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スライム王との出会い

【森の中】


期待に満ちた目で冒険へと繰り出したミャンジャム。


これから始まる旅に胸を躍らせながら森の中を進んでいた彼女が、最初に出会ったのは――男性でも女性でもなかった。


「……スライム?」


そこにいたのは、青く透き通った巨大なスライム。

しかも頭には、なぜか立派な王冠を乗せている。


突然の出会いに戸惑うミャンジャムだったが、そんな彼女をよそに、スライムの方から声をかけてきた。


「おお! ようやく来たか!」

「え?」


「余はブルーキングスライムであるぞ。お前が来るのを、ずっと待っておったのだ」

挿絵(By みてみん)

「待っていた……私を?」


思わず首を傾げるミャンジャム。

するとブルングは、少し得意げに身体を揺らした。


「覚えておらんのか?四年前、クラウンから離れた場所にある森で、お前が四人の仲間と一緒にいたとき、余と出会っていただろう?」


「…………」


ミャンジャムは腕を組み、必死に記憶を掘り起こす。


四年前。

クラウンを離れた森。

四人で行動していたとき……。


「…………あ!」


数分ほど考え込んだ末、ミャンジャムの表情がぱっと明るくなった。


「ああっ!」


突然、大きな声を上げる。


「思い出した!」


「おお、ようやく思い出したか」


「四年前……初めて魔装騎兵と戦う直前に見た、あの青い物体!」


「たぶん、それだ」


「えっ……じゃあ、あのときの『あれ』って、あなただったの!?」


ミャンジャムが驚いたように目を見開く。

ブルングは満足そうに身体をぷるんと揺らした。


「そういうことだ」


「でも、どうしてあのとき私たちを襲わなかったの?」


「余はランブルベアの一体を倒した後、お前たちの気配に気づいたのだ」


ブルングは当時のことを思い出すように語り始める。


「どうしたものかと迷っていたのだが……お前の後ろにいた、一番年上の女性がいただろう?」


「一番年上……?」


「そうだ。あの女の強さは別格だった」


ブルングの声が、ほんの少しだけ真剣になる。


「あの女と戦っていたら、余が助かる可能性など全く見出せなかった。そこで、慌てて逃げ出そうとしたのだ」


「……ああ」


ミャンジャムは、ようやく誰のことなのか理解した。

(お母様のことね)


