scene21 -陰依霞-
私にはひとりの姉がいた。
姉は子供の頃は可愛くて
今ではすごく美人になって
明るくて優しくて。成績もよくて。
昔から今でもまわりからの人気者だった。
お父さんもお母さんもお姉ちゃんの事は
すごくかわいがってたし自慢の娘だと言っていた。
私はお姉ちゃんとは正反対。
可愛くもなければ賢くもない。
子供の頃からずっとお姉ちゃんと比べられて
その度に自分がすごくみじめに思えて。
そうすると私はますます自分に自信がなくなってきて
引っ込み思案な性格は増していき。
私はずっとお姉ちゃんの陰に隠れるように生きてきた。
みんなから愛されるお姉ちゃん。
きっと、私の分まで注目を浴びて
私の分までみんなの愛を受けてるんだろうな。
だから、私が受けるはずだった愛は
みんなお姉ちゃんのもの。
私は一生誰からも見てもらえない存在なんだ。
そんな風に思っていたら。
私、本当に誰からも見つけてもらえない存在になっちゃった。
今はもう、家族も、お姉ちゃんも、誰も私の事を忘れちゃったみたい。
「おはよう」
一念…くんが私に声をかけてくれる。
「あ。おはよう。」
私は返事を返す。
あの人には何故か私の存在が見えてるらしい。
見えてる・・?のかな?
彼は毎朝私に挨拶をしてくれる。
でも、一念くんはそれ以上私とお話してくれる事はない。
結局、私がこの能力【そして誰からもいらなくなった】が覚醒してから
私はずっとひとりぼっちなんだ。
ずっとひとりで生きて、ひとりで死んでいくんだ。
私はそんな風に思っていた。
そんなある日、私はあの人に声をかけられた。
「誰からも愛されない人生を生きている人」を集めて
なんか大きな事をしようとしているらしい。
あの人【ナナト】さんはそんな風に言ってた。
そのあと変な動画を見せられたけど、
頭の悪い私にはよくわからなかった。
そんなナナトさんもすぐに私の事は忘れちゃったみたいだけど
それでも私は、ひとりぼっちの人たちが集まるあの教室が
なんとなく居心地が良くてよく通っていた。
そんなある日。
あの人がこの集会に参加してきた。
【架神】先輩。
あの人は初めて会う私の事をしっかりと見て
「よろしくね」と笑顔を見せてくれた。
私に向かって笑顔を向けてくれた人は
先輩が初めてだったんだ。
それからも毎日先輩は私とおしゃべりをしてくれた。
好きな映画の話や本の話。
生徒会のお仕事をしてるって話とか。
それに。私の事もいろいろ聞いてくれた。
このダンゲロスが始まった時に先輩が言ってくれた
「先輩がこの教室に通っている理由ができた」っていうあの言葉。
私の事を見ながらそう言ってくれた先輩の言葉が
今でもわたしの心をドキドキさせる。
先輩が私に、生徒会長を殺してほしいって言った時。
わたしはすごく怖かったし
あの【一念】くんが止めようとしてくれたのには驚いたけど
先輩が、私の事を頼ってくれてる。
私の能力を信用してくれてる事が、すごく嬉しくもあった。
それに。先輩が私と一緒に来てくれるって言ってくれた時も…。
学校の中は怖い人たちがいっぱいで
私もすごく怖かったし
あちこちにいろいろ落ちてて
歩くのもすごく大変だったけど
先輩が手を差し伸ばしてくれて。
ドキドキしてる私をいっぱい励ましてくれて。
すごく楽しかった。
あの日から毎日。
架神先輩と一緒に、たくさんおしゃべりして
たくさん笑って、たくさん守ってもらって。
すごく。すごく幸せだった。
・・・・・
今、私の目の前にはあの生徒会長ド正義がいる。
私が会長に向かって振り上げたナイフ。
その手をつかんで、私がしようとしていた事を阻止したのは…
架神先輩だった。
みんなが私を見ている。
会長も伏せていた顔をあげて
私を怖い目でにらんだ。
心臓の鼓動が苦しいほどで
体が震えて呼吸がうまくできない。
ハアハアと息が漏れる。
私は…救いを求めるように顔を上げ架神先輩を見た。
先輩は…無表情で、目をそらしたまま私を見てはくれなかった。
生徒会長が口を開く。
「待っていたよ。【陰依霞】さん。」
「君に聞きたい事があってね。」
「彼の引率で君にご足労をいただいたんだ。」
そう言うと会長は、架神先輩を見て続ける。
「ご苦労であったな。架神くん。」
「存在認識不可能少女の引率。」
「ぼくの任務を果たしてくれた事に礼を言う。」
架神さんは笑顔で答える。
