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4-1、二人の家1

 十万ジオはあっという間に溜まった。


 あっという間にというか、十日かかったのだが、いずれにせよ十日で十万ジオというのはこの世界では圧倒的な稼ぎらしい。

 最後の数日に上級の依頼が大量にラッシュで入ってきたのが効いた。どうやら運に恵まれているようだ。



 住む場所は決めてある。いろいろ考えたが、利便性ではやはり、ギルドの直近がよいだろう。そして、面倒な隣人に絡まれたくないので、中~上流の住宅街。東の、冒険者住宅街の、中~上流辺りだ。


「お客様の条件ですと、こんな辺りになりますでしょうかねえ……」


 アコルテに紹介された東地区の家宅斡旋店は、乱雑だった。狭い敷地内に書類がうず高く積もっており、ボードには、どういう配置なのか、ぐちゃぐちゃに物件情報らしい張り紙がはりつけられている。

 前の世界での不動産屋と言えば、店先に大量の物件情報がはりつけられていた記憶がある。このボードがそれだとするのなら、ずいぶんとあれに比べて乱雑なものだ。

 だが、東地区のギルド周辺に住むならここが一番なのだそうだ。


 応対してくれているのは、おばさんというかおばあさんの商人だ。ただ、腰が曲がってよぼよぼというわけではない。商人の商売衣装を着て、ぱりっと決めている。キャリアウーマンというか、キャリアオールドレディという感じ。

 彼女がいくつか出してくれた書類を見ても、いまいちよくわからない。


「なるほどなあ……いや、さっぱりわからん。ユノ、わかるか?」


「うーん……? 申し訳ありません、ご主人様」


 二人で途方に暮れると、業者の老婆は苦笑した。


「書類の見方を説明していきますね」



 老婆の説明は的確かつ親切で、ルトナはしっかり説明を受けて感覚をつかむと、なんとなく書類を見てものを考えられるようになった。


 予算を告げて紹介してもらった家は、二階建ての個人住宅が多い。部屋の数はリビングを除けば数個程度で、こぢんまりとしている。だが、予算ではこのくらいが多いらしいし、四人くらいまでならこのくらいの家に住むのが良いのだそうだ。


「そもそも、冒険者は家を開けることが多いですからねぇ……維持も大変でございますよ?」


 ルトナは悩んだ。


(仲間って、何人までできるんだろうなぁ……多けりゃ多いほど良いんだけど。でも、豪邸を借りたとして、ユノは家事をしてくれるんだろうか。ユノに苦労させるのも、俺が手伝って苦労するのも、嫌だなぁ……だとしたら特に贅沢せず、このくらいの家にしておくのがいいのかな。仲間が増えたら家政婦を雇って新しいところに住み替えればいいし。ああ、家政婦……家政婦。家政婦! 最高だ! ……でも、その手間もあるし、んなお金いつできるのか。上級の魔物を狩っても、中級に比べて報酬が跳ね上がるとかそういうことはねえしな)


 上級の魔物と中級の魔物、依頼成功による報酬は、たしかに数段違うのだが、桁が違うかというとそういうわけではない。

 その辺りはやはり、冒険者に報酬を払いすぎても利益が出ないのだろう。中抜きされてるとは考えたくもないが……。


 それ以上に割のいいものもやはりあるのだが、ここ一週間はルトナも目を光らせていたものの、どれだけ目を光らせていても、割のいいものは競争が激しい。


「あれ、これは?」


 面白そうな物件があった。というか、これだけ物件の価値が違いすぎる。


「部屋、何個あるんですかこれ。二階建てみたいですが、結構な豪邸のような。いや、豪邸ってわけじゃないのかな。でも、住宅以上館未満っていうか。庭もまあまあ広いし」


「それでございますね。いわゆる訳あり物件でございますよ」


「訳ありですか」


「はい。土地の関係で、魔力のたまり場のようになっているんです。なんともない人もいるようですが、なんとなく違和感を覚えたり、人によっては気持ち悪くなったりするようでございますね。私も、長居をすると胸が悪くなります」


「へえ……」


 魔力の目で老婆を見ると、反応が皆無だ。アコルテと同じ。

 魔力がなければないほど影響を受けやすいのかもしれないし、全く別の問題なのかもしれない。


 それでも、物件の説明図を見ると、非常に心が惹かれるものがある。


「広いですね、圧倒的に」


 一つの部屋に複数人停めれば、何人エルフを連れ込んでも問題ないだろう。食堂も広い。三十人くらいからがキツイかもしれないが、逆に頑張れば百人暮らせるかもしれない。


「なんだか邪な思考の気配を感じるでございます。でも、普通に借りれば、今の家賃の二倍は見れる物件でございますので、デメリットに目をつぶるのであれば、わたくしどもとしてもまあオススメ、まあオススメは……うーん」


