57話◆魔女は艶やかに着飾る
領都に来た目的は現金の調達と、犯人をあぶり出すついでにグスクーニア家に一報いれることだ。
「ご子息を預かってるって書いといて」
「それって誘拐犯みたいだよ……」
「いいの」
顔を引きつらせたロイがしぶしぶと言った感じで部下に何やら言っていた。煽っていくのは私の仕様なのよ。
「ロイもなんだか疲れた顔してるわね」
「あちこち騒ぎがあってね……。僕もピリピリしちゃって、この間ヴィンセントに少し当たっちゃったんだ。申し訳ないことしたよ」
「なにそれサイテーね」
「うう……」
「仕事もほどほどにしなさいよ。ロイが倒れたら元も子もないわ。あたしの頼みごとが終わったら少し休みなさいな」
「はぁ。優しいんだか厳しいんだか。君とヴィンセントが僕の悩みの大元なのに」
「あら、あたしは元々取り扱い注意の劇物よ。そこに爆薬みたいなヴィンセントを投下したあなたが悪いわ」
「今さらだけど、引き離しは可能かい?」
「交渉次第ね」
お互いに腹に一物抱えた笑顔を浮かべていたら、工房長が入室してきた。目を輝かせて、だいぶ興奮しているようだ。この人もしかして魔草大好きおじさんなんだろうか。
「顔が揃ったなら買取に移っていいかしら」
「ああ、頼む」
私は後ろに控えていたフィリップに言って、依頼書と一緒に目玉茸が入った革袋をテーブルに差し出してもらった。
「フィリップから聞いたと思うけど、この目玉茸は『上昇』と掛け合わせれば、暗闇でも視界が開ける『暗視』になる。便利だけど扱いには気をつけて」
「協力感謝する」
中身をトレーに出し数量と状態を確認した後、工房長が金額を提示してきた。これでクライブの一週間の雇い料とヴィンセントの服代はなんとかなる。こくりと頷き、私はさらに現金をゲットすべく自分の荷物からもこもこと動く小さな袋を二つテーブルに置いた。
「頑張って調達したの。これも買ってほしい」
「動いてるんだけどこれ」
危険物を見るかのようなロイとは対照的に、目の前にいる工房長とさらには後ろにいるフィリップが声を揃えて叫んだ。
「もしかして走り茸っ!?」
「そう。しかも生きた状態で、二つ」
ばっと勢いよく工房長はロイを見た。「買うよね、買うよね、買うに決まってるのよね」って顔だ。フィリップも後ろでぶつぶつ文句を言っている。僕も欲しいとかなんで教えてくれないのとか。ロイはしばらく考えこむようにして、二つ合わせて目玉茸十本分の金額を提示してくれた。これでも結構な金額だけど——
「……目玉茸はこれからまだ採れるチャンスはあるわ。だって森の中を走り回らないもの。でも走り茸はきっともう無理」
私には捕獲は難しい。オブシディアンなら捕まえれるかもしれないけど彼を頼るのもおかしな話。せっかく生きたキノコがあるんだから増やせばいいのよ。
「このキノコがあちこち走り回るのは胞子を飛ばすためよ。どうにかして栽培に成功させて。あなた達ならきっとできるわ」
ロイは困ったように笑って、最初の金額の三倍を出してくれることになった。
「がんばろうね、ジャック」
「はい! 必ずや!」
栽培に成功したら私も買おうかしらね。一回食べてみたいのよ、あいつ。火あぶりにした時の香ばしい匂いを思い出して、口の中に唾液があふれた。
「ドレスや装飾品のレンタル代はそこから引いてくれて構わないわ。セシルの分も」
「いや、この分はきっちり払わせてもらうよ。君への貸しはいくつあってもいいからね。ところでヴィンセントの薬は足りているかい? 必要だったら今手配するよ」
「薬はお医者さんから処方してもらった熱冷ましがあるわ。消化に優しくて滋養がある食べ物があるならそっちがいい」
「わかった。グスクーニア家に行くのならその間に用意しておこう。ところでドレスなんだけど、要望はあるかい? どんな雰囲気がいいかな」
「悪女に見えるやつがいい」
「ドレスを黒にして化粧を濃いめにすればいいかな。アフタヌーンドレスでいいかい」
「ええ。お願いね」
お金の目処も着いたことだし、残すはヴィンセントのお屋敷だ。
◇
部屋を借りてセシルにドレスアップと化粧を手伝ってもらった。行儀見習いとして城で働くセシルは、侍女としてもう完璧な仕事をしている。
アフタヌーンドレスはその名の通り、昼間に着るドレスだ。首元からすっぽり布で肌を隠した露出が少ない作りになっている。淑女はこうあれというイメージを服にそのまま起こしたような清廉なつくりが多い。
「このドレスは少し変わってるのね」
詰襟の形や刺繍が独特で、普通は胸元から切り返しが入ってふっくらと下半身を見せるのに、ストレートなその作りは女性らしい身体のラインをそのまま見せてくれる。
「東の方にある国のチイパオというドレスを真似て作ってあると言っていた」
「ちょっと胸が苦しいわ。でも異国風のドレスって雰囲気出るからいいわね」
露出はないのに淑女とは言いがたい艶っぽい出で立ち。いかにも誘ってますって雰囲気で犯人を煽ってやるのにぴったりだわ。
ウェーブのかかった赤い髪はアップにして美しい銀細工の髪飾りをさしてもらった。お揃いのイヤリングを耳につければ華やかさが一気に増す。
「いいわね。これで真っ赤な口紅塗ったら完璧よ。ねえ、悪そうな女に見える?」
「私にはよくわからない。でもキレイだと思う。どうしたらそんなに胸が大きくなる?」
「うーん、気づいたらこうなってた」
「……ちょっとさわってもいいか?」
「いいわよ」
「うわ……すごい……」
バッチリ準備を終えたら向かうはグスクーニア家だ。貴族街は領城のすぐ近くにある。別に馬車はいらないんだけど、歩いてても悪目立ちするのでロイに用意してもらった。これも代金は立て替え。侍らせたのは従者にしてはキラキラしい容姿のフィリップ、そして完璧に侍女が板についているセシル。やだ私ったらどこぞのお嬢さまみたいね。





