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2-5 小さな嘘

 昼食後、四人は一度解散した。

メルバは、ある作戦を胸にルシエルの後を追う。


──(ルシエルの行きたいお店ってどこだろう? やっぱり古書店? それとも……)


「なぁ、メルバ。おーい、メ・ル・バ」


推理をしつつルシエルの後をつけていこうとした矢先、エバンが顔を覗き込んできた。


「え? ちょっ、ど、どうしたの?」


困惑気味にメルバは応答する。


「なあメルバ、さっきのパイって美味かった?」


「えーっと、そうね。お、美味しかったわよ……」


メルバはルシエルの姿を見失わないよう目で追いながら答える。


「ミートパイが一番?」


「──あ、あれ、ルシエルが、」


「やっぱりミートパイだよなぁ。そっかぁ、メルバもミートパイ気になってたのかぁ」


──(見失った。この食欲モンスター……! あっちには古書店はないはず。もう、ルシエルったらどこに行くつもりなのよぅ)


メルバはエバンを睨みつけ、大きく息を吐いた。


一方その頃、ルシエルはとある店の前で足を止めていた。周囲を気にしながら、店内をちらりと覗く。

華やかな髪飾りや櫛が並ぶ、女性向けの店だ。


──(さすがに入りづらいな……)


「あの、ルシエル?」


背後から声がした。

びくりと肩を震わせ、振り返る。そこには、不思議そうな顔をしたハンナが立っていた。


「なにしてるの?」


「ち、違うんだ。これは……その……」


言葉がうまく出てこない。ハンナは少し目を細めて、


「……ちょっと怪しいよ?」


「いや、本当に違うんだ。あの……」


ルシエルは事情を説明した。

冬休みに帰省する際、母と妹への土産に櫛を買おうとしていたことを。

話を聞いたハンナは、ふっと表情を緩める。


「それなら、早く言ってくれればいいのに」


そう言って、ルシエルの隣に並んだ。


「妹さんなら、少し華やかなものがいいと思うよ。お母さんには、こういうシンプルなのが使いやすいかも」


手に取って見せながら、自然に選んでいく。


──(へえ……)


横顔を見ながら、ルシエルは思う。

こんな風に話すハンナを見るのは、初めてだった。


「……ありがとう。助かったよ」


二つの櫛を手に、ルシエルは少し照れくさそうに言った。


「ありがとう。ハンナがいてくれなかったら店の前を何往復もして結局買えず終いだったかも。

けど、ごめんね。時間使わせちゃったね。ハンナはどこか行くところあったんでしょ?」


「いいのが買えてよかったね。あ、わたしは古書店に行こうと思っていただけだから大丈夫だよ。時間はたっぷりあるし」


「そっか、けど、古書店は反対の通りだよ?もしかして道間違えた?」


「──え? あ、うん。み、み、道、間違えちゃったみたい…」


ハンナは俯き、手で服の裾をくしゃっと握った。

ハンナの耳は真っ赤になっている。


「僕もこの後古書店へ行くつもりだったんだ。一緒だね」


顔を綻ばせながら言うルシエルを見たハンナは頬を赤く染め小さく頷いた。


古書店は露天ではなく通常営業をしている。

店内に入ろうとした時、チリンと鈴の音が二人を優しく包んだ。

落ち着いた空気の古書店だった。

ルシエルは以前から気になっていた、薬草図鑑と妹のために文芸書を買った。

ハンナはゆっくり店内を見て歩き、気に入った数冊をカウンターにいる店主に渡した。


「──冬にここで朗読会をやるんだ。こんな店だから小規模だけど。

暖かい飲み物も出すのでよかったら」


店主は静かにチラシを差し出した。

ふたりはチラシを受け取り、本にはさんだ。


集合の時間まではもう少しある。

ルシエルはハンナに「どこかで座る?」と聞くと空いているベンチを探す。

途中で飲み物を二つ買い木陰のベンチに腰を下ろし、一つをハンナに渡した。

ハンナが代金を払おうとするがルシエルは受け取ろうとせず、

「じゃあ、いつかご馳走してくれればいいよ」と快活に笑う。


「あ、そうだ。これ」


ルシエルは一枚の栞をハンナに手渡した。


「え?」と困惑しているハンナにルシエルは


「さっきの古書店で見つけて買ったんだ。櫛を見てくれたお礼に」


恐縮しているハンナにルシエルは少しはにかみながら頭を掻いた。

両手に乗せた朱赤の革製栞はほんのり艶が出ていて、やさしい色味がハンナの心を温めた。

ハンナは「ありがとう」そう言って本に挟み膝の上に本を置いた。


 ノエル・フロストは友人エイドリアンにアベルと、食べ歩きをしている。

流石は広大な城下町、朝から来ているのにクラスメイトには誰にも遭遇しない。

陽もだいぶ傾きかけてきて歩き疲れた三人は、どこか休める場所を探すがなかなか見つからない。

そんな時アベルが、


「なぁ、あれってバートンとクレイリッジじゃない?」


と木陰のベンチを指差す。


口の中に苦味を覚えたノエルはそれを否定するような目でそちらを伺った。

しかしそこには確かに青髪の少年とおさげにした少女が笑っていた。


──(なぜ二人きりなんだ……!)


ノエルは胃が縮むのを実感したが「き、気のせいだろ?」とアベルに言うが、


「いや、あれはどう見てもバートンとクレイリッジだよ。

よーく見てみろよ。へー、あの二人そうだったんだぁ」


ニヤつくエイドリアンに対してノエルは牙を剥きながら


「そんな訳ないだろ! だ、第一あの二人がつ、つ、付き合っているわけないだろ⁈」


「何ムキになってんの? それに、別にお前には関係なくない?」


エイドリアンとアベルの意見に、苦虫を噛み潰したような顔で「ムムム」と唸るノエル。


──(おのれルシエル・バートン。お前など小石が靴の中で転がって常に嫌な思いをすればいいのだ)


と唇を震わせながらルシエルを睨みその場を後にした。


*  *  *  *  *


歩く人の影がだいぶ伸びてきた頃、鐘の音が街中に響き渡った。

ルシエルとハンナは待ち合わせ場所の噴水へ向かうと、すでにエバンと、

見るからに不機嫌そうなメルバが腕組みをしながらこちらを見ている。


「あれ?二人一緒だったの?」


というエバンの言葉に、過剰なほど反応するメルバを見たハンナは言い訳を必死に考えていたが、


「そこでバッタリ会ってさ」


とルシエルが咄嗟の嘘をつき、四人は帰りの馬車の待つ方へと向かう。


そして、太陽は街の奥に消え、あたりはオレンジ色に染まりはじめた頃、馬の蹄鉄の音が近づいてきた。

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