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魔女と騎士  作者: 猫の玉三郎


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72話◆魔女は客を迎える

『魅了』の効果を実感し、さらに材料の魔草まで見せられたギルド長はレシピを買いとると即断してくれた。すばらしい、そうこなくっちゃ。


「しかし、これほどものだと私にはそれに見合った報酬がいかほどか想像もつきません」

「私の目的はまずこれを広げることなのよ。だから金銭的な報酬はいらないわ。ただちょっと面倒なことを頼みたいの」

「我々にできることなら、なんなりと」

「一週間に一回。領都に行ってそこでいろんな情報を仕入れて来てほしい。特にほしいのはグスクーニア家のご子息の情報だけど、まあそこにこだわらなくていいから、とにかくなんでもね。なんのまじないが流行ってるとか、どういう事件が起こったとかね。ついでにおいしいお菓子を買って、報告がてらウチに来てほしいんだけど、どう?」


 だって私の騎士だもの。せめて様子が知りたいと思うじゃない。どうせ遅かれ早かれ彼らも領都に行くんだから、今のうちに足を運ぶのも悪くないと思うわよ。


「わかりました。必ず報告しに参りましょう。その時にレシピのことで相談などに乗っていただいてもよろしいですかな?」

「ええ、いいわ。じゃあこれで交渉成立ね」

「我々が得をしすぎています。販売が波に乗りましたら、改めてお礼をいたしましょう」

「あたしの目的は『魅了』を広げることなのよ。あなたたちが成功してくれるのが一番うれしいわ」


 詳しい作り方を伝え、喘ぎ草の栽培方法は叫び草と一緒だと教えた。一緒すぎて見分けが付かないくらいだ。魔草の買い取りリストにも喘ぎ草を加えてもらうようにした。


「細い人参のような根っこも同じですが、よく見ると花弁の根元が白いですね。これで区別をつけましょう」


 なんと優秀な部下さんは見分け方を発見してしまった。栽培に成功したあかつきにはそこら中であの声が響くと思うとイヤになるが、叫び草もたいがいなのでまあいいだろう。しかもすぐに栽培も難しいので、しばらくは天然ものの採集に頼るしかない。私も見つけたらクライブに預けよう。


「喘ぎ草の栽培や『魅了』のまじないは、もうあなたたちに任せるわ。自分たちで販売してもいいし、あたしがやったように領都でレシピを売ってもいい。あなたたちがもし失敗しても別のところに持っていくだけだから気にしないで」


 さらりと言った最後のひとことに、ギルド長はまた顔を引きつらせていた。



 ◇



 その後はクライブに柵の修理をお願いしたり、たまった家仕事をしたりと二日くらいはまったりとした時間が過ぎた。至高のお菓子をつまみつつ、いつもの豆のスープを炊いて食べる。ロイからもらった布で寝具やらクロスやらを作っていくのはなかなか楽しかった。柵のあまった材料でアルバートの家を作ろうとして失敗したり、久しぶりにお風呂にゆっくりつかったりもして、ヴィンセントが倒れて忙しかった日々がウソだったかのようだ。


 そんな暮らしを送った三日目、お客さんがきた。


 お昼をいくらか過ぎた時にコンコンと控えめにたたかれたドア。誰だろうと思って訪問者を迎えると、そこにいたのはよく見覚えのあるメガネをかけた小柄な女性だった。城で見た侍女服とは違って品のいい夫人服を着ているその人は、ヴィンセントの騎士仲間の奥さんで——


「セシル……!」


 城で働いているはずのセシルがなぜか目の前にいた。久しぶりに会えた嬉しさでぴょんぴょん跳ねたくなる。私は気づいたらセシルを抱きしめていた。


「急に来てごめん。領主様から手紙を預かっているから、まず読んでくれないか?」

「ええ、わかったわ。でもひとまず中にはいって」


 来てくれたのはとっても嬉しいけど、いったいどういうことだろう。ひとまずお湯を沸かしながら私はロイからの手紙に目を通した。


『——親愛なるマリアへ。

 空の青さが夏らしく輝きを増してきたね。君は体調は崩していないだろうか。私は相変わらずで君の家へ遊びに行くこともままならないんだ。寂しい限りだよ。

 さて、君の小鳥を取り上げてしまったおわびに、別の小鳥を向かわせたよ。小柄だけれど腕は確かだ。詳しくは本人から聞いてくれるとありがたいが、要点だけ言うとしばらく一緒に暮らしてほしい。女性の一人暮らしはなにかと心配だからね。マリアが健やかに暮らせるように祈っているよ。 ロイ 』


 こーれーはー……。思わずセシルの方を振り向くと、彼女は居心地わるそうにうつむいた。


「ヴィンセント殿がマリアの護衛から離れただろう? だからしばらくの間、私が一緒に付くようにと命じられた。女同士だから細部まで手が届くだろうって」

「だからってセシル、あなた旦那さんは? 離ればなれになるじゃないの」

「ディーバは大丈夫だ。マリア、私じゃ頼りないかもしれんが……」

「セシル以上に頼りになる人なんかいないわ! そうじゃなくて申し訳ないのよ、あなたと旦那さんを引き離すのが」

「ディーバは強い。私も負けない。離れていてもそれは変わらない。マリアは安心していい。それに後でディーバも合流することになっている」


 聞くと秋の力自慢大会が終わるまでは領都にとどまり、終わったらすぐにこちらに来るそうだ。住む家はなんとお隣。出向という形でローゼに滞在となり、あの空き家の一軒を今から住めるようにいろいろと家具を運び込むらしい。そして家の準備が整うまでセシルは私の側にいるということだ。セシルたちがそれでいいなら私は嬉しいんだけど……


「寝る所は気にするな。私は野宿でもなんでもできる」

「いくらなんでも野宿はさせられないわよ。客間が空いてるし、寝具も作ってたところだからそれは構わないんだけど……ヴィンセントがいなくなったから誰もあたしなんか構わなくなるわよ、きっと」

「逆恨みのような形で襲う馬鹿がいないとも限らないし、なによりマリアは領主様のだいじな客人だ。安全が確認できるまでは一緒にいたい」


 うーん、と考え込む。確かに残党は気になるかも。しかもセシルが一緒にいてくれる。


「……お言葉に甘えていいのかしら」

「急なことだから今日はカルバートンの宿で泊まる予定だ。明日から世話になっていいか?」

「庶民の家だけど、いい?」

「貴族の家より落ち着く」


 そう言うと二人で小さく笑いあった。寝泊まりに必要なものを確認しあって、セシルは馬車でカルバートンの町中まで戻っていく。元闇稼業の奥さまはしゃべり方はともかく、すっかり貴族夫人が板についたようだ。


 私は家の中に戻ると明日に備えて準備をしだした。一時的にとは言え、家族以外の誰かと一緒に暮らすなんて初めてだ。そりゃあヴィンセントと宿に泊まったり何日も看病したりはしたけど、あれは特殊なケースよ。鼻唄を歌いながら掃除をしたり庭の雑草を抜いたりすればあっという間に夜になった。楽しみでなかなか寝つけなかったのが、自分でも少しおかしかった。

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