scene20, -架神と一念-
奴らを追い訪れた、生徒会室から少し離れた教室。
その扉を勢いよく開けたぼくをまるで待ち受けるかのように
架神と数人の男女が立っていた。
でもぼくは身じろぎもしない。
部屋の中の架神に詰め寄ろうと中へ入る。
「架神。」
「やっぱりお前・・」
「生徒会側の人間だったのか!?」
激高するぼくに
架神は悪びれもしない笑顔で答える。
「やあ。一念くん。来てくれてありがとう。」
「君がこっそりついてきてるの、気付いてたよ。」
そして答える。
「お察しのとおり。」
「ぼくは元々会長のご指示で、あの子をおびき出すためあいつらの仲間として潜入した。」
「そしてようやく。もうすぐぼくの任務も完了となる。」
ぼくは続けて奴に問う。
「・・陰依を、生徒会に引き込むつもりか?」
ぼくの問いにやつはフフッと少し笑う。
「いや。会長は彼女に聞きたい事があるだけみたいだ。」
「その後がどうなるかは会長の胸の内だろうが・・」
「あの子の能力はあまりにも危険だ。」
「それに転校生のメンバーに信用なんておけないだろ。」
「どんな行く末にしろ、あの子には死んでもらう事になるかな。」
やつのその言葉に。
「てめえ!!」
架神に殴り掛かろうとするぼくの前に
何人かの男女が立ちふさがり、そして背後からも取り押さえられる。
身動きのとれなくなったぼくに奴は微笑みかけながら続けた。
「この任務はぼくにもとても辛い任務だったよ。」
「なにせ彼女から少しでも意識をそらしたらすぐに忘れてしまいそうだったからね。」
「任務中あの子を忘れないよう絶えず意識していた。」
「それはすごく息苦しい毎日でさ。」
「・・やっと、忘れられる。」
「でもさ。」
「せっかくの任務だ。」
「一夜だけでも彼女をカワイかってあげようかと思ってたんだけどさ。」
「・・いつも君が怖い顔をしてぼくたちを監視してたから」
「結局彼女を喜ばせてあげられる日は来なかったな。」
ぼくはやつを睨み怒りのまま
自分の体を取り押さえるやつらから逃れようともがき暴れる。
「それでぼくは気付いたんだ。」
「あの子を会長の元へお連れするこの任務で」
「君の存在が支障になると。」
やつは大きく手を振り上げると
ぼくのほほに強烈な一撃をくらわせる。
ぼくは口の中を切り、血をしたたらせた。
「だからまずは君を殺して。」
「それから彼女を連れて行く事にしたんだ。」
「そのために君をこの教室へ誘導したって訳さ。」
ぼくの怒りは頂点だった。
「架神・・きさま!・・殺してやる!」
口からしたたった血がぽたりと床に落ちると。
ぼくと架神を囲う血の障壁が現れ、ぼくを取り押さえていた群衆を引き離す。
魔人一念緋色 魔人能力【地を這う聖者】
自分が宿敵とみなした相手と自分自身を取り囲む血の障壁を作り出す能力。
雌雄が決するまで。自分と宿敵との闘いを誰にも邪魔する事はできない。
「陰依はぼくが守る!!」
そんなぼくを見て奴はクスクスと笑う。
「守る?なるほど君は彼女の英雄にになりたいという訳か?」
「・・それが君にとって。彼女にとっての何になるというんだい?」
殴り掛かるぼくを奴はかるくいなしながら続ける。
「きみは彼女を守りたいのかい?それとも付き合いたいのかい?」
「守ってくれたから付き合いますーなんて女の子いるのかな?」
からかうように言う奴の言葉にぼくはますます激高する。
「違う!ぼくはそんなつもりじゃない!」
しかし奴は続ける。
「・・そうか。」
「ぼくは違うよ。」
「ぼくは今までたくさんの女の子と付き合ってきた。」
「そしてそれと同じ回数。女の子に別れを告げた。」
「でもね。それぞれ短いあいだではあったけど」
「付き合っている期間はその子をたくさん楽しませてあげたよ。」
「たくさん笑わせ、たくさんの思い出を作ってあげた。」
「本当に大切にしたい子なら」
「何度守ったかより、何回笑わせてあげたかじゃないのかい?」
やつの言葉に
ぼくの心臓は再びどくんと脈打ち、息苦しい何かを押さえられなかった。
「ぼくの方がよほど。君より良い人間だと思うけどな。」
「君は女の子を笑わせてあげた事があるのかい?」
奴の言葉を打ち消すようにぼくは叫ぶ。
「黙れぇぇぇ!!」
我を忘れ奴に殴り掛かった。
あの日の事が思い出される。
ぼくが、編入前の学校を逃げるように去ったあの日。
ぼくが死んでも見たくないと思っていた彼女の泣き顔。
それから数日後。
彼女は自身の力で立ち直っていた。
「いろいろあったけど、あいつとの時間は楽しかったし。」
「今はもう良い思い出だよ!」
女友達に笑いながら話す。
その笑顔を遠目で見ていたぼく。
ぼくが守ろうとしていたものは・・
ぼくが守りたかったものって、なんだったんだろう。
・・・・・・・・・・
無表情でぼくを見降ろす架神の足元で
ぼくは奴にやられたボロボロの体であの日の光景を思い出していた。
意識が、薄れていく。
奴とその仲間たちが教室を立ち去っていく。
ああ。ぼくはまた。
好きな子を守れなかったのか。
奴の言葉がぼくの中で反復される。
「「何度守ったかより、何回笑わせてあげたかじゃないのかい?」」
奴と幸せそうに会話をする陰依さんの顔を思い出しながら
ぼくは思った。
「あの男がきみを愛していれば、きみは幸せだったんだよね・・。」
「ごめんな…。」
「きみを愛したのがぼくで、ごめん・・。」
ぼくはそのままゆっくりと意識を失っていった。
【転校生 一念緋色 死亡】




