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どういった状況ですか?

どうしよう、とおろおろすることしかできなかった。


目の前で今にも倒れそうな男性が殺されそうになっていて、殺そうとしている人たちがいるという状況に混乱は極まっていた。


何にもできない。

そう思ったけど、なにもしないことはできなくて。


『がんばれ~、青年!』


とりあえず贈ってみたエールが男性の気を削いでふらついたのが、男たちの初撃をかわすことになったのは怪我の巧妙。


直ぐに立て直そうとして、しかし届いた二撃目をなんとか受けたところで、男性は力尽きた。

がくり、と膝をつく。

そんな男性にのし掛かるように、二撃目を加えた男が力を入れた。


『あ、ああ…だめ、ちょ、がんばって!諦めたらだめ!死んじゃうよ!ほら、踏ん張って!!』


男性の大ピンチに場違いな声援を贈る私。


「おま、うるさ、…」


そんな私に律儀に返事をしようとして、しかしその言葉は押し潰されていく。

どうしよう、どうしよう、と思うが、やっぱりどうしていいかわからない。

だって、私だってさっきからがんばってる。

がんばって応援しているのは、まあ大した影響がないので置いておいて。

これくらいなら、と拾って石を投げようとしたのだ。石は手のひらをすり抜けたけれど。

投擲武器を封じられたら、私に残された援護手段は一つしかない。


すなわち、体当たり。


勇気を振り絞って、というほど悲壮な決意でもなく、私、逝きます!程度の気軽さで、男性にのしかかる男に向かって突進した。


そして、空振り。何度目かわからない、私の質量か相手の存在そのものを無視した現象はしかし、またしても男性に光明をもたらした。


『青年!!』


それを見て、私は声を張り上げた。


『なんか襲ってきた人たち一人以外倒れてる!で、新しい人登場、肩までの薄い金髪に色白で顎髭の汚い多分三十代の男性、茶色の胸当て、白のシャツ、茶色のぶかっとしたズボン。現在最後の一人と交戦中のこの人に心当たりは⁉』


件の人物をガン見しながらの実況中継は我ながら的確だった。

そうこうしているうちに新たに現れた男性が最後の一人を倒し、こちら、男せ・・・・紛らわしいな、青年で。青年のほうに向かってくる。


「そりゃ、味方だ・・・・っ!」


青年が何とか声を上げると、男性はいっそう足を速め、その勢いで青年にのしかかっていた男を殴り倒した。・・・・結構、ぶっとい棍棒で。首が微妙な方向を向いた気がしたが、うん、多分気のせい。大丈夫生きてるだってぴくぴくしてるし。


「生きてたか」


青年に近寄り、抱き起こす男性。


「ああ、助かった。恩に着るよ」


「気にするな。むしろ、助けられてよかった。お前が死んだら元も子もない」


「・・・・ああ、そうだったな」


「そうだ。怪我は?」


「肩から腹にでかいのが一つ、こっちは浅いからたぶん大丈夫だ。やばいのは頭だな。後ろから思いっきり殴られて、ちっと意識がとんだ。あとは太もものやつが深い。他は全部かすり傷だ」


