2-1 対魔回避実習①
そよ風に揺れる木々がさらさらと音を立て賑わっている。
生まれたての雛鳥がちぃちぃと鳴いており、
母鳥が戻ってくるとその声は一層大きくなった。
窓から流れ込む風が頬を撫で、髪を揺らして通り過ぎていく。
いつもより早く目覚めたルシエルは窓を開けて朝の新鮮な空気を部屋に取り込んだ。
──(たまには一番乗りしてみるか)
着替えを済ませ、部屋を出た。
「おはようございます」
寮長に挨拶をして扉を開けると、スープの香りがルシエルを迎えた。
パンとスープ、目玉焼きを取り、席に着く。
「なんだ、ルシエルじゃねえか。今日は早いな」
振り向くと、騎士科三年のオーウェン・ベルハートがトレーを持って立っていた。
「先輩、おはようございます。たまたま早く目が覚めて」
パンを割りながら答える。
「この間の竜騒動、やるじゃねえか。噂は聞いてるぜ。エバンってやつもな」
ミルクを一気に飲み干し、満足そうに息を吐く。
科が違えども同じ学園内、竜討伐の話は勿論周知されている。
「エバン、なかなかの風使いなんだろ? 今度組み手しようって伝えとけ」
ルシエルは曖昧に笑った。
──(これは、しばらく言われ続けるな)
* * * * *
教室に入ると、エバンがすでに騒ぎの中心にいた。
「おっ、ルーシー、おはよう」
「よっ、ルーシー」
──(やめろって言ったのに……)
諦め半分で席に着く。
今朝の言葉を思い出し、息をついた。
──(組み手、か……)
エバンは運動神経が抜群に良い。
普段の実演の動きを見れば、それは明らかだった。
──対魔回避実習。
「よーし、みんないいか? 今日は回避の実演をしてもらう。実技試験も近いことだしな。
日頃から怠けているお前たちにはちょうどいいだろう?」
騎士科の教師、アーチャー・ヴァリスが腕組みをしながら生徒たちに言う。
「まずは、五人ひと組になって並べ。私の合図と共にあの旗までたどり着くように。ただし、防御魔術の使用を禁ずる。
いかなる攻撃魔術にも法則はあるのでそこを読み取り、回避するのが今回の目的だ」
安全を考慮して演習場は内側結界が張られている。
アーチャーは攻撃魔法を、拘束するためのものに書き換え放つので、攻撃を受けた者はその場で自由を奪われる。
目的地の旗までおよそ百メートル。全力疾走すれば十数秒だろう。しかし、ここは実践演習場だ。
大きな岩や木、くぼみなど様々な障害物といくつかの防御結界がある。それに、ただ走るのが目的ではない。攻撃を回避する訓練。
したがって、生徒たちはそれら障害物が命綱となる。
アーチャーは攻撃の許可は出した。
しかし、この実演で攻撃をしたものは過去にほとんどいない。
最初の一組目に開始の合図が出た。
アーチャーは低位攻撃魔法をランダムに放つ。
黄味がかった丸い物体は宙を舞い、揺れている。
大きさ、動き、スピードそれぞれを違えて、こちらの出方を伺っているようだ。
これなら行ける!と走り出した生徒の前方にあったそれは、瞬時にスピードをあっさり捕まえた。
それを間近で目撃した他四人はすぐさま障害物に隠れ動けなくなった。
制限時間は五分。その間に目的地まで行かなければならない。
目の前の光景に、皆、息を呑む。
二年次から始まった対魔回避実習だが、初回からこの物量だ。今後どうなっていくのだろう。
結局、他四人はその場から出られず時間切れとなった。
「次!」
アーチャーの合図にルシエルは一歩前へ出た。
──(あんなのを見せられて、どうしろって言うんだよ)
正直に言うと少し震えている。
その二つ隣り、ノエルフロストが目を細めてルシエルを見ている。
──(ルシエル・バートン見てろよ。ここは僕が一番乗りでゴールまでたどり着き、お前なんか、お前なん……)
「──始め!」
合図とともに走りだすルシエル、余計なことを考えていたノエルは一歩出遅れて前へ出た。
ルシエルは前方大きな木に身を隠し、様子を伺う。
──(さあ、どうする? 先の岩まで約二十メートル。……間に合うか? それにあの動き、法則は?)
ルシエルは木の陰から様子を伺っている。
その時、大きな破裂音と共に木の破片が舞った。
──(考える時間すら与えてくれないのか、厄介だな)
ルシエルの背中に冷たい汗が伝う。
やがてひとりの生徒が隙を見て岩陰から飛び出し、先にあるくぼみに飛び込むことに成功した。
おお、という歓声が上がる中、光球は地面すれすれを這い、形を変えその生徒を捕えた。
このまま動かなければ時間切れになってしまう。
思考をフル回転させたルシエルは近くにいたエマ・カールトンに単独では捕まる確率が高いから、みんなで行動しないかと提案したところ、
エマは快諾し、反対隣りにいたノエルにもそれを伝えた。
──(フン、お前が決めるでない! 僕は僕のやり方があるんだ。誰がお前なんかに従うものか)
ノエルはルシエルがこちらを見て何か言いたげな顔をしているが、無視した。
──(お前たち何を間抜けな顔でこっちを見ているんだ? まあいい。先を急ぐか)
ノエルは足を前に出そうとするが、何故か動かない。そこで、アーチャー先生の声が聞こえた。
「ノエル・フロスト確保」




