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♂転性してもエアラインパイロット♀  作者: 月隠優
第一章 パイロット復帰
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25話 本州縦断2

無視は良くないと思いつつ、翼上のマーキングが見える位置に座っているのでちょうどいいと思いつつ、恐る恐る近付く。


「昨日の嬢ちゃんだよな?」

「はい、昨晩はご馳走様でした」

「福岡からのお客さんだったのか、帰りが一緒になるなんて奇遇だね」

「いえ、家は関東です」

「そうなの?」


通路側に座る店主が奏に声をかける。窓際に座る幸助さんは...


「寝てますね」

「ああ、案の定遅刻だったが飛行機が遅れたのもあって助かった」

「それは良かったです...。少し羽見せて貰ってもいいですか?」

「ああ、別に構わないよ。嬢ちゃん見かけによらず窓際の席が良かったのか。取れなかったのか?」

「いえ、そういう訳では...」


昨日の店主が立ち上がってくれたので、奏は奥に進む。


「あ、機体が進むかもしれないので座ってください」

「あ、ああ。」


疑問符を浮かべながら店主は通路側の席に座り直す。


暗めに設定された窓のボタンを明るくなるよう数回押して、マーキングを覗き込む。


「うん。問題無し」

「キャプテン、いかがですか...」


奏の姿を見て確認しに来たチーフパーサーに慌てて振り返り人差し指を口の前で立てる。


「キャプテン?」

店主が奏をじっと見つめる。


「....」

「あれ、もう着いた? あっという間だったな〜、あれ? 昨日の嬢ちゃんじゃん。元気してるか〜?」


眠りから覚め、奏の頭をわしゃわしゃ撫でる幸助さんは一旦間を空けてから状況を把握する。


奏は修羅場を見たかのような顔をした幸助さんは無視して、店主に襟元から見える4本の金色の線が入った肩章を見せる。


推力が上がり、少し唸るエンジンとともに機体は前にゆっくり前進する。


「お邪魔しました。間もなく離陸致しますので、シートベルトをしてお待ちください、」


奏は通路に戻り店主と幸助さんに頭を下げ、チーフに声をかける。


「花澤チーフ、戻ってアナウンスします。準備進めてください」

「承知しました」


奏は店主に小さく手をふり、コックピットに向かう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


コックピットに戻りパーカーを脱いで放り投げる。席に座りシートベルトをした奏は、マイクを手に取った。


「コックピットよりご搭乗のお客様にお願い申し上げます。この便の担当をいたしますキャプテンの有馬です。ただ今、視界不良のため機材の到着が遅れた影響により2時間ほど遅れて運航しております。ご迷惑をおかけしますこと心よりお詫び致します...、」


『NHA 569 hold short of runway 』

『hold short of runway NHA 569』

アナウンス中の管制からの指示も聞き逃せない。


「大変長らくお待たせいたしました。まもなく離陸致します。今一度シートベルトをご確認いただけますようお願い申し上げます。また上昇中大きく揺れることが予想される為、ベルトサインが消灯するまで席をお立ちにならないようお願いいたします、」


「Ladies and gentlemen, えー、this is Captain Arima speaking. On behalf of the entire crew, I would like to extend my sincere apologies for the inconvenience caused. Due to poor visibility, ...the arrival of our aircraft was delayed, resulting in a delay of approximately ... two hours for this flight. We deeply regret any inconvenience caused and appreciate your understanding....、」


「Thank you for your patience. We apologize for the extended wait. We will be taking off shortly. We kindly ask you to please check and fasten your seat belts once again. As we anticipate some significant turbulence during the ascent, we kindly request that you remain seated until the seat belt sign is turned off.

thank you」


アナウンスを終え、急いで離陸準備をする。

フライトコントロールチェックもここでやっと実施する。

奏たちの目の前を着陸するボーイング737型機が横切る。


『NHA 569 line up and wait 』

『line up and wait NHA 569』


「アイハブコントロール」

「ユーハブ」


管制から滑走路内待機が指示されたので操縦を奏が引き継ぎ、副操縦士は必要な灯火類の点灯、テイクオフフラップのセット、その他指定の位置にスイッチが向いているか確認する。


「ビフォーアテイクオフチェックリスト」

「チェックリストコンプリート」


副機長はシートベルトサインの点灯消灯を数回繰り返し、椅子に深く座り直す。

奏はブレーキを強く踏み、エンジンの推力をあげる。

エンジンの回転に異常が無いこと、オイルの温度などを確認しながら、先行機の退避を待つ。


着陸機の滑走距離が伸びてしまった為、エンジンランアップの時間が十分に取れた。


管制から離陸許可をもらいブレーキをゆるめるため足の力を徐々に抜くと機体はゆっくり前に進み出す。

エンジンの推力は既に大きいので、完全にブレーキから足をはなすと機体は急激に加速しだし、TO/GAスイッチを押すと更に推力が上がり背中が座席に強く押し付けられる。


雪の日の離陸は、凄く緊張する。

視界が悪く滑走路の反対側の端は見えない。少しの風で機体が横に滑り出し、エンジンに異常があった場合滑走路内で止まれる保障のあるスピードも低い。


「ローテート」


副機長のコールと共に操縦桿を引くが、離陸フラップの角度が通常時とは異なるので少し雪の日特有の違和感がある。


機体が浮かび上がると、前は何も見えなくなるため頼れるのは計器だけとなる。


姿勢が安定した後は、オートパイロットにお任せ。右旋回で日本海側へ進路をとり、サングラスを用意しておく。

冬のこの時期は揺れる高度が決まっている。雲を抜けて、太陽と「こんにちは」した後にその揺れる高度さえ突破したら静かな空が見えてくる。


福岡の天気は晴れ。

約2000キロ離れた場所では全く別の景色の世界が広がっている。

雪雲の上には明るい空が待っています。

急に明るくなると本当に目が開けられなくなるのでサングラスをかけます。

有名な話なので皆さんどこかで聞いたことがある話かもしれませんが、偏光グラスは計器が見えにくくなくなるのでパイロットは使いません。

奏もその話は知識として知っていたので、普通のサングラスを使っています。わざわざ偏光グラスを機内で使ったことがないので計器がどんな見え方になるのか奏は知りません。

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