七章 系外惑星共和国連合
■七章 系外惑星共和国連合
地球で起きたいくつかの大事件は、いずれも事故として有耶無耶のうちに処理された。事件をテロリストによる一連の事件と推測していたアーカイブの多くは何者かの手によっていつの間にか消えていった。多くのゴシップメディアは真実と創作をまぜこぜにした巷談を伝えた。それはあまりに胸躍る陰謀と冒険譚であり、いつしかファンタジーとして人々の胸に焼き付いていくことになった。
よって、公的な事実は、いくつかの事故、些細な軌道上のテロリズム、各国がかねてより秘密裏に進めてきた系外惑星の独立計画発表、これがたまたま同時に起こっただけということになった。
地球に領土を持つ国家のその主権の範囲は、正確に地上のみに限定されることも確認され、軌道上の星間カノン基地は新たに興される系外惑星国家に領有された。国境は海抜三百キロメートルの球面とされ、それより上のあらゆる滞在可能な施設のエントランスハッチに通関が設けられ、新国家がそこに防衛戦力を配置することも宣言された。月面にあった古い資源調査基地も新国家の領有するところとなったが、新国家の防衛基地以外の機能を持つことはそれ以降ついになかった。
この条約により、地球上の国家はいかなる方法でも星間カノンを新たに建造することが不可能となってしまったことは幾人かの評論家が指摘するところとなったが、友好的な条約国が責任を持って星間カノンを増設し、公平に開放することから、リスクはゼロないし微小、と結論付けられた。その実は、星間カノンによる無敵の攻撃手段を系外惑星側だけが持つことができるという著しい軍事的不均衡なのであるが、あらゆる圧力に阻まれてついに誰もこのことを指摘することができなかった。
新国家の名称は、当初の暫定の名称であった系外惑星共和国連合となって定着した。それまでの過ちを繰り返さないためにも、各惑星に一つの独立共和国を置くこととなった。その上に連合議会が統制をとるという体制である。
各国大統領の中でも地球との交渉・交易の窓口となったアンビリア共和国の若き初代大統領は、経験が深く優秀な元アンビリア行政官を副官に置き、その柔らかい物腰と人好きのする笑顔で、新国家に対して警戒心を持っていた多くの地球の人々にも徐々に好意的な気持ちを植え付けていった。
数多くの懐疑的な意見にもかかわらず、系外惑星共和国連合の名義で発行した第一回連合国債は予想の数倍の応募を得て完売し、すぐさま数回の追加発行が行われた。得られた資金は、各惑星に独占企業が持っていた居住区の所有・管理権の購入に充てられ、名実ともに、それぞれの惑星の居住区が国に属する市民の都市となった。同時に独占開発権も政府によって買い上げられて、地球の系外惑星開発機構との合意の上に独占権は完全に解体された。そののち、開発中の地区の開発権は既存の企業が再度買い戻す形で開発が継続され、それ以外のすべての地表があらゆる事業者に対して解放されることとなった。ここに、それまで存在しなかった様々な物品を生産する工場が次々と進出していった。また、地表は個人の所有をも認められ、大規模な分譲地があちこちに拓かれ、物好きな富裕層などからなる数多くの移民も住むようになった。
抑圧的な独占権の基づく支配から、開放的な国家連合となった星々は、ゆっくりと自律的に成長していくこととなった。
***
何年かののち、アンビリアの片隅で、ささやかな取引が行われた。
アンビリアで初めてのペットショップを開店した男は、客として訪れた一組の男女に対して実に失礼な軽口をたたき、そして、地球ではあまりペットとして根付いていない飛べない鳥のつがいを販売したのである。
●●●●● 空穿つ砲と飛べない鳥 完 ●●●●●
★★★ あとがき ★★★
カノンスペースクロニクルの序章、宇宙人たちの母なる地球からの決別の物語は、これでおしまいです。
宇宙に飛び出して行った人類のその後、そして主人公たちのその後については、この話の続編として書かれることはありませんが、同じシリーズの別作品でしっかりと描かれます。
ぜひそちらもチェックしてみてください。
技術や舞台設定についてはこの小説ページの続きで順次おまけコンテンツを用意する予定ですので、お楽しみに。




