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ロマニストがサーフィンをして見た景色  作者: 雨竜三斗
第二章 ツンデレニーソックスとサーフィン
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2-6 まだ内緒

 優里亜が店から出た後、理衣は上機嫌に減った棚の本を補充していた。店内で流れているアニメソングに合わせ、鼻歌を歌ってテキパキと本を棚にしまっていく。


 通りかかる客が変な店員だなと思っているような顔で通り過ぎるが、それすらも気にならないし、理衣には見えていない。


「よう、理衣。ご機嫌だな」


 そんな理衣に話しかけたひとりの客。

 理衣とオサムを巡りあわせてくれた恩人でもある、

「静佳さん、お疲れ様っす」


 まるで同業者に挨拶するように返した理衣だが、お世話になった方なので丁重に接するようにしている。本人は丁寧に接してるつもりだが、周りから見ればいつもの理衣にしか見えない。


「そちらの子は?」

「私の親戚でロシアから来たソーニャだ。

 日本語は喋れるから普通に話してくれていいぞ」

「ズドラーストヴィチェ」

「ズドラーストヴィチェ!」


 静佳にそう言われたにもかかわらず理衣がロシア語で挨拶をすると、ソーニャも反射的にロシア語で返す。


「おお、本場の発音はいいっすねー」


 関心したことを言う理衣に、不思議な顔をしてソーニャは、

「ロシア語分かるの?」

「挨拶とかお礼程度っす」

「どうせ漫画で得た知識だろう?」


 静佳は発言をポイ捨てするように呆れた声で言う。


 理衣がかなりのオタクであることを知っているので、そんなことだろうと予想している。ロシア語は自分もしゃべれないし、難しいと聞いているのでなおさらだ。


「いえいえお姉さま、ゲームのキャラっすよ」


 ドヤ顔で言う理衣に『結局そういうのじゃないか』と言いたくなり目を細める。


「お姉さま? シズカの妹さんなの?」

「違う、こいつが勝手に私のことをそう読んでるだけだ」


 理衣がオサムと知り合うきっかけをくれたのは静佳だ。それでいて静佳の仕事っぷりも知っている。そういう尊敬や恩の意味合いを込めて理衣は静佳をそう呼ぶ。


「あーしは、理衣。よろしくっす、ソーニャちゃん」

「あーし?」


 聞いたことのない日本語だったので、またソーニャは首を傾げる。このひとの言葉遣いは不思議なものばかりだと、ソーニャは感じ始めた。


「『わたし』ってこと。こいつの言葉遣いはいっつも変なんだよ」

「ロシア語で言うと『ヤー』っすよ。日本にはヤーの言い方がたくさんあるっす」

「そっかー。でも日本語はそういう言葉遣い出来て面白いよ! よろしく、リー」


「そう呼ばれると中国人みたいっすねー。

で、ソーニャちゃんは日本の漫画に興味があるんっすか?

 あーしのおすすめお教えしまっす?」


 日本のアニメや漫画、ゲームなどのコンテンツは海外でも人気だ。ロシアでも女の子が悪と戦うアニメは放送していたらしいし、ラノベの翻訳版も多数出版されている。理衣はたまに外国人の案内もするので、今回もそうなのだと思って眉を上げた。


「オサムの持ってた漫画を探してるの。えっと、タイトルは――」

「ああ、あーしが見繕ったやつっすね。案内するっす」


 理衣は歩きながら、店内のBGMに合わせて再び鼻歌を歌い出す。


 オサムの関係者であるとすれば、彼の新しい一面を知っているかもしれない。そう思うと理衣はワクワクしてくる。知的好奇心が満たされる感じだ。


「リーは面白いひとだね」

「変なやつだよ」


 そうコメントしてふたりは理衣についていく。


「っていうか理衣は暇なのか? 私らにかまってて」


「そんなことないっすよ~。あーしはここの案内役なんっすよ。

ここにある本は漫画、ラノベ、ムックや資料集に至るまで棚の場所とあらすじ、おおまかな内容をを把握してるっすからね~。

お客さんがうろ覚えなタイトルや内容でもばっちりご案内できるんっすよ?」


「すごい!」

「ラノベのキャラみたいなことができるんだな」


 一度読んだ本の内容を一字一句間違えなく記憶する能力や、本の表紙だけで内容を理解する能力、生まれる前から魔道書のデータを埋め込まれた女の子、そんな感じに静佳は思った。だが理衣の場合は完全に趣味に没頭した結果だろう。


 静佳はそんな異能力者もどきだと馬鹿にしつつ、理衣のそういうところを尊敬していたりする。自分は編集者なので、今流行のライトノベル、漫画、アニメなどをチェックしているが、どうしても確認が追いつかないこともある。


 理衣はそんなことはく、アニメ化する前にライトノベルや漫画の内容を把握し、次にアニメ化するタイトルを予想したりする。


 それでもあまり褒められないなと呆れた顔の静佳。一方のソーニャは素直に驚き、尊敬の眼差しで理衣を見る。


 そんな理衣に案内され、オサムが持っていたタイトルを最新刊まで全部手に取りレジに持っていく。


「領収書頼む」

「はいはい。でもこれも経費になるんっすか?」

「大丈夫だ、私も読む」

「公私混合に見えるっす?」

「いやいやそんなことはないぞ。

私の計画が成功すれば、新しい仕事に繋がる。必要経費だ」

「おおー、それは楽しみです」

「けいかく? ワタシと関係ある?」


 大人なのに大人に内緒の計画を立てる子供のような楽しげなふたりの会話に、ソーニャもまざりたいと思って聞いてみた。


「まだ内緒」


 といたずらっぽくソーニャにウインクする静佳を見て、理衣は心底楽しみになり腕を上下させる。

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