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【アスカム・ヘザリントン】
長く眠ると言われた時は頷いたけど、本当にそんなに長く眠れるのか不安になって確認に行ってしまう。
「すー…すー…」
「かわいい…」
あれから何度か家を訪ねてる。
一応、声をかけてから寝室に入ると変わらない姿で眠ってるのを見て安心するんだ。
つい手を伸ばして頬を撫でてしまうと必ず寄り添うように僕に近付いてきてくれるんだ。
ただの確認なのに、こうして可愛い姿を眺めている。
「殿下、そろそろ」
名残惜しいと思いながら今日も重い腰を上げた。
「なにしてんの」
「うわっ!」
寝室から出た僕の背後から声が聞こえてきた。
「メル…」
「なにしてんのって聞いてんの」
顔色の悪いメルがいた。
神様は凄い、どうやって移動してるんだろ。
「あ…長く眠るって聞いて…心配で見に来たんだ」
「長く…?ここで?」
「あ、うん。キャリーという薬草が届くまで眠るって」
「長くないじゃん」
神様基準だと長い眠りではないのかな?
「……あんた、どうすんの」
「なにが?」
「これからママとどう向き合うのよ」
「僕と家族になってくれたら──」
最近は未来のことを考えているんだ。
僕がいて、ラナがいて、子どもがいる。そんな未来。
「その後のことを聞いてんの」
「あと…?」
家族になった後?
「あんた、死ぬでしょ」
「っっ」
言われて初めて気付いた、それと同時にメルの言葉も思い出した。
何度もメルは「死ぬ」と言っていた。
過去の僕は「死なない」と伝えたけど…
僕は死ぬ。
いつかラナを残して死んでしまう。
「か、神様に寿命はないの?」
「ある訳ないじゃん」
そういうことだったんだって。
僕は確実に死んで、残されたラナは生き続ける。
死なないよ。なんて気軽に言えない。
だって約束できない。
そんなこと約束出来っこないんだ。
「ママを残して死ぬ奴なんかにママは渡せない」
言う通りだと思う。
僕だって逆の立場なら嫌だ。
ラナが死んでしまうと思うだけでも嫌なのに…。
「で、どう向き合うのよ」
答えが出せない。
だって答えを持ち合わせていない。
「も、もしも僕が寿命のない存在になったら──」
ドシャアアアアアアアアンッッッ!!
大きな雷が落ちた。
外は晴天のはずなのに。
「そう言ってみんな死んだ!!寿命のない存在になったのに…!ママと永遠に居られるのに、死んでいったんだ!!」
「………ん、メ、ル………?」
ラナが起きてきた。
薄く目を開けてメルを見てる。
「どう、した、の?怒って、るの?」
とても眠たそうだけど、必死に言葉を紡いでる。
「ライに怒っただけ、寝てていいよ」
「ん………」
僕がいることに気付いてないのか、そのまま眠った。
「ママに近付かないで」
ラナの頭を撫でながら言うメルに反論できない。
それでも傍にいたいと言えない。
「殿下、今は…」
「うん…」
答えを持ち合わせていない僕は帰るしか選択肢がなかった。
◇
「ママ、ママ、起きて」
愛しい我が子の声が聞こえる。
「ママ、迎えが来てる。準備するよ」
そうだった。
キャリーが手に入ったらまた王城で働くんだった。
「ほら、化粧するよ」
ふらふらな体を起こすと、まだ目が開かない私に化粧をしていくメル。
化粧が終えた頃、ようやく起きることができた。
「ん、ふあぁぁ……おあよ」
「おはよ、着替えも終わってるよ」
どうやら全てしてもらったらしい。
「ママ今なにしてるの?」
そういえば説明してなかったと思い、最近のことを話した。
「私も手伝う」
「それはメルの望み?」
「うん」
キョロキョロと周りを見渡してみるけど…ライがいない。
「ライは?」
「…喧嘩した」
目をぱちくりとさせたのは私。
メルは嘘をつける、だけど私とライに嘘をつく時、とても白々しくなる。
つまりバレバレなのだ。
どうしてそんな嘘をついたんだろ。
『ライ』
直接、ライに話しかけることにした。
『なあに?』
『メル、どうしたの?』
『ちょっとね、意見の衝突ってとこ』
それなら喧嘩で間違いないと思うんだけど…メルは喧嘩したと思ってないらしい。
『大丈夫?』
『大丈夫だよ、メルは近くにいるの?』
『うん』
『今は傍にいてあげて、多分寂しいんだと思う』
『分かった、ライは?』
『俺は平気』
メルに向き合ってこれからどうしようかと悩む。
うーん…悩むほどでもないか。
メルも手伝ってくれたら治癒師達の成長も早いだろう。
「ライと仲直りしたくなったら帰るんだよ?」
「ふんっ!」
「ふふっ、行こっか」
「うん」
一階に降りて護衛にメルも一緒に手伝うと伝えた。
王城に着いてしばらくしたら陛下から返答がきた、メルも一緒で構わないと。
「もう!なんでこんなことも出来ないのよ!」
「ひいっ!ごめんなさいいぃぃぃぃ!」
この国の技術力に呆れてるメルは治癒師達に基礎から教えることにしたようだ。
「だ・か・ら!その魔力の流し方は間違いだって言ってんの!もっと細やかに流しなさいよ!」
「こうですか!?」
「ちがああああう!もう!みんなこの魔法陣に正確な量を流せるまで寝るのは禁止!」
スパルタだ。
「ママ、手伝う」
「これ、予防薬の完成形がこの薬。これに近付けたいの」
「赤子より拙いんだから予防薬なんて作れないでしょ」
「作れるようにするのがママの仕事」
「………」
前途多難らしい。
なんともいえない顔になってる。
「あ、キャリーに雫を垂らすのは?」
「この国の人間に出来ると思う?」
「…」
数日はこんなことの繰り返し。
夜中になると客間に戻り、二人で試行錯誤して朝になると治癒師達の教育に力を入れた。
治癒薬も作り続けてるから時間が取れない。
今は夜中。
「ちょっと寝顔見てこようかな」
さっきから進んでない。
頭を冷やす為にも見に行きたいな。
「寝顔…?……まさかあいつの?」
「うん、駄目だった?」
「……お願いがあるの」
下を向いたメルの視線が欲しくて足元にしゃがみ込んだ。
「うん、なあに?」
「記憶を取り戻して欲しい」
「分かった」
「…」
どこかにある私の記憶。
取り出し、私自身で周りに口を閉ざした記憶。
「今じゃなくていい」
「うん」
「あいつと家族になりたいと思った時に取り戻して」
「分かった、どこに記憶があるのか知ってる?」
「その時案内する」
「うん」
「いってきて」
「分かった」
アムの寝室へと転移し、ベッドに乗り上げた私は初めて考えた。
アムと家族になるということを。
私は果たして家族になりたいのかな。
伴侶になって欲しいといつか思うのかな。
伴侶になったら…
そうだね。
伴侶になったら毎日アムの笑顔が見れるかもしれない。
そんな未来を考えるのは悪くない。