青年の言葉に、なんとなーく空気だった私は思わず口を開いた。


『頭?うそ、どれ』


近寄り、青年の頭に手を伸ばしてーーー空振り。

いっそ、すかっ、と音のしそうな見事な素通りに、私は学習能力というものをどこに忘れてきたんだろう、と思案した。


「そういえば、あんたも。いろいろ助かった」


『そう?なんか大してたことしてない気もするけど、まあ、君生きてるしね。よかったね』


「ところで、なんであんたこんなとこに・・・・「長」


青年と私の会話は男性によって遮られた。

そのとき、私と青年は、奇しくもおなじ反応を見せた。

なに?という顔で、男性を見上げたのだ。

疑問符を浮かべた二対の視線を受けた男性は、しかしというかやはりというか、青年にだけ目線を合わせ。


「お前、さっきから何を言っている?頭を打っておかしくなったか」


と、失礼なことをのたまった。

この言に、青年は怒るよりも逆に呆れたように反論した。


「はぁ?なに、って。こいつと話してんだよ」


言いながら、私を指さす青年。

男性はその示す先を視線で追って、私の口元あたりを滑らせ、変な顔をした。何言ってんだこいつ、みたいな。


「こいつ?」


「ああ、この女・・・・ってか、あんた変な格好だな。どこの部族だ?」


『ぶぞく?ああ、部族ね。うーん、そういう括りで言うなら、日本人だよ』


「にほんじん?なんだ、そりゃ。この辺では聞かないな」


『えっと、東のほうの島国なんだけ・・・・』


「東?島国なんてあるのか」


「長」


聞かれるままに答えていると、男性が、今度は先程よりも硬い声で言った。


「長。もう一度聞く。お前は、誰と、話している?」


ゆっくりと、確認するような口調は、男性が真実、そこになにもないと思っていることを示していた。

青年は、今度は戸惑ったように男性を見て、私を見て、また男性を見た。


「本気で言ってるんだな?」


「この上なく」


慎重に口にされた答えに、青年は今度は私に視線を合わせた。


「・・・・お前、」


先程までは見え隠れしていた親しみ、というものが、青年のまなざしから消えた。


「何だ?」


警戒を滲ませて吐かれた問いかけに、私は眉を寄せる。


そんなのこっちがききたいんだけど。


『なんだ、って言われても・・・・日本人の、性別女、ですが』


うーん、と唸って、出せた答えはこれだけだった。さすがに年齢は秘密にしたい。


「質問を変える。何でここにいた」


険しい表情で聞いてくる青年に、私はその顔が私への不信以外で歪んでいることに気付いた。


『それより、怪我は大丈夫なの?痛いんじゃないの?なんか変な汗出てるよ』


「・・・・質問に答えろ」


私が口にした心配の言葉に、しかし青年は拒絶を示した。

随分と痛そうなのに、意識なんかいまにも持っていかれそうなのに、何で私のことなんかに固執するのか。

わからないが、青年の質問に答えない限り安静にはしなそうな雰囲気に、とりあえず答えることにした。


『んー、実は私にもよくわかってないんだけどね。なんか気が付いたらあっちの森の中にいて、でもパジャマにスッピンじゃない?こんなんじゃ人前に出れないけど服も化粧品もないしだったらせめて顔くらい洗いたいって思ってこの川見つけて顔洗おうと思ったんだけど、水をすくおうとして空振って、どうしよーと思ってたら青年がふらふら~っと向こうからでてきて、倒れたわけ。びっくりして近寄ったら怪我してるじゃない?病院か救急車、やべどっちも無理かも、って思ってたら今度はあの男たちたちきて青年を、多分殺そうと、したのよね?それもまたどうしよう、ってわたわたしてたらなんか一回変なことがあって、青年の太もも切られちゃって、ぎゃー!!ってなって後はご存知の通りです』


ここまで一息に説明して、私はやりきった、という気持ちを表すために額の汗を拭うふりをした。

そんな私とは対称的に、青年は微妙に気の抜けた表情で。


「・・・・それ、信じるとしたら何もわかってない、って言わね?」


『おお、よくわかったね!その通り、私も現状わからないことだらけだよ!』


陽気にサムズアップして、さらにまくしたてた。


『なんでここにいるかを筆頭になんかいろいろ触れないし、多分青年以外に見えてないんじゃないかなー、私。そこの彼も、あの男の人たちも、私のこと総スルーなんだよ。酷くない?人も世界も酷くない?乙女心が傷ついた』


よよ、と悲嘆にくれるポーズもとってみた。ハンカチがあればもっとがんばれた。


そんな私の、本気なのかふざけてるのかわかりにくい説明と態度に、青年は私をじっと見つめながら考えるそぶりをして、


「わかった」


そう、言った。


「あんた、すげー怪しいけど、ワルイモノじゃないみたいだ。疑って悪かった。改めて、助けてくれたことと、心配してくれたこと、ありがとう」


『・・・・おお!素直だね、青年。どういたしまして。そんで、こちらも怪しくてすいません!で、ありがとう!私もね、青年が私を見てくれて話してくれるの嬉しかったんだよー』


更に重ねられた言葉に、私はもろ手を上げて喜んで、青年の気質を見直した。

反抗期で生意気めな青年だと思っていたが、素直ないい子じゃないか!


「・・・・そろそろ説明をいただけないでしょうか、長」


私たちがほのぼのしていると、常に視界に入っていたけれど、忘れていたわけじゃない男性のが口を開いた。


「ああ、わるい。説明・・・・は、難しいんだが」


『ねー。私もこの状況はむずかしいわー』


入れたちゃちゃが、男性にも聞こえていたら少しは簡単になるのに。


「ここに、女がいる。何でいるか、なんて聞くなよ。俺にも、本人にもわからないらしい。が、悪いやつじゃなさそうだ。何でか俺以外に見えないし、触るのも・・・・」


途中、青年が私のほうに手を伸ばした。

肩の辺りに触れるはずだったその手は、案の定というか、空間を切り裂くように上下して、地に落ちた。


「これは俺にも、無理らしい」


改めて。青年は、苦い顔をした。

触れない、を実感したからだろうか。


「あとは・・・・・声も、お前には聞こえないんだろ?でも、あんたは俺たちの声が聞こえてる」


お前、が男性へ。あんた、が私へ向けての言葉だ。


『そうだね、私は、聞こえてるよ』


明確な返事をした私と違い、男性は難しい顔で青年の視線を追い、その先にやはり何もないことを確認して、頷いた。


「なら、これ以上の説明は無理だ。俺にとっては事実だが、見えも聞こえも触れもしねー女がいる、なんて、お前からすれば俺の頭がイカレタようなモンだろ」


真理だ、と思った。

私も、知り合いが「ここのおんなのひとが~」とか言い出したら精神の異常か視力の異常か、霊感持ちかと疑う。

同じに、いくら説明を、言葉を重ねられても、本当に「いる」と信じ切ることは出来ないだろう。

そう考えると、青年の説明は無駄がなく、的確だ。

これまた意外、案外賢いんじゃこの青年、と私が青年への評価をプラスしている横で。


「・・・・・・・・わかりました」


男性は、何らかの結論を出したようだ。


「このことは一先ず保留にしよう。それよりも、お前の手当てが先だ。陣に戻るろう。立てるか?」


それが私のことスルーする結論でも、悲しくなんかないんだからね・・・・。








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