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9-2、パーティプレイ2

「かめら? ってなんですか?」


「すまん、調子に乗った」


 馬鹿なことを言っている場合ではない。何を聞くか。一つ一つ組み立てていく。


 ……まずは、魔法だ。

 ルトナがユノに期待する役割は、さまざまあるが、やはり今のところは魔法に集約される。

 「フェアリーの平均程度の魔法が使える」そうであるし、ルトナの魔力の目で見ても、冒険者の平均程度の魔力は感じられる。


「ユノ、ユノは魔法が使えるんだったよね?」


「ああ、はい。私は、魔法が使えます。属性は、水を持っています」


「……属性?」


「はい。……?」


 聞きなれない単語が急に出現し、ルトナは反応ができなかった。

 一方ユノも、疑問に思われていること自体が意味不明であるような、戸惑いの反応を返す。


「あ、ああ、属性ね。うん属性。まあ誰でも持ってるもんね属性」


「はい。……えっと、どうしたんですか、急にごまかすような笑顔で……」


「うんごめん……私、属性って知らないんだ。その辺教えてくれる?」


 それを聞いたユノは驚いた素振りを見せた。


 属性。魔法の話の中で出てきた以上当然、魔法の属性のことである。


 魔法は、意思ある生物が魔力を使って起こす超常現象であるわけだが、この世界の魔法は全てが、火属性、水属性、風属性、土属性(地属性とも)、他特殊属性に分類される。また特殊属性の中には、基本四属性の派生とされるもの、全く基本属性とは別物であるものが存在する。


 属性は個人が一つずつ持っているもので、誰も所持している属性以外の魔法は使えない。


 こんな感じの説明を、ユノから受けた。


「しかし、山奥で修行をしていたのに、ご主人様のお師匠様は、属性についてはご省略なさったんですか?」


 不思議そうなユノ。山奥で修行をしていたというのは、ルトナが初日に対外的に作った言い訳である。昨晩、二人で寝ている時に、ユノがルトナの過去について説明を求めたため、話せないことはまだたくさんあって、現在周囲にはこう説明している、と前置きして話したのだ。


 話に矛盾が出ても大丈夫なユノ相手にしかきっちり話す事態になっていないのは、どうやら幸運だったようだ。

 話してから十二時間以内にボロが出てしまっている。


「うん。うーん。うん……その話については機会があったらもう少し詳しく説明するよ。全部、その……全部」


「……はい。わかりました」


 ユノはルトナの言葉を信じ、いったん疑問を引っ込めた。


 ルトナはこれまでの自分の使ってきた魔法を回想した。

 人体から火を出したり、火球を作ったり、巨大な火球を作ったり。

 なるほど一人一属性なのは間違いないだろう。ルトナは火の魔法しか使えないし、他にイメージもいまいちわかない。


 最初の敵である獣の魔力大龍が、火を放つタイプであったことは何か関係しているのだろうか。していないのだろうか。

 それは自分ではわかりそうにない。考えを頭から追いやった。

 今はユノのスペックの把握が重要である。


「それで、水属性っていうのはどういう属性なんだ。どういう魔法なの?」


「水属性というのは、文字通り水を操る属性ですね。水を飛ばして攻撃したり、毒を作る他に、熟練すると傷を癒せたり、液体を操れたり、流体を操れたりするようです」


「傷を……癒やす。回復魔法が得意?」


「そうですね。水属性は治療魔法が得意です。火や土も、水属性ほどではないですが、それぞれのアプローチで可能です。風属性は多分無理ではないでしょうか。切開して体に残った武器の破片を取り出すような場面では使えると思いますが……」


 できすぎているほどだと思った。

 回復魔法を求めているところに回復魔法使いが来たわけだ。


「ユノ、お前、治療魔法は使えるか!?」


 だが、はりきって身を乗り出して問いかけるルトナに、ユノは残念そうに首を振る。


「無理です。いや、わからないというほうが正確でしょうか。戦闘奴隷としての基礎知識は知っていますが、魔法の練習はしたことがありません。結局、戦闘奴隷として期待されたことはありませんでしたので」


