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夢の法則

私がなんとか少年の所に戻った時、少年はじっと目をつむったまま動かなかった。

側では男性が、少年の手足や顔についた細かな傷を布で拭っている。どうやら川の水を使っているようで、衛生面が気になった。


『少年、ただいま。ごめんね、ちょっとテンション上がって遠くまで行きすぎちゃったみたい』


私は、おそらく意識がないのだろう少年の頭の辺りにしゃがみ込み、声をかける。

答えはなかった。

そういえば、最初に少年が森から出てきてばたんきゅーした時もこんな感じだったと思い出す。つい先ほどの出来事なのに、もうずいぶん昔のことのように記憶は薄く、遠い。

あの時のように叫べば、少年は目を覚ますだろうか?ーーーこれだけ至近距離だ、間違いなく飛び起きる。

そう考えて、やめた。

少年は疲れているみたいだから、無理せず寝かせておこう、と思ったのだ。



しばらくじっと少年のそばにいた。

待機姿勢は体育座りだ。たまに浮いたり、くるくると回ってみたり、暇をつぶしながら少年が目覚めるのを待っていた。

少年が起きてくれないと話そうにも相手がいない。先程までの武勇伝を熱く語りたいのに。

空を飛んで森の切れ目まで行ったことも、そのあと道に迷ったりせず《・・・・・・》、無事戻ってこれたこと。

何より、飛んでいるときに見た景色のすばらしさ。世界の色鮮やかさ。それを創り上げた私の脳みそがすごい!と締めくくる話をしたい。

早々、我慢ができなくなって、無理矢理起こしてしまおうかと先程却下したばかりの案が浮かぶ。

やっちゃおうかな、と思ったところで、少年の手当てをしていた男性が突然立ち上がった。その腕に少年を抱き上げて。


おー、姫抱っこ!


と、女子憧れの体制に妙な感動を覚え、そのまま歩き出した男性についていく。

歩いて、たまにふわふわして、どこいくんだろう?と思いながらその背を追う。

どれくらいも歩かないうちに、男性は目的地についたようだ。先ほどの川辺からちょっと森に入った所、木に囲まれ過ぎてどこがどこがかわからないような場所だ。

男性は少年を丁寧に土の、やや草が多いように思える場所に横たえた。

ここに避難したのかなー、と、ぼんやりその行動を眺めていると、今度は少し離れたところに移動して、少年に背を向けてしゃがみ込んだ。

休憩?

