表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/43

scene35 -束の間の休戦②-


「架神・・先輩。」

ぼくは架神さんに声をかける。


「やあ坂井くん。無事そうで安心したよ。」

架神さんはいつもの優しい表情で答えるが、その目はすごく話しそうだ。


「会長さんの事・・・心中お察しします。」

ぼくはその言葉をかけるだけで精いっぱいだった。


架神さんは宙を見上げ、はぁっと白い息を漏らす。


「・・・いや。こちらこそ。」

「ぼくの暴挙のせいで愛玩式さんに危険を招く結果になった事。」

「どんなに言葉を尽くしても君には申し訳が立たないよ。」


架神さんの言葉に、ぼくは言葉を詰まらせる。


「・・それにさ。」

「会長や・・愛玩式さんの事だけじゃない。」

「ぼくは。君の知らないところでいくつもの」

「卑劣な行いをしてきているんだ。」


「ぼくは、物心ついた頃からたくさんの女子たちの求愛を受け。」

「いつしかぼくは。そんな彼女たちの愛に答える事が、何も特別ではない日常のものとなっていた。」


「楽しい事、気分の良い事を楽しみ、飽きれば捨てる。」

「それは、なにひとつ悪意なく。」

「彼女たちに対する優しさだとさえも思っていた。」


「彼女たちの思いを愛だと思い。彼女たちとの楽しい時間を愛だと考え。」

「だからぼくには。」

「愛のために苦しむとか、努力をするとか。」

「・・愛する人を守るとか。」

「そんな気持ちがまったく理解できなかった。」


「たった一人の人を愛し、寄り添い、守る。」

「そんなもの。おとぎ話の中の作り物だと思っていたんだよ。」


「だけどさ。」

「あの時の君の言葉を聞いて、ぼくの心に迷いが生まれたんだ。」


「人は・・会長は愛を幸福だと言った。」

「ぼくの知る”愛”ってやつは。その日その日を楽しむだけの刹那的なものだった。」

「ぼくは愛を、己の人生を費やすほどの幸福だとは到底思えなかった。」


「でも。もし本当に、ぼくが”本当の愛”を知らないだけなのだとしたら。」

「”本当の愛”っていう奴が、人が、世界が言うように」

「切なく、苦しく、美しく幸福なものなのだとしたら・・。」


「・・愛を切望して苦しむ転校生たち。」

「その気持ちが。」

「ぼくにも理解できてしまったんだ・・。」


架神さんはぼくから目をそらし、うつむきながら続ける。


「もしそれが真実なのだとしたら。」

「ぼくは。」

「ぼくに対する愛をぞんざいに扱い、簡単に捨てて。」

「愛を切望するたくさんの人を傷つけ。殺め。」

「大勢の人から愛を摘み取って生きていた。」


「本当の悪は”愛”じゃない。」

「まがい物の”愛”も、悪ではない。」

「”悪”は・・ぼく自身だったんだ・・。」


架神さんはしばらく黙ってうつむき。

そして。

顔をあげ、いつものさわやかな笑顔をぼくに向けてくれた。


「だからぼくは。」

「君が育んでいるという”愛”を応援するよ。」

「君の思いの行く末を。」

「ぼくも見てみたい。」


「・・君の事はぼくが命に代えても守るよ。」

「それが。」

「今のぼくにできる。償いだと思うから・・。」


架神さんがぼくに腕を差し出し握手を求めてくる。

転校生の集会所で握手を交わしたあの日のように。

でも、この握手はあの時とはまったく違う。

ぼくは・・・架神さんの決意に、固い握手で答えた。


ぼくは架神さんと離れ。

そして次に・・・

番長さんのとなりに座り込んだ。


番長さんは何も言わずに焚火を見つめている。

ぼくも何も言わずに一緒に火に当たる。


しばらく沈黙が続いたが。

ぼくは思い切って口を開いた。


「番長さん・・。」

「短い時間だけど、ぼくはあなたと行動を共にしていて、気付いた事があります。」