「なるほどなぁ……」


 そう上手い話はないか。ルトナは心のなかで呟いた。

 だが、物事は捉えようである。一人一属性しか魔法を使えない。そして、ユノが得意な魔法は水魔法である。それは、やはり引き当てた幸運にほかならないのだろう。


(こっちに来てからかなりのところが順風満帆だったが、それがもう一個追加された感じだな)


「……ご期待くださってありがとうございます。精進して習得に励みます。発展的な治療には人体の構造の理解などが必要らしいので、私では切り傷や擦り傷を治すのが精一杯かもしれませんが」


「なるほど。わかった、その辺の話は後で詰めましょう。そもそも独学で新しい魔法の習得が可能なのかとか。私は知らないことばかりだ」


「はい」


 一旦魔法の話については打ち切る。


「あとは……」


「あとは……なんでしょう?」


(あとは、体力面の話が必要だな)


 イザニによれば、ユノはハーフフェアリーであり体力面にハンデを抱えている。

 苦労して手に入れた自分の奴隷であり、捨てるなんてことはありえないが、その度合いによって、今後の行動は大きく変わる。


「体についての話でしょうか?」


 ルトナの視線に気づいたユノが、自分から話を振った。


「……ああ、すまん、じろじろ見て。……ユノの体力面について、詳しく教えてくれる?」


 求められて、一瞬考える素振りをしてから、口を開く。


「私は過去、一度だけ奴隷として売られたことがあります。二つ目の奴隷商人が、安く売ることに長けている商人でした。交渉によって、気に入らなければ返品可能という条件で、労働奴隷として引き取られたのです」


「なるほど。モノみたいで嫌だけど……どうなった?」


「三日で返品されました」


「……持たなかった?」


「言葉にすればそうなります。フェアリーは、……小さな体ですので労働奴隷として使う者はほとんどおりませんが、酷使すると消滅すると言われています。理由は、私も知りません。伝説のお話なのかもしれませんし、実際に消滅するのかもしれません。私もその血を引いているためか、二日目で倒れまして、昏睡状態のまま三日目に突入しました」


「なるほどなあ」


「ちなみにですが、その後引き取られたのがイザニの奴隷商館です。彼は成長しつつあった私を愛玩奴隷として運用することを考えたようです。ですが、ハーフフェアリーは……多くが、人間が妾のフェアリーを孕ませて産まれたものだという風潮が強いですので、……と、関係ない話になりましたが、そういう十年間の末に、ご主人様に拾って頂いたわけです」


 話を聞きながら整理する。

 親の顔を知らない。おそらく物心が付く前に捨てられたのだろう。そして奴隷身分になり、十年以上にわたって売れない奴隷として奴隷商人の間を転々と。


 気になることがいくつかありはするが、ここまで聞いただけでもなかなかの経験だ。それは、悲壮な表情の一つも浮かべることだろう。現代日本で生まれ育ったルトナは相槌を打つのが精一杯だった。

 イザニは、奴隷商人にとって在庫はリスクであると話している時に、この世界の奴隷商人は同業組合でお互いの行動を縛っている、というようなことをぽろっと漏らしていた。ユノが今日まで生きてこれたのは、そのお互いへの縛り合いがあって、奴隷商人が奴隷を陵辱したり虐待したりすることが難しかったからだろう。


(考えついたやつに感謝しないとだな……)


 ルトナは、制度を作った、顔も知らない奴隷商人に感謝を捧げた。


「んじゃあ、冒険者として魔物と戦うのは?」


 この質問をすると、ユノは顔を伏せた。


「わかりません……」


「まあ、そうだよね。ずっとショーケースの中だったわけだし」


「一応……すぐ潰れた労働奴隷のときは、日が昇ると起こされ作業、日が沈んで半日くらい立って作業終了という生活でした。戦闘奴隷は日が昇ると戦闘開始で日が沈むと戦闘終了、というパターンがあるようで、おそらくそれでも私はすぐに潰れると思います。そういう尺度ならわかるのですが、……冒険者といわれても難しいです。毎日拠点の街かなにかに帰って、荷物持ちなら……日中ずっと動き詰めでも問題はないとは思うのですが……」


