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リュクドリーンの言葉が途切れる。ミレティアは遠い過去に思いを馳せていた。
「あ、あの、どうしてリュクドリーンはそんなにも詳しく知っているのですか?」
《龍神の血のつながりは人間のそれとは違う。
自分の死を予期すると、魔力を集めて子を孕むのだ。
そうしてできた子は、自分のクローンに近いものとなる。
記憶もその多くを引き継ぐのだ》
その言葉にミレティアは驚く。それでは、龍神はどれほどの記憶を保持しているのか、と。
「リュクドリーンは嫌じゃないの?
ずっとここにいなくてはいけないこと」
聞いてはいけないのかもしれない、そう思いつつミレティアは聞かずにはいられなかった。
《嫌では、ない。
まだ我の中には先代の思いが残っているからな。
この国を守り、支えたいという気持ちが強いのだ。
……もう今日は遅い。
お休みミレティア》
そう言うと、リュクドリーンは離れていった。重くなったまぶたに抗おうとはせずに、ミレティアは眠りの世界へ落ちていった。
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「あなた、は?」
夢に現れたのは、どこか見覚えがある銀髪の少女。泣いて、目が真っ赤になっていた。
「ごめんなさい、あなた達にまで業を負わせてしまって。
でも、あの時の私にはそれしか選択肢がなかったの」
ああ、この少女は初代様だ、と思った。細い肩を震わせて、こちらに謝っている。
「初代様、ですか?」
私の問いかけに少女はうなずく。この少女が自ら望んだことでは、なかったはずだ。本当に仕方のないことだったのだ。
それでも、この少女は一体何度こうして謝ったのだろうか。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
そう言うと、少女はぱっと顔を上げた。その瞳は不安げに揺れている。私は安心させるようにしっかりとうなずいた。
「あなたの名は何と言うの?」
「ミレティアと申します」
「そう、ミレティア……。
あなたはフランシアの娘、ね。
それにその瞳はトーマの一族との娘なのね」
フランシアの娘というところにうなずきながら、トーマ? と首をかしげていると、王の一族、と言い直してくれた。
自分の知らない名前が夢で出てくるものか、と不思議に思っていると違うの、と言う。
「これは、夢とは少し違うわ。
今もあなたの中で流れている私の魔力とか血が私をこうしてつくっているの。
この空間を使って、私とあなたが対話しているの」
そういうものか、とミレティアはなぜか納得していた。
「ああ、もう行かなくちゃ。
大丈夫って言ってくれてありがとう。
いつか、また会えるといいね」
そういって少女は消えていった。
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翌朝、ミレティアが目を覚ますと見慣れぬ天井が見えた。こんなにも穏やかな気持ちで朝、目が覚めたのはいつぶりだろう、とミレティアは寝起きの頭でかんがえていた。
《起きたか、ミレティア。
朝ご飯はフルーツでいいか?》
リュクドリーンの言葉にミレティアはうなずく。国の話を聞いてから今まで、たった一晩しか経っていないなんて、とても信じられない気持ちだった。
ほれ、と渡されたフルーツにかぶりつくとおいしい。
「ねえ、リュクドリーン。
私、頑張りたいな。
サンタリア家の当主」
穏やかな声でそう言い切ったミレティアにリュクドリーンはまぶしいものを見ている気持ちになった。
《それならば、頑張ればいい》
少しぶっきらぼうに言ったリュクドリーンにミレティアはふふ、と笑った。
「でも、そう思えるのはお母様が外の生活をさせてくださったおかげなの。
今、1番強い思いは皆を助けたいってこと。
下町で暮らして、あの時間があったからそう思えている。
それに、昨日リュクドリーンがしてくれた話や夢でのことで、この場所やペンダントに込めて引き継がれてきた強い、強い想いがあるってわかったから。
だから、託された者として頑張りたいの」
まだ口に出さなきゃ自信なくなるような想いだけどと、ミレティアは笑う。
リュクドリーンの瞳はどこまでも暖かく、ミレティアはなんだか安心できた。
扉から出ると、はらはらした様子でこちらを見ていたマリアンナが見えた。それを見て、頑張ろう、ミレティアはもう一度そう決心した。
これでひとまず完結です。
もしかしたら続きを書くかも……。




