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親も国も人権も、全てを失った私たちが、ご主人様に救われるまで  作者: 平元桜央
役立たずの王女

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1/15

お前の人権を剥奪する

貴方に出会えたこと


それだけで、私の人生は幸福だったと言えるのです。


***


「アルセリオ王国第一王女、アリナ・アルセリオ。これより、貴様の人権を剥奪することとする」


冷たい声が、頭上から降り注いだ。


ここは隣国、セシュリア王国。


煌びやかな装飾が施された王の間で、私は両腕を縛られ、床に跪かされていた。


「以後、貴様はもはや人ではない」


そう言い放ったのは、セシュリア王国の国王だった。


数日前、私の祖国であるアルセリオ王国は、隣国セシュリア王国の侵略を受けた。


両国の間で結ばれていた平和協定は、一方的に破棄された。


様々な事情によって国力が衰えていた我が国に、抵抗する術はなかった。


私は、何もできなかった。


まだ12歳になったばかりの私には、国を救う力などなかった。目の前で次々と虐殺されていく民を、ただ見ていることしかできなかった。


王族も、貴族も、私以外は全員殺された。


……吐き気がするほど憎んでいた、王である父でさえ。


それでも、父は私の父だった。


その父も、もういない。


「…………」


セシュリア王との謁見を終えた私は、兵士たちに連れられ、牢獄へと送られた。


逃げられないように鎖で繋がれ、冷たい石畳の上で横になる。


身体の芯まで冷え切っていた。


けれど、寒さなど気にならなかった。


目を閉じても、焼け落ちる街並みが浮かぶ。


耳を塞いでも、悲鳴が蘇る。


助けを求める声。逃げ惑う人々。血に染まった地面。


そして、私には何もできなかった。


「……どうして」


誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。


どうして、こんなことになったのだろう。


どうして、私は何もできなかったのだろう。


どうして、私だけが生き残ってしまったのだろう。


答えてくれる人は、もう誰もいない。


……いや。


私が生かされている理由だけは、分かっていた。


セシュリア王は、私を地の底まで突き落とすつもりなのだ。


王族を皆殺しにするだけでは飽き足らず、王女である私を奴隷に落とし、永遠に晒し者にする。


祖国を滅ぼしただけでは終わらない。


私から尊厳を奪い、死ぬことさえ許さず、惨めな姿を世間に見せつける。


それが、あの男の望みなのだろう。


「……殺して、ほしい」


声に出した途端、胸の奥がひどく冷たくなった。


もう、生きる気力など残っていない。


国民を救えなかった私に、生きる資格などないのだから。


私は王女だった。


民を守る立場にあった。


それなのに、私は何一つ守れなかった。


これは、その罰なのだ。


国を守れなかった私が、民を見殺しにした私が、受けるべき罰なのだ。


そう思わなければ、私は自分が生きていることさえ、許せなかった。


***


数日後。


私は、奴隷商人に引き渡された。


今日、私は奴隷として売られる。


「確かに渡したぞ」


「はいはい。おお……これが麗しのアルセリオ王女……おっと、『元』ですが」


私を受け取った奴隷商人は、舐め回すような視線を向けてきた。


その目に浮かんでいるのは、私という人間への興味ではない。


商品を値踏みする、下卑た欲望だった。


「なんと美しい……黄金の絹のような髪に、サファイア色の瞳。こりゃあ、とんでもない値がつきそうだ」


男は満足げに笑うと、私の首に金属製の首輪を取りつけた。


ひやりとした感触が、首筋を這う。


「逃げようなどと思わない方がいいですよ? この首輪からは、死なぬ程度の電流が流れますからね」


「……」


逃げるつもりなどなかった。


どのみち、この国に私の味方はいない。


どこへ逃げようと、私を待ち受けているのは同じ結末だろう。


それに、逃げたところで何になるというのだろう。


私には、帰る場所さえないのに。


その後、私は奴隷オークションの会場裏へと連れていかれた。


そこでは、煌びやかな衣装を身にまとわされ、頭には宝石の散りばめられたティアラを載せられた。


顔には化粧まで施される。


青いドレスも、ティアラも、化粧も。


すべては、私を高値で売るためのものだった。


美しく着飾られれば着飾られるほど、自分が人間ではなく、ただの品物になっていくような気がした。


やがて、舞台裏へ通される。


そこには、9人の少女たちが並んでいた。


私と同じくらいの年頃の子たちだった。


全員が私と同じように、綺麗なドレスを着せられている。


彼女たちは、私より先に売られる。


私の前座として。


同じアルセリオ王国の民であり、私が守れなかった人々。


「…………」


私が姿を現した瞬間、少女たちの視線が一斉に突き刺さった。


その目に込められた感情は、すぐに分かった。


怒り。憎しみ。そして、深い失望。


まるで、全員がこう言っているようだった。


――お前のせいだ。


「…………」


何かを言わなければならないと思った。


謝罪でも、言い訳でもいい。


何か、声をかけるべきなのだろう。


けれど、私の口は動かなかった。


事実、彼女たちを守れなかったのは私なのだから。


私がもっと賢ければ。


私がもっと強ければ。


私が、何か一つでも違う選択をしていれば。


彼女たちは、こんな場所に連れてこられずに済んだのかもしれない。


「……っ、死ねッ!」


そのとき、少女の1人が私に襲いかかってきた。


「……!」


次の瞬間。


『バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!!!!』


耳障りな音とともに、少女の首輪から電流が迸った。


「ぎゃあっ!!!」


少女は全身を震わせ、その場に倒れ伏した。


「あっぶねー。おいおい、たかだか一商品が高級商品を傷つけようとしてんじゃねーよ」


奴隷商人たちは、まるで面白い見世物でも見たかのように笑っていた。


その手には、小さなスイッチが握られている。


どうやら、あれを押すことで首輪に電流が流れるらしい。


「おい、もうオークションまで2時間だぞ。電流も程々にしておけよ」


「いいじゃねえか。こいつらにゃ、もう人権なんてねえんだぜ? なんなら、バカな真似をしないように、もう一度……」


男はそう言って、再びスイッチに指をかけた。


「……っ! やめなさい!」


気づけば、私は声を上げていた。


「……あぁ?」


男が、ゆっくりとこちらを振り返る。


「テメェ、勘違いしてねえか? お前はもう人間じゃねえんだよ!」


「おい、やめとけ! 商品に傷がついたら、お前が責任を取らされるぞ!」


男は私の首輪のスイッチを押そうとしたが、仲間の言葉に舌打ちし、手を止めた。


「チッ! 最後の遠吠えか? せいぜい今を楽しめよ」


「…………」


「人間様に命令できるのも、これが最後だからなぁ!!」


男は唾を吐き捨て、去っていった。


私は、その背中を見つめることしかできなかった。


結局、私にできたのは、目の前で起きた些細なことを止めることだけ。


倒れた少女を救うことも、首輪を外すことも、彼女たちをこの場所から連れ出すこともできなかった。


「……ごめんなさい」


誰に向けた謝罪だったのだろう。


倒れた少女にか。


ほかの少女たちにか。


それとも、何もできない自分自身にか。


私の声は、誰の耳にも届くことなく消えていった。


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