。部屋の外に出よう。ゴホッ、ゴホッ」
エバンはメルバを連れ、部屋の出口の方へ向かった。手探りでドアノブを掴み、ひねって扉を押した。しかし、扉は微動だにしない。
「クソッ、開かない! そうだ、窓。窓から出よう」
目を閉じたまま壁伝いに窓へと移動した二人。
「あー、もう! どうしてこんなときに風が使えないんだよ」
窓を開け、外の空気を必死に吸い込む。咳と涙は止まらないが、ようやく外に出た二人は、その場にへたり込んだ。煙が目がしみる。
「メルバ! エバン!」
遠くから聞こえる声はルシエルだった。
「ルシエルぅ、どこー? これ、どうにかしてー。コホッ、コホッ」
「二人とも大丈夫? 今、水を出すから目をよく洗って。それに、エバン。すごい傷じゃないか」
「へへへ。これくらい大丈夫だぜ」
「大丈夫な訳ないだろ? こんなに出血していてよく走れたな。今すぐに治すからそのまま動かないで」
ルシエルはエバンの治療を。ハンナはメルバのケアをした。
「いやぁ、やられたよ。メルバの言うとおりだった」
「一体何が起きたんだ?」
「後からシャルが部屋に入ってきてさ、何か玉を投げたと思ったらボワッと煙が出て、気が付いたら真っ白」
「だから言ったでしょ。甘く見ちゃダメって。とは言ってもこっちもなにも出来なかったけどね。あー、もう最悪。髪がバッサバサじゃないのよぉ」
「なぁ、メルバ。髪どころか、全身真っ白だぞ」
「なに言ってんのよ。 自分だって何よその恰好。でっかいネズミみたいじゃない。
って、ちょっと待って。ハンナもルシエルもなんでそんなに葉っぱだらけなの? え? うそ? ちょっとぉ。私たちが大変な時に何してたのよぉ」
ルシエルとハンナは道なき道を走り抜け、斜面を転がりながらやっとの思いで小屋までたどり着いた。
「何って、何も。ねぇ、ハンナ? あ、本当だ。すごい葉っぱだらけだよ」
「そういうルシエルだって頭にまでつけて、顔は真っ黒だよ?」
四人は顔を見合わせ、吹き出した。
「──って笑ってる場合じゃないか。シャルはもう湖に向かっているんだよね?」
「うん。オイラたちを煙に巻いたときに出て行ったからまだそう遠くにはいっていないはず」
「このままゴールさせるわけにはいかないね」
ルシエル、エバン、メルバ、ハンナ。それぞれが目を輝かせてお互いを見た。
「まだ、終わってない」
四人は、ゴールへ向かって駆け出した。




