Finale(フィナーレ) -忘心録-
会長と番町の電撃交際発表から2週間が経った。
あの日から我が慈正心学園は
学園内全体が恋愛モードとなり
誰もが心を浮つかせていた。
学園内は、恋と愛の幸せな空気で満ちている。
今日も今日とて。
親友の布坐がぼくの机へ愚痴りに来ている。
「1週間やそこらでできたカレシカノジョが運命の相手だ~?」
「やだねやだね軽薄で!」
そんなひねくれた事を言っているけど。
そんな布坐の。
茶化しているような物言い。
でも、腹の中では真剣に悩んでるんだろうなという話し方に
ぼくはクスリと笑みをこぼした。
そんなぼくの視界の奥で。
愛玩式さんがせっせとカバンに荷物をしまっている。
いつもはノソノソと帰り支度をする愛玩式さんが。
「ごめん布坐!ぼく、行かなくちゃ!」
そう声をかけると布坐は
「おう!また例の場所か?」
「物好きだなお前も!」
なんて軽口で返してくる。
でも今日は違う。
もしかしたら・・やっと会えるかもしれない。彼らと。
足早に歩いていく愛玩式さんの後を追っていくと
あの子は旧校舎の中へと入っていった。
ぼくも。浮き出す足を抑えてそれを追う。
愛玩式さんが入っていった教室。
その教室の扉を。
ぼくは勢いよく開けた。
中にはみんなが揃っていた。
転校生のみんな。
「・・・なんだ?お前?」
「なんでこの教室に・・?」
難無途がぼくを見て尋ねて来る。
ぼくはあわてて答えた。
「あ。急にごめん。」
「ぼく、坂井平行って言います。」
「あの。みんなに、伝えたい事があって。」
みんなの怪訝そうな表情がぼくに向けられる。
「ぼくは。」
「君たちを知ってるよ!」
その場の全員が息を飲み込んだ。
「君たちがここに居る事。」
「ぼくは知ってる。」
「名無渡世難無路くん!」
「義正心優くん。傷心那玖奈さん。」
「腐れ花詩音さん。賽仰寺円さん。」
「愛玩式・・愛さん・・。」
「ごめん。知らない人も結構いるけど・・。」
「だから。知りたいんだ。」
「君たちの事を!」
「聞かせてほしいんだ!君たちの話を!」
・・・みんな、きょとんとした顔でぼくを見ている。
誰も何も言わない。
マズイ。ちょっとハズしたかな・・。
「あ。ごめん!」
「今日はちょっと約束があるから行かなくちゃだけど・・」
「明日また来るから!」
「みんなも来てよ!この教室に!」
ぼくはそれだけを言い残して慌ててその場を去った。
少しでも・・伝われば良いんだけど。
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・・・・
あの、坂井とかいうやつ。
言うだけ言って帰りやがった。
なんだったんだあいつ・・?
賽仰寺がガタリと椅子から立ち上がる。
「あっし今日は帰るわ~」
そんな言葉に、ナナトが返す。
「なに言ってるんだ??」
「計画の話はこれからだろう?」
賽仰寺が返す。
「なんか、バカらしくなって来ちゃった。」
賽仰寺はスタスタと愛玩式の元に向かう。
「愛ちゃん。帰ろ。」
愛玩式もコクンとうなづき賽仰寺の横に並ぶ。
「あ。安心してよ。」
「明日また来るからさ。」
「んじゃ。ばいぴ~。」
そんな事を言って帰っていく2人。
他のメンバーたちもみな一様に
「今日は帰る」と言い出し
ひとり、またひとりと去っていく。
ナナトは。
「くそっ!なんだよどいつもこいつも!」
「ぼくを知ってる??」
「ぼくの何がわかるって言うんだよ!」
「くそっ!くそっっ!!」
と怒りの声をまき散らしているけど・・・
心から怒っているようには見えない。
みんな・・
あの坂井とかいうやつの言葉にあてられたのか・・?