番長さんは火を見つめたまま何も言わない。


「番長さんの魔人能力。」

「・・痛みを感じない能力と聞きましたが。」

「それって、嘘ですよね。」


「・・番長さん。」

「あなたは誰よりも人の痛みを思いやれる人だ。」

「そんな人が。自分の痛みを感じないなんてとても思えません。」


番長さんは相変わらず何も言わないが、否定もしない。


「番長さん。あなたは・・」

「痛みに耐える事に慣れてしまっているだけなんじゃないですか?」


「人は痛みに慣れる事はできません。」

「でも、痛みに耐える事に慣れてしまっている人はごくまれにいます。」

「あなたもそうなのではないですか・・?」


「・・教えてください。」

「番長さんの過去に、どんな出来事があり。」

「番長さんがどんな思いを抱えて生きてきたのか。」

「・・ぼくは知りたいんです。」


番長さんが、フッと小さく笑い、重い口を開いた。


「・・うちの能力ではなく。」

「うちの過去を聞くか。」

「あいかわらず、面白い男よのう。」


また、しばらくの沈黙が訪れる。


「うちは、過去を話すのはあまり好いとらんのでな・・。」


「・・・だが。約束しよう。」

「すべてが終わった時。きさんにはすべてを話すと。」

「その時が来るまで。もうちとだけ、待ってくれや・・。」


ぼくはその言葉に黙ってうなずいた。

そして、番長さんが続ける。


「坂井よ。きさんは言うとったな。」

「・・転校生共を救いたいと。」

「あの時はうちも。きさんの言葉を真摯に受け止めた。」


「だがのう・・。」


「こと、こうまで及んだ今。」

「うちにはもう、きさんの望みを叶える事はできんかもしれん・・。」

「ド正義を殺めよった転校生のリーダーを。」

「うちはどうしても許す事ができなそうだ。」


ぼくは、番長さんの言葉を黙って受け止めた。


会長さんがナナトの手によって殺された今。

ぼくがどんなに言葉を紡いだとしても、

番長さんのこの言葉に反発する事はできないだろう。


自分が愛した人が、自分をかばい命を失う。

・・どんな気持ちなんだろう。

どんなに想像を巡らせても。

今実際に番長さんが抱えている思い。

その思いの全てを察する事は難しいと思う。


番長さんが続ける。


「・・すべてはもう。」

「後戻りのできないところまで行き尽いてしまいおった。」

「多くの者が戦い。その命を散らせて逝ったのじゃ・・。」


「人を憎み、人を愛し、人を守り。戦い。死んでいく。」

「誰が悪いちう話でもなかったろうに・・。」


「失った命はもう戻らん。」

「人の命を奪ってしまったもんも、もうあとには戻れん。」

「失った命。穢れた命。そのすべてを救う魔法のような言葉など、ありゃあせんのじゃ。」


その言葉に。

ぼくは何も返す事ができなかった。


これから始まる戦いはもう、救いの戦いじゃない。

己の正義を叫ぶ者同士の。殺し合いが始まるんだ。

そして、終わる。

大勢の命を踏み台にして生き残る誰かの正義が、

このダンゲロスの結末となるんだ。



その時。


どこか遠くから聞こえる、ヒューーンという大きな音。

校内の隅から1本の光の線が空へと舞い上がる。


誰もが顔を上げ、その光の行く先を見届けた。


やがて光ははるか上空で破裂し。

ドォォォン!という大きな音と共にまぶしいほどの光で空を照らす。


花火。

空へ向けた爆発だ。


その花火の明かりに照らされるは、体育館。

その体育館からは、さらに数発の花火が打ち上げられ、空を彩った。


合図。

転校生の合図だ。


やつは、体育館にいる。


ぼくたちはいっせいに立ち上がり。

お互いに視線と視線で意思を交わす。


いよいよ。

転校生たちとの最終決戦の火蓋が開かれた瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