11話 私がキャプテンです
「キャプテンの有馬です」
出発前の機内でのブリーフィングの場で奏が口を開くと、奏の存在を知っていたCAさんは会釈し、その他の人はキョトンとしている。
キャプテンとはその飛行機を目的地へ飛ばす上での最高責任者である。
その判断が「間違い」ではない限りキャプテンの判断は絶対であり、ドアクローズされれば社長ですら逆らうことができない。(極論かつ逆らう人はいないと思う)
時にはサービス業界では神様とされるお客様を拘束する権利、権限を持つ。
奏は今、その権限を私が持つと宣言したのだ。
「今日は管制官の津田さんが搭乗訓練でいらっしゃいます」
「津田開です。よろしくお願いします」
「今日の沖縄までのフライトですが.......」
ブリーフィングを終え後ろの準備が整うと、お客様の搭乗時間となる。
ボーディングブリッジから手を振って下さる方もいるが、振り返せるのは余裕がある時。
風向きの関係で使用滑走路が変わったため、拓也は急いでデータをCDUに入力する。
奏はこの機体の整備記録に目を通している。
2日前にC checkを終え、今回で5フライト目。まだタイヤやブレーキが新品であるため普通は安心するところだが、丁寧に扱いたいので少し気をいつもより引き締める。特に問題の報告も上がっていないため大丈夫だろう。
管制から出発許可を貰い、グランドさんにプッシュバックをお願いする。
パーキングブレーキを外してグランドさんにトーイングトラクターで飛行機が自走可能になる位置まで押してもらう。
「スタートboth」
奏が声を出すと後ろに座っている津田さんが少し身体を前に出す。
「bothエンジンスタート」
拓也はエンジンのスラストがアイドルになっていることを確認し、エンジンスタートスイッチを捻る。
エンジンの回転数が上がったのと異常がないかを確認し、燃料供給を開始する。エンジンに燃料が入り始めると本格的にエンジンが唸りを上げる。まあB787はだいぶ静かな方だが。
プッシュバックが終わる頃にはエンジンの回転は安定する。
チェックリストを確認し、タキシング許可をもらい滑走路まで自走する。
拓也が機体を滑走路まで走らせる間、奏は離陸準備を進める。フラップを5、トリムをセットして、
「フライトコントロールチェック。エルロンライト」
操縦桿を右奥までしっかり捻る。
全ての羽についた、姿勢を制御する部品が正常にかつ滑らかに動くことを確認する。
「チェック、レフト」
左も同様。
「エレベーターアップ、気をつけて」
奏が操縦桿を手前に引くと、拓也の前にある操縦桿も連動して動くので、拓也の腹部スレスレまで操縦桿がくる。
「チェック。ダウン...。チェック。ラダー......」
一通り確認を終えしばらくすると管制官の指示で滑走路の手前に止まる。
着陸機が前を通り過ぎると拓也が機体を滑走路上で停止させる。
「NHA23 wind 020 at 3 ランウェイ05 cleared for take off 」
管制からの離陸許可が出た。
「NHA23 cleared for take off 」
拓也が復唱すると。
「I have コントロール」
「you have」
奏は操縦桿に手を添えて、右手でHUDを下ろしてからエンジンの出力を上げる。
「スタビラーイ」
拓也がエンジンの動作に異常がないことを確認してコールすると、奏はTO/GAスイッチを押す。
スラストレバーが前進するのに比例してエンジンの音が大きくなる。
奏はいつでも離陸を中止できるよう右手をスラストレバーに添える。拓也も左手を添える。
座席に背中が食い込む。
「80」
HUDに表示される速度を確認する。
「チェック」
「V1」
拓也がコールすると、奏はスラストレバーに置いていた右手を離し操縦桿に添える。
V1は離陸決心速度と言われ、この速度になったらエンジンが片方止まったとしても、滑走路上で機体が停止できる保証がないので離陸を続行する。
「ローテート」
奏が操縦桿を引くとノーズギアが浮き始める。
「V2。ポジティブレート」
「ギアアップ」
「ギアアップ」
奏は右に機体を傾ける。これから右旋回でほぼ180度機首の方向を変える。
ある程度旋回し終わったところでオートパイロットをつけ、操縦桿から手を離す。
その後しばらくは管制とのやりとり以外はほぼ無言だった。
CAさんから笑顔で怒り混じりの連絡をもらうまでは...。
管制官の搭乗訓練ってのがあります。
管制官とパイロットの現場での情報交換の場でね。
確か2年に一回の義務だとかだったと思います。
毎日じゃなくていいけどたまにコックピットで空を観たいという方管制官とかどうですか?
与えられる仕事は基本的皆同じなので、年齢的上下関係が他の業種に比べてそんなにないと聞きます。
ただゴールデンウィークとかありませんけどね。
将来航空関係で働きたい方ご参考に程度に。




