EX3、アナザーチョイス・ブレイクブレイン!
「うーん、別にまずくはないのよ」
次の瞬間、傍に控えるユノからゴギィッ、という音がした。
振り向くと、ユノの体は腰を中心にまがってはいけない角度まで折れている。
「は?」
腰のあたりの骨が突き破っているのか、ユノの腹からは内臓がはみ出ている。
そして、
「ちょ、え、……は?」
ルトナの体も、拘束されているのか、動かない。
それどころか、長袖の服に包まれた腕が勝手に動いて、ルトナの手を上に上げ、自分で自分の腕が拘束されてるみたいに動き、ルトナ自身も無防備な胸を突き出すようにして、その体をミズリに差し出している。
精一杯抵抗すれば押し戻せそうだが、結局押し戻せないで、動けないだけだ。手首や手の指くらいは動くが、それで何をしようもない。
「悪いわね。さようなら」
……こんなところで。
こんなところで、殺されてたまるか。
「ッ、舐ッッめんなァァァ!!!!」
「うぁ!?」
ルトナは瞬間的に自分の魔力を膨れ上がらせ、周囲を焼き尽くす。
反射的にそれをできたのは半分偶然だ。サイコロを投げれば、二回に一回は、あのまま無様に殺されていただろう。
けれど、偶然と無我夢中の産物とはいえ効果は一応出た。部屋がぐちゃぐちゃになり、ミズリは怯み、拘束はどういうからくりだったのか解けた。
(あ、ああ、ユ、ユノが、俺、)
視線をやれば、もともと即死だったと思われるユノの体は、半分以上が焼け焦げて、がらくたのように部屋の隅に転がっている。
「……クソッ!!」
考えている場合ではない。ルトナは閉まったままの窓を肘で叩き割り、飛び出した。
ルトナは双子星の宿の窓から脱出し、通りを行こうとする。
窓を行くのは当然、ちんたらと宿の中を降りてなどいられないからだ。
……殺してしまった。殺してはいないかもしれないが、死体を焼いてしまった。
ユノを、この手で。
それでも、生きなくては。
何が理由かは不明だが、彼女を敵にまわしたようだ。あるいは、彼女の背後の政治的何かか。
自分一人ではどうしようもないと理解し、誰かに助けを求めるつもりになった。
まず最初に思いついたのはチェリネだ。そして、次に思い浮かんだのはアコルテ。
チェリネ、アコルテ、どちらに助けてもらうか。
――エルフとのパイプを望んでいたチェリネに頼るのは明らかに迷惑だ。一方で、アコルテには専属受付嬢という関係性もあるし、ギルドという後ろ盾もある。飛び降りた直後の一秒以内に電撃的な速度で決断し、最高速でギルドに向かおうとしたルトナ。
そのルトナの道を塞ぐように飛来したのは、弾丸のような速度でかっ飛んで、地面にクレーターを作る人体だった。
「は、え……?」
土煙が晴れ、人影の正体が見える。
途中で退室したはずのタルトだった。
しかし、華奢だった彼女の印象とはかなり乖離している。
肉体の見た目は華奢でスレンダーなままなのだ。腕だって細い。
だが、空手のように肩幅に足を開いて構えていて、拳を握りしめているその腕は、脚は。
螺旋のように渦巻いて、彼女の腕と脚を魔力が覆っている。濃密すぎる魔力が、彼女のさらさらとした銀髪に寄り添う。そう、こうして魔力の目で見れば、その細くてなめらかな白色の腕は、――確かな殺意を持った武器、あるいは兵器以外の何者でもない。
一体、何の魔法なのか。
「ぐッ!!!」
タルトはまたしても高速でルトナに接近し、押し倒し、馬乗りになった。
その速度は反応を許さず、当然ながらルトナは全く対応できない。
「マウントポジションはいつか誰かが発明した世界最強の体勢です」
「ちょっ、待ってよ、一体何が、それすら――」
ズグチャッ。
力を込めて振り払おうとしたが、それより早く拳によって脳が潰されて、ルトナという個人は即死した。