「アテナお母様なら、確かに……」


ミャンジャムは苦笑する。


「でも、私が何かしたの?」


「したではないか」


ブルングがミャンジャムを指すように身体を伸ばした。


「お前は先頭に立って、仲間たちに『あの子は攻撃しないで』と言ってくれただろう?」


「え?」


「あれのおかげで、余は無事に逃げることができたのだ」


ブルングは胸を張る。


「余はあのとき、お前に命を救われたようなものなのだ」


「……そうだったのね」


ミャンジャムは少し驚いた顔をした。

そして、ふっと笑う。


「でも、あなた。前はあそこの森にいたのに、どうして今はこの森にいるの?」


周囲を見渡す。


「ヘルメスの城から見たら、ほとんど真反対の森じゃない?」


「余は、あの森で機械の人間を見た」


「……魔装騎兵のこと?」


「そうだ。あれの強さは余も知っておる」


ブルングは遠くを見るように身体を揺らす。


「あの一帯は危険だと判断した。だから余は、こちら側の森へ移動したのだ」


「それで……?」


「いつか、お前と再び出会えることを楽しみにしながらな」


「……ああ、そうだったのね」


その表情から、警戒心が少しずつ消えていく。


「四年も一人で、私が来るのを待っていてくれたんだ」


「まあ、そうなるな」


ブルングはなぜか誇らしげに胸を張った。


「感謝しろ。余はずっと一人で、お前が来るのを待っておったのだからな!」


「ふふっ♪」


思わずミャンジャムの口元が緩む。

するとブルングは、改めて彼女の姿を眺めた。


「ところで、見たところソナタは一人のようだが……」


「……そうね」


「ソナタがどうしてもと言うのならば――余が旅の仲間になってやってもよいのだぞ?」


「え?スライムと?」


ミャンジャムは目を丸くした。


「スライムではない!」


ブルングが勢いよく身体を膨らませる。


「キングスライムだ!しかもブルーキングスライムなのだぞ!」


「ああ、そうなんだ」


ミャンジャムはにっこり笑った。


「じゃあ、ブルングでいいね♪」


「ブルーキングスライムだと言っておろう!」


「いや、だって長いし」


「…………」


「ブルングぐらいで、よくない?」


「……まあ、ソナタがそう思うのなら、それでも構わんが」


ブルングは渋々といった様子で身体を揺らした。


「ところで、そなたの名は?」


「ミャンジャム・イレイユ……」


ミャンジャムは一瞬だけ言葉を止める。

そして、少し照れくさそうに言い直した。


「ミャンジャム・イレイユ・クーパーよ」


「……ソナタも大概長い名だな」

「……そうね」


ミャンジャムは苦笑する。


「ミャンでいいわ」


「では、ミャンと呼ばせてもらおう」


それから二人は、しばらく他愛のない話を続けた。



最初こそスライムという魔物に対する警戒心を抱いていたミャンジャムだったが、ブルングの妙に偉そうな口調と、どこか憎めない性格に触れているうちに、その警戒心も少しずつ薄れていった。

そして――。


「ねえ、ブルング」


「なんだ?」


「これから一緒に旅をするんだったら……お互いの強さを確認しておく必要があると思わない?」


「それは良い提案だな。余も同意するぞ」


ブルングは素直に頷いた。

しかし、その直後。


「しかし……」


その声には、少しばかり余裕が混じる。


「そなたはまだまだ若いな」

「……?」


「果たして、余と近い強さを持っておるのか?」


ニヤニヤ。


その言い方に、ミャンジャムの眉がぴくりと動いた。


「……そう」


彼女は静かにベイオネットを構える。


「じゃあ、試してみましょうか」


「む?」


ブルングは動じない。


「余はスライムだぞ。それもスライムの王だ。打撃系の武器などでは、これっぽっちもダメージにはならんが?」


「へえ……」


ミャンジャムはベイオネットへ魔力を流し込む。


持ち手付近に配置された魔法弾発射孔へ、次々と魔力が集まっていく。


「だったら――」


「?」


「これならどう?」


直後。

ズドドドドドドドドッ!!


青白い魔法弾が、次々とブルングへ叩き込まれた。


「――あたたたたたたたたたたっ!!分かった! 分かったから!」

挿絵(By みてみん)

魔法弾を浴びながら、ブルングが必死に叫ぶ。


「あたたたたたっ! 余が悪かった! 余が悪かったから、それを止めてくれ!!」


「…………」


ミャンジャムはしばらく無言で撃ち続け――。


「はい」


ようやくベイオネットを下ろした。


「どう? 私だって弱くないでしょう?」


「……ソナタ、なかなかやるではないか」


ブルングは少しだけ焦げたような身体をぷるぷる震わせながら答えた。


「では、次はあなたの番ね」


「良いだろう。余の戦い方を見せてやるぞ」


「楽しみね」


そのときだった。

ブルングが、ふと森の奥へ視線を向けた。


「……しかし」

「ええ」


ミャンジャムも同じ方向を見る。

木々の陰。

こちらの様子を窺うように、三つの影が動いていた。


「スタンボアね」


「そのようだな」


三匹のスタンボアは、木々を壁にしながら、少しずつ二人へと近づいてきている。

しかし――。


「よく見ておくのだ!」


ブルングが突然、空高く跳び上がった。


「え?」


一気に上昇する青い身体。

十数メートルの高さまで到達したところで、ブルングは魔力を高め始めた。

その瞬間。


ぷるん。

巨大な身体が、大きく膨らむ。


「な……!」


ミャンジャムが驚きの声を漏らす。


ブルングの身体は、見る見るうちに巨大化していった。

そして――。


ドォォォォン!!