「これでようやくぼくの任務も解けて」
「この子を忘れられますね。」
「架神…先輩…?」
声が、震える。
会長が怖い顔をして私に向き合う。
「このダンゲロスの発端となった」
「ぼくと阿観世代くんの刃傷事件。」
「あの日ぼくは、阿観世代くんとの逢瀬の最中に記憶を失い」
「取り戻した記憶の最初の光景は、負傷した阿観世代くんの姿と」
「手にした血にまみれたナイフだった。」
「だがもちろん。ぼくが彼女を刺したとは到底思えない。」
「ぼくが記憶を失っている空白の時間に何かがあったのだ。」
「そう思いぼくは、この学校の魔人生徒全員の記録を読み漁ったよ。」
「そして見つけた。」
「他人の記憶に干渉する可能性のある一つの能力を。」
「陰依くん。きみの魔人能力だ!」
「君に問う。」
「あの日。」
「君は自分の存在が任認識されない事を利用し」
「ぼくと彼女のプライベートへ踏み込み。」
「そして何らかの方法でぼくの記憶を操作し」
「彼女を、阿観世代くんを刺した。」
「違うかい?」
会長の問いに、私は必死に声を絞り出す。
「ち、違います!私じゃありません。」
・・会長は無表情のまま続ける。
「それでは。君の仲間たち。」
「・・転校生と名乗っているそのメンバーの中に」
「ぼくを陥れる事ができる能力を持つ者がいるのではないか?」
「答えたまえ。」
「そんな人いません!」
「確かにあの人たちの中には、」
「このダンゲロスに乗じてあなたを殺そうとしている人もいます!」
「でも、あの事件は私たちの誰かのせいなんかじゃありません!」
私は泣くように、訴えるかのように答える。
会長がいら立っているのが見てわかる。
この人は、初めから私の返答なんて望んでいない。
この人が求める答えが欲しいだけなんだ。
「もう一度だけ聞く!!」
「君たちの中に!私を陥れた者がいるんだ!そうだろう!!」
「違います!私たちじゃない!信じてください!!」
そう答えると、会長はメガネをくいと押し上げ
冷たい表情で私に言った。
「・・君もこの学校の生徒であるならば」
「ぼくの能力の事は知ってるだろう。」
彼の言葉の意味を悟り、私はビクリと体を震わす。
「これは学園の秩序と生徒たちの安否を乱す由々しき事態だ。」
「ぼくの能力を、執行させていただく!」
魔人ド正義誠直の魔人能力【真・偽・退の神髄】
「この後のぼくの質問に対する答えは!真か!偽かのみ!」
「質問に答えなければ君は死ぬ!」
「嘘をついても君は死ぬ!」
「質問に関係のない言葉を口に出しても君は死ぬ!」
「さあ!答えるんだ!」
「君か、もしくは君の仲間の誰かが、ぼくを陥れる謀略を謀ったのだろう!!」
「・・真か。偽りか。」
質問に答えなければ死ぬ。
質問に答えれば私は生き延びる。
でも、それが彼の望んでいない答えならば?
私はさっきから真実を答えてる。
答えてるのに…。
私は。震える体を必死におさえ。
声を絞り出した。
「私は・・・ずっと・・・。」
にじんだ視界で架神先輩の顔を見る。
「ずっと、・・あなたが好きでした。架神先輩。」
その瞬間。
陰依の心臓は引き裂かれ。
口から血を噴き出す。
彼女は、涙に濡れた顔を
血だまりの中にひたし
崩れ去っていった。
・・救いなのは
彼女が即死であったため
陰依の死と同時に彼女の事を忘れた
架神の様子を目にしなくて済んだ事だろう。
「クソッッッ!」
という、ド正義の憤りの声だけが
虚しく響いた。
【転校生 陰依霞 死亡】
【場面変わり】
体中の痛みも落ち着いてきて。
ぼくは目を覚ました愛玩式さんと一緒に立ち上がった。
つらい過去でも、言葉にして話した事で
彼女はこれまでよりも少しだけ、
気持ちの晴れた明るい顔をしているように見えた。
「坂井くん。さっきは・・ありがとうね。」
彼女の言葉にぼくは「え?なにが・・?」と間抜けな返答をしてしまった。
「話を聞いてくれた事。」
「あと・・守って、くれた事。」
ぼくはあの時の事を思い出し少し照れ臭くなり顔をそらした。
そんなぼくに愛玩式さんが続ける。
「わたしも、がんばるからね。」
「がんばる・・って?」
愛玩式さんが、ぼくの横に立つ。
「きみと、一緒に歩くこと!」
ぼくたちは、気持ちを新たに
休憩していた教室を出た。
転校生のリーダー【ナナト】に会いに。
そして、このダンゲロスを終わらせるために。