 ここまで聞いて、ルトナは大体感覚が掴めた。


(「ハーフフェアリーに体力がない」ってのは、労働用の奴隷として、めちゃくちゃに働かせる際の話か。奴隷商人としては死活問題だろうな。冒険者としてならそこまでではない。でも、じゃあ完全に無視していいかっていうと、俺と同じ体力を持ってる感覚で連れ回せばすぐに潰れて、鍛えてもフェアリーの血筋で伸びは悪そうだし、そうでもない。俺の前世ほどじゃないにしろ、体力がない一般人女性くらいを想定するのがちょうどいい感じか)


「一ヶ月くらい野宿でどこかに篭りきりというのは……かなり厳しいかと。申し訳ありません」


「なるほどな」


 だいたい把握できた。


「全く問題がない」


 この先ずっと冒険を続け、ダンジョンかなにかに(あるのかは知らないが)潜る必要があるような時があれば、おそらく別の奴隷を購入する必要はあるだろうが、今必要なのは魔力大龍を前に、短くて十分、長くて数時間の間戦い抜ける仲間だ。

 ましてやその場合でもユノを前衛に立たせるつもりはあまりない。


「ま、とりあえず街の外に出てみよう」



「それにしても……」


 街の中を二人と一体で歩きながら、ユノは口を開いた。ルトナもユノも、ばっちり装備を整えるようなことはなく、ユノに至ってはピコから貰った古着である。都市の商人の娘という感じだ。依頼の受注さえしていないし、初級の強さの魔物と戦ってまわり、ユノの体力を見るくらいしか考えていない。

 グドリシアは結局ある程度ルトナに付き合うことにしたようだ。つまり、今は大人しく従っている。たまに指示に逆らうことがあり不安もあったが、とりあえず一緒に動かないことには始まらないとルトナは考えている。


「ご主人様のような強大な魔力を持っていても、属性について知らないようなことがあるのですね」


「まあね。なんとなく気付いてたけど、常識なんだ?」


「……まあ、そうですね……属性は皆意識するところです。魔法には大切ですから。それを歯牙にもかけないご主人様は、流石です!」


「私が常識知らないのをフォローしてくれてるからだと思うんだけど、それやめない?」


「?」


「よさないかユノ……とか言ったほうがいいか」


「???」


 彼女の言葉に適当に相槌を打ってから、気付く。

 ユノの言葉には気になるポイントが一つあった。


「魔力……見えるの?」


「はい」


 ユノは、返事をしてから、怯えの成分が入った真面目な顔を作った。


「……見える立場からすれば、ご主人様の魔力は恐ろしいです。燃え盛るような朱色をしています。夕焼け色というほどではないので、特殊属性ではないとは思いますが。戦闘奴隷を見る機会は少なくありませんでしたが、ご主人様以上を見たことがありません」


 ルトナは、自分を見て戦慄していた戦闘奴隷のおっさん(といえば良いか爺さんといえば良いか)を思い出した。

 そして、続けて、ルトナの魔力は、世界を救うみたいな話をユノがすんなり受け入れた材料の一つだったんだなと遅れて気付く。


(まあ、エルフの体は神様に、自分で選んで貰った恩恵だしな。そのくらい役に立って貰わないと)


「?」


 きょとんとするユノを、なんでもないよと言って安心させて、その頭を撫でる。

 ルトナが昨日自分でケアしてやった黒髪は、良い手触りだ。


「私はちょっと常識がなくて。小さなことを質問しまくると思うから、ちゃんと答えてくれると助かるよ。からうために知ってることをわざわざ質問する、なんてことはないと思うから」


「はい、わかりました。ユノにお任せ下さい」



 試しに二人と一体で冒険に出てみると、おそろしいほどに効率が良かった。

 ユノは、奴隷同士の話や奴隷商人から受けた労働用の教育によって、この世界の常識レベルの知識をしっかり保有しており、ルトナの持っている疑問には大体答えた。

 グドリシアは、これまで魔物の住処の近くまで、ルトナの足で徒歩数時間程度かかっていたところを、数十分以内に短縮(どちらもルトナの感覚であるが)。一人と一体を買う際には、ひいこら言いながら一日三体中型の魔物を狩ったわけであるが、グドリシアがいればおそらく六体狩っても門はまだ閉まっていないはずだ。


 ユノ曰く美味しいらしい羽の生えたウサギを数体狩って帰ると、ピコのお手伝いさんが血を抜いてシチューにしてくれた。

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