挿絵(By みてみん)

地面へ降り立ったとき。

そこにいたのは、先ほどまでのブルングとは比較にならないほど巨大なスライムだった。


三匹のスタンボアが逃げる間もない。


「これが余の戦い方だ!


巨大なブルングの身体が、三匹のスタンボアをまとめて押し潰した。

土煙が舞い上がり、森が大きく揺れる。



やがて土煙が晴れると――。


三匹のスタンボアは、すでに動かなくなっていた。ミャンジャムは巨大なブルングを見上げる。


「……すごいのね」


ブルングは得意げに身体を揺らした。


「どうだ? 余は強いであろう!」


「ええ。これは頼りになりそうね」


「そうであろう!」


こうして二人は、互いの力を認め合った。

そして――。




【その日の夕方】


森の開けた場所で、焚き火がぱちぱちと音を立てていた。


ミャンジャムは倒したスタンボアの皮を剥ぎ、肉を適当な大きさに切り分ける。


「焼くのか?」


「ええ。その方が美味しいわよ」


「余はそのままでも食べられるぞ!」


ブルングが胸を張る。


「それに、焼くと栄養が落ちてしまうのではないか?」


「味付けよ」


ミャンジャムは笑った。


「少し待ってて」


鉄の棒に肉を突き刺し、焚き火の上でじっくりと焼いていく。

肉から脂が滴り、香ばしい匂いが森の中へ広がっていく。


やがて焼き上がった肉に、ミャンジャムがリュックから取り出した調味料を振りかける。


「はい、完成」


まずは愛馬へ。そしてブルングへ。


「どうぞ」


ブルングは焼き上がった肉を見つめる。


「生の方が美味しいと思うのだがな……」


そう言いながらも、肉を身体の中へ取り込む。


「ムシャムシャ……ん?」


身体がぴたりと止まった。


「んん!?」


次の瞬間。


「ウマー!!」


ブルングの身体が大きく弾んだ。


「これは美味いのです!!」


ミャンジャムが笑う。

これまでブルングにとって、肉とは丸飲みにするものだった。


皮を剥ぎ、火で炙り、塩と胡椒で味付けする。

そんな人間の食べ方を、ブルングは初めて知った。


「どう?美味しいでしょう?」

挿絵(By みてみん)

「うむ!これは素晴らしい!」


ブルングは夢中になって肉を食べ続ける。

その様子を眺めながら、ミャンジャムも嬉しそうに笑った。


「でしょ~♪」


こうして――。

元聖騎士のミャンジャムと、スライムの王ブルング。

二人の新たな旅が始まった。


まだ出会ったばかりの二人だったが、この日の夕食を境に、互いを旅の仲間として受け入れていくことになる。


森の中に灯った小さな焚き火。


その炎を囲むようにして、人間とスライム、そして一頭の愛馬が並んでいた。


――元聖騎士と、スライム王。


奇妙で、少し変わった二人の冒険が、今ここから幕を開けた。



終わり。



カミングスーン


本作を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

挿絵(By みてみん)

次回作も準備中です。

新たな物語をお届けできるよう、少しずつ制作を進めておりますので、どうぞ楽しみにお待ちください。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この第11話をもちまして、「元聖騎士お姉さんミャンジャム冒険記」は第一章の一区切りとさせていただきます。


本作は、この先もミャンジャムたちの冒険を描いていく予定ではありますが、ここでしばらく作品を寝かせたいと思います。


また、いつか続きを書きたくなったその日に、第二章を始めたいと思います。


それまでの間、ミャンジャムたちの冒険はここで少しお休みです。

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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