にしては、無理がある体制だ。片膝ついて中腰の休憩体制とか、どんなしきたりか。

なにしてるんだろ、と男性のほうにふよふよと近づいて、横着してその背中から突き抜けて男性の前側に出る。

突き抜ける、という行動にためらいはなかった。夢ではよくあることで、実際私は男性をするりと通り抜けて、現在上半身だけを男性の胸から生やしている状態だ。

正直、ちょっと、いや、すごく楽しい。

そうし男性の手元を見てみると、棒切れのようなもので地面を掘っていた。土が柔らかいのか、ザクザクと面白いように掘れていく。

男性が掘っているのは、深さは男声の肘ほどで、縦長の大き目の穴だった。

ちょうど私が横になれるくらいだ。そう思ったら。


『いちばーん!』


真っ先に足を踏み入れたくなるのが人情、ってもので。

私は男性の体をつま先まで通り抜けて、穴に向かってダイブした。そしてごろりと横になり、寝心地?ちぇっく。


『うーん、広さは合格。深さは・・・ちょっと、中途半端じゃないですか?寝転んでも完全に隠れた感じがしないし、座ると見えちゃうし、もう著と深く掘ったほうが・・・・』


したり顔で批評する。

そこへ。


—――—―――どさり


なにかが、ふってきた。


『え?』


それ、は、寝転んでいた私とちょうど重なるようにして穴に収まった。


『え、ちょっと、な・・・・に、って、近い!』


びっくりして上半身を起こしたら正面に男性の顔があって、二重にびっくり。

している、私の目の前で、男性は口を開いた。


「—――—―――― 長。一族の若き族長よ」


険しい顔。

怒っているというより、泣きそうな。

じっと穴を見つめる男性は、眉間にしわを寄せたまま、言葉を重ねる。


「果敢に生きた魂に、栄誉ある死に、安らぎを」


それを聞いて、私は穴の中を振り返った。


少年が横たわっていた。

色のない顔、固く閉じられた目、唇に血の気もない。

少年を凝視していると、今度は足元のほうで、どさっ、という音がし始める。

そちらを見ると、男性が今度は穴に土を入れていて。

少年の足元が土に隠れ始めていた。重なっていらた私の足の部分も一緒に埋まっているように見えて、私は慌てて穴から出て、穴の上まで浮き上がる。

どさっ、どさっ、と。男性はどんどん土をかけていく。

そうすると、少年の体はだんだん土に隠れていく。



え?



考えるような空白が降ってきた。


なにこれどういうこと?

男性が穴を掘って少年を入れて安らかに眠れ的なこと言って土をかけ始めて・・・・え?



あれ?もしかして、少年、死んじゃった?



この結論に至って、最初に思ったのは、あーそりゃあれだけ大怪我してたらねぇ、だった。

初対面でいきなり目の前でばたんきゅーされた時に感じたような衝撃はなかった。

死んでしまったのなら仕方ない。

そう思った。

どんまい。

少年の遺体に軽く声をかけた時、最後の土がかけられた。


「・・・・すまない、ーーー。お前を助けることができなかった俺を、許すな」


そう呟いた男性はしばらく少年の墓の前でじっとしていて、立ち上がると、何かを吹っ切るように勢いよく墓に背を向け、歩き出した。

そんな男性の姿を見て、私は少年が埋まった土を見た。

あそこに少年が眠っている。

二度と目を覚まさない、なんて—――—―――――










夢なのに、あるわけないじゃん。


夢ですよ?

ありえないことがあって、起りえないことこそが起こる、自然の摂理とか世界の制約とか人としての常識とか、全部無視して見るのが夢というものだ。

ってわけで。


これは私の夢なんだから、何でもありだよね。


そう思って、呼びかけた。


『少年、起きて』


果たして、やはりここは夢なのだと再認識させられる。



ぼこり、と。

地面から腕が生えた。


「、ぶはっ!ンだ、こりゃ⁉」


次いで勢いよく出てきた上半身。口の中に土が入ったのか、しきりに吐き出す動作をしている。

私は少年の目の前ににゅっ、と顔を出した。


「うお、!?って、あんた・・・」


『おはよー!生還オメ!!』


少年が驚くのも無理はない。今の私の顔は天地が逆転、つまり少年の顔とさかさまになっている。それが、にゅっ、と出てきたら・・・私なら大絶叫する。そして泣く。

—――おお、そう思うと少年よ。君のリアクションのなんて薄っぺらなことか。


『腰ぐらい抜かしてもいいよ』


「なんのことだよ・・・」


少年は疲れたような溜息をついた。

無理もない、さっきまで死んでたのだ。私は死んだことがないのでよくわからないが、死ぬって大変そう。体力根こそぎ持ってかれてそう。いや、持っていかれるのか?だから死ぬのか?死ぬって体力がゼロになることなの?そりゃ疲れる。


『お疲れ、少年。がんばったね』


私は本心から、ねぎらいの言葉をかけた。

なのに。


「俺が疲れてんのは八割あんたのせいだよ・・・で、こりゃ一体、どういうことだ?なんで俺は埋められて「、長っ!?」


非難されるなんて心外!と抗議する前に、またしてもこの人、立ち去ったはずの男性が戻ってきたからこの時間がやってまいりました。


「お前、何で・・・」


驚愕。

その言葉をこれ以上なく体現している男性。


「?なんだ、どうした。何かあったのか」


あったよ。

君が死んだんだよ、少年。


そう説明するはずだった私の言葉は、もういらない。


「あったもなにも、お前は、死んだはずだ」


「・・・は?」


そう、私が空気になるお時間です。

ただいま会話に入ることができません。私抜きの会話をお楽しみいただくか、出番が来ることを祈りながらお待ちください。


ピー



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