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魔女と騎士  作者: 猫の玉三郎


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71話◆魔女はギルド長と話す

 クライブやギルド長たちに会いに行った次の日、朝早く起きて家仕事を簡単にすませると、私は森に入った。霧をぬけて広場につくと、親指の方向を目指してザクザク歩く。あいかわらず変な森。でも心が落ち着く。美しい花道を通りすぎた先には、クイーンが住む洞くつがある。


「おはよ、クイーン。会いにきちゃった」


 大きな音を立てないように洞くつに近づくと、私は昨日買っておいた鶏肉のかたまりを大きな葉っぱに包んで入り口に置いた。そのとなりにちょこんと座り、しばらくぼーっとしていると奥からガサガサと物音が近づいてきた。赤い八つの眼、子牛ほどもある大きな身体、長いながい脚。この花道に住む森の王者、女王蜘蛛だ。彼女は私には近づこうとはせずに、離れたところからジッと見ている。


「……この前はありがとう。あなたがいてくれて本当に助かったわ。じゃないと彼、連れ去られて死んじゃってたかもしれない」


 クイーンに伝わるかはわからないけど言いたかった。あの時、糸で守られたヴィンセントを見てどれだけ安心したことか。どれだけ感謝したことか。


「あなたが困った時は助けに行くわ。だって友だちだもの。ね? 」


 森で出会ったオブシディアンと同じように、クイーンとだって短くない時間を共に過ごしている。手で触れられる距離まで行くことは滅多にないけど、それでも彼女とは通じるものがあった。


 キシキシ……


 クイーンが返事をしてくれたように思えて、私はとても嬉しくなった。



 ◇



 森からもどると次は町へ行く準備だ。もうすぐ時間だ、と慌ただしく荷物をまとめる。木箱を両手で抱え、中にはなんと土と魔草。ギルド長とのお話し合いをするために、はるばる持って行ってるのだ。想像の中のヴィンセントに叱咤激励されながら、私は三十分かけてカルバートンの中心区までおもむいた。重いったらありゃしない。


「すいません、午後にギルド長と約束をしていたんだけど」


 受付にいたお姉さんに話しかけると、すぐさま部屋に案内された。両手でかかえる木箱を不思議そうに見られたが気にしない。しばらくすると、身なりをぴっしり整えたギルド長が入ってきた。立ち上がって手を差し出し、あらためて挨さつをする。


「マリア・ガルブレースよ。お時間を作っていただいてうれしいわ」

「……ローマン・アオルです」

「アオル?」

「ええ、フクロウという意味です」


 どこかで聞いたことがあるような気がしたけど、それは横に置いて私はさっそく持ってきた木箱をどーんと机に差し出した。一緒に入室してきたギルド長の部下が興味深そうにのぞきこむ。人のよさそうなおじさんだ。


「単刀直入に言うわ。新しいまじないのレシピを買ってほしいの」


 とたんに二人の顔がおどろきに染まる。まあそれもそうよね。


「今、新しいまじないのレシピと仰ったか?」

「ええ。研究所のある領都ルキースでも知らないまじないよ。使い勝手がいいっていうか、欲しい人はたくさんいるだろうから、ここから発信したらきっと大きなお金が動くと思うわ」


 フィリップもロイも知らない。そう言うとギルド長はぐっと目を閉じた。静かに息を吐きだすと、さっきまでの動揺した様子は微塵も感じられなかった。さすがは経験をふんだ(おきな)だ。


「なぜそれを私たちに教えてくださるのか。あなたは確か領都の方々と一緒に行動をされているはずじゃ……」

「あたしはこのまじないを広めたいの。それこそ領都のお金持ちあたりにね。結果的に広がるならどこで発信されてもいいのよ。そしてギルド長はあたしを助けてくれた。ならそのレシピはあなたに使ってほしいわ。もちろんタダとは言わないけれど」


 高飛車に言ってしまうのはそういう仕様だから気にしないでね。これをカルバートンに売ったら後で絶対ロイやフィリップいろいろ言われるだろうけど知ったこっちゃないわ。別に専属契約なんてしてないし、そもそもヴィンセントと離れちゃったのが原因だし。


「そのまじないがどう言うものかまず知りたいです、お嬢さん」


 考え込むギルド長の横からすっと挙手をしたのは一緒に入室した部下だった。あ、この人先生をおぶって走ってきてくれた人だ。ありがとう、と心の中でつぶやきつつ私は見本をとり出す。実際に目で見ればわかるわよ、このまじないのすごさが。


「実際にそのレシピで私が作ったものよ。手にとって見てみて」


 ハンカチで包んだそれにはブレスレットがひとつ入っている。二人とも若干おびえた表情をしているけど、危険物なんか持ってこないわよ? 部下さんが手を伸ばしてブレスレットをつかんだ。じーっと観察すると思わぬ感想を口にする。


「編み方がキレイだ。この模様の入れ方もいいな」

「ありがと。よかったらギルド長の手首につけてみてくれる?」


 私が催促するとわれに返ったようで、アセアセと部下さんはギルド長の腕にブレスレットを巻きつけた。


「つけた本人は多分なんの実感もないわ。ねえあなた、ギルド長なんだか少し変わったと思わない?」


 部下さんに話しかけたものの、彼はつけた瞬間からギルド長を穴があくように見つめていた。


「ロ、ローマン様……なんかいつもより、カッコいい」

「はあ?」

「いえ、いつも凛々しくておヒゲが素敵なんですけど、こう、全体のパーツが洗練されたようで……」


 何を言っているんだという顔をしていたギルド長だったが、ハッとして急いで自分につけられたブレスレットを外し、部下の腕につけた。そしてその変化を間近で確認して口をあんぐりと開ける。そこにはいつもより一割増し魅力的に見える部下さんの姿が。


「これは、いったい何のまじないですか……?」


 うふふ。思ったより楽しい反応を見せてくれた二人にちょっとだけうれしく思う。私はギルド長の問いには答えず、木箱を指差した。そこには庭の土ごと持ってきた魔草が三つならんでいて、小さな黄色の花を咲かせていた。少し前に見つけて別に植えていたのだ。


「材料の魔草はこれよ」

「……叫び草によく似ているようですが」

「抜いてみて」


 部下さんに言って木箱に植えてある魔草を引き抜いてもらった。すると部屋いっぱいに響くあられもない声。


「あぁ〜ん♡」


 叫び草とよく似た見た目だけど、引き抜いた時の音が全然ちがう。その(なまめ)かしい声を聞いてギョッとした二人を見つめて私は言った。


「これは(あえ)ぎ草。性質は『魅力』。上昇の糸とかけ合わせれば、その人の外見的魅力を引き上げる『魅了(みりょう)』になるわ。どう? 見栄っぱりな貴族達がこぞって買い求めそうよね」


 うふふ、と笑いかける私に、ギルド長も部下さんも盛大に頰をひくつかせた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] くっふふっ! ギルドの一室に響き渡るあられもない声! ふひひひひ。さすがマリアちゃん、やってくれますね。 貴族連中の魅力を底上げして、リウが孤高の存在になってるのを緩和する作戦でしょうか。…
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