「「君たちがここに居るって知ってる。」」
なんて事ない言葉・・のはずなんだけどな。
ぼくは少しだけ考え。
立ち上がり。
初めて。陰依さんの正面に立った。
不思議そうな顔でぼくを見上げる陰依さん。
「なあ陰依・・。」
「途中まで、一緒に帰らないか?」
陰依さんは少し驚いた顔をしたけど。
「う、うん。いいよ!」
「あ!ちょっちょっと待ってね!」
読みかけていた本をカバンにしまおうとして
床に落としてあわてて拾い上げる。
すごくワタワタとしてるけど
口元が緩んですごくウキウキとしている気がする。
・・・陰依さんのこんな顔。
初めて見た気がするな。
そんな風に思っていると。
なんだか、涙がにじんだ。
陰依さんに気付かれないように
そっと指で涙をぬぐう。
「お待たせ!一念くん!」
「帰ろ!い、一緒に・・!」
陰依さんがぼくに笑顔を見せる。
ぼくたちは、それから、ゆっくりと。
ゆっくりと一緒に歩き始めた。
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転校生たちの集まる旧校舎を出たぼくは
大急ぎで番長室へと向かった。
副番長の白黒熊さんや
他の番長グループの人たちも
今では笑顔でぼくを迎え入れてくれる。
ドアをノックし、番長室へ飛び込む。
「遅れちゃってごめんなさい!番長さん!」
ぼくの言葉に、番長さんがニカリと笑い返す。
「おお坂井!今日は遅かったのう!」
「バツとして。今日もたっぷりド正義の愚痴を聞いてもらおうかのw」
放課後、この教室で番長さんと、語り合い
笑い合い、おだやかな時間を過ごす。
これが今のぼくの日課だ。
「会長さんまたそんな言い方してたんですか。ひどいな~。」
「ああ。きゃつの頭の固さはあいかわらずじゃのうw」
「ぼくからも会長さんに言っておきますよw」
「いやそれには及ばん。うちから直接言うさ。」
「言うてもうちは。あいつの”彼女”なんじゃからなw」
そんな和やかな雑談。
この世界では、番長さんと会長さんの2人に
幸せな未来を進んでもらうために。
ぼくにできる事をしてあげたくて・・。
番長室をあとにして外に出ると。
外はすっかり真っ暗になっていた。
校内を見回せば。
あちこちでカップルとなった男女が
肩を寄せ合い、腕を組んで歩いていく。
あの時。
魔人に覚醒したぼくが身に着けた能力で
「あるべき姿に戻した」この世界。
この世界では。
みんなはダンゲロス前の幸せな気持ちのままで
今まで通りの平和な学園生活を過ごしている。
もう、みんなの中に。
あのダンゲロスやその発端となった事件の記憶は残っていない。
みんなの心の中からは忘れ去られている。
でも。それでいいんだ。
ぼくは覚えているから。
みんなの思いを。
それでいい。
カップルたちが実を寄せ合い歩いて行くその光景を
ぼくは幸せな気持ちで見送った。
冷たい風がぼくの背中を押す。
もうすぐ冬が来るんだな・・。
・・この世界に、石神外さんとノロイダくんはいない。
あの2人は、もっと優しい世界に生まれ直してほしかったから。
人はみんな。
自分の生きてきた人生。経験してきた過去。
その時に感じた思いで。自分の世界を作っている。
自分の世界。自分だけの世界。
誰かの世界の事の全部を知ってあげる事なんてできないし
知ってもらう事なんてできない。
人はみんな孤独なんだ。
自分ひとりの世界の中で。
・・でも。
ほんの少し。
ほんの少しだけ手を差し伸ばす事で
ちょっとでも救える孤独もあるのかもしれない。
ぼくは。
あのダンゲロスで過ごした1日の中で
そう。思えたんだ。
歩きだそうとするぼくを、誰かが呼び止める。
「おーーい!坂井ーー!」
大きな声でぼくを呼び、走って来るのは。
「・・・ああ!布坐か!」
「ずいぶん遅かったね。部活?」
目の前まで走って来て
ハアハアと息を整えている布坐に
ぼくは話しかけた。
布坐が答える。
「ああ。部活終わりに、ちょっと話し込んじゃってさ!」
「こんな時間になっちった!」
息を整え終わった布坐が。
ぼくをまっすぐと見て言った。
「坂井!俺さ!!」
「彼女ができた!」
ニカッと笑って見せる布坐。
ぼくは・・
布坐の、その笑顔が。
屈託のないまっすぐな笑顔が。
嬉しくて。
すごく、すごく嬉しくて・・。
心からの祝福を込めて、笑った。
「おめでとう。」
世界破壊学園 ダンゲロス -忘心録-
------- 完 -------