「これだけ広ければ、単純に倉庫として使う人とかいなかったんですか? 良い立地ですよね。ギルドにも近いし、街のメイン出口にもそれなり」


「そんなお金のある方は少ないですし、お金のある方は気味が悪いと、皆様避けるのでございますよ。物には影響がないはずですが、その保証もできませんし」


「物に影響がないというのはなぜわかるの?」


「魔力が物に影響するなら、あの館はとっくに魔物化しております」


 納得した。


「むうううう……悩むなあ……掘り出し物だよなぁ、これ」


「肝心なのは、この掘り出し物が、お客様にとって呪われているものか、祝福されているものかでございますねぇ」


「うーん」


 ルトナは頭を抱えて悩む。この物件に興味はあるが、現状これ以上の情報は手に入らない。

 豪邸(?)で、エルフを囲って暮らすというのはかなり良い発想だ。最終的には王都か……王都は嫌だな、もっと風光明媚な土地かエルフの領域に大きな家を構えるとしても、やはり各地に十人ずつくらい現地妻とかがいても良いと思わないだろうか。自分は良いと思う。

 でも、気分が悪くなる魔力か。


「あの、ご主人様?」


「うん? どうした、ユノ」


「中を見せてもらえばよいのではないでしょうか?」



 内見というのがあって、検討している物件は中を見せて貰えるらしい。


(考えてみりゃ当たり前か。中を見ずに家決めるわけねーし)


 ユノのファインプレーだった。

 業者側も、ルトナがそれを知らないということに思い至りすらせず、言い出さなかったらしい。


 なぜずっと奴隷商館で暮らしていたユノより世間に疎いのか、自分で自分が悲しくなるが、とはいえ自分の身は高校生であって不動産屋との交渉などしたこともないしするつもりもなかった。

 別に、おかしなことのはずもない。元いた高校の全校生徒の中で、そのへんに精通している生徒は一人いるかいないかというところだろう。当たり前の話だ、こっちは元高校生なのである。これから勉強する。


 内見を申し込むと、老婆は応じた。


「では、簡単に物件の中を整えますので、明日同じ時刻にまたいらっしゃって下さい」



 翌日、業者の店に来て、現場に向かった。

 とりあえず向かうのは、例の問題の物件だ。


 もし例の物件がまずければ、他のところを探すと言ってある。

 老婆側ははじめから今日この物件に決めるとは思っておらず、じっくりとルトナに付き合う様子だ。


「魔力が溜まっている……具体的にはどういう状態なんでしょう?」


「さあ、私どもにはわかりかねます。しかし、土地によってはそういう場所ができるようですよ。土地ごとの魔力には流れや淀みがあって、こうして私どもの仕事が困ったことになるというわけです」


「はは……」


 業者のジョークに笑いを返す。



 到着した家は、荒れ果てていた。

 破壊された跡とかがあるわけではないが。


「蔦とか凄いですね」


「そうでございますねぇ、こちらにも維持の予算がありまして。中は最低限やっておりますよ。十週に一回くらいは」


 なるほど、ここでルトナは納得した。

 あまりここを売る気は、この業者にないのだ。

 おそらく、貸し付けてトラブルになるより、抱え込み続けたほうがよほどいいのだろう。下手をすればこの街には固定資産税のような概念がないのかもしれない。


 魔力の目で見てみる。


「うわぁ、凄い、マジで魔力が溜まってる。ユノ、見える?」


「い、え……うーん? ……? そう言われてみれば……?」


 魔力の色は極彩色だ。と言っても、虹色に光り輝いているというわけではない。薄い、透明に近い色が、さまざまな色彩で、寄り集まっていたり、どこかに飛んでいったり。

 普通、街を歩いていて家や土地から魔力を感じるようなことはない。家によってはそういう魔法のアイテムなどで警備を固めているのを、ちょっと感じるくらいだ。けれど、それにしたって、こんなに広範囲に薄く、まるで魔力の間欠泉のようになっている物件ははじめて見る。

 二階建ての大きな家、あるいは小さな屋敷が、意思を持ってルトナと対峙しているみたいだ。


 業者が鍵を開けて、三人は中に入った。

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