第二条(情勢悪化)
誤字訂正、いつもありがとうございます!
ここ数日、ネピア周辺でもレイド傭兵団内でも忙しなく動きがあった。
住民には既に触れ書きが出され、遠方への外出や夜間に出歩くことが減った。
代わりに町の男達が順番に警備に当たっている。
どうやら過去にも盗賊などの襲撃があったらしく、町の動きは早かった。
普段は鐘で時を知らせる塔に見張りを立て、常に火を灯して周辺の動きを見張っているらしい。
更に町同士の危機があった場合、狼煙をあげて知らせることが取り決められている。
パトリシアは夕刻になり作業を止め、町の景色を眺めていた。
町の人達の賑やかさは変わらない。けれど、町中を歩く傭兵や武装している男の姿は以前よりも多かった。
「パトリシアさん」
「ミシャ」
用事を済ませたらしいミシャがパトリシアの隣に駆けつけてきた。彼もまた帯剣している一人だ。
「一緒に自宅まで送ります」
「家族はいいの?」
「昨日、母と弟は母の実家に身を寄せに行きました。母には盗賊の話は怖がらせてしまうだけなので……」
ミシャの父は盗賊によって殺された。
古傷は癒えても、ミシャの母は盗賊という言葉すら今でも聞けば怯えてしまうのだ。
「そう……ミシャは良かったの?」
「僕は見習いだけれど傭兵だから! 母も納得してくれました」
実を言えば母には共に実家に帰ろうと言われていたが、それをミシャは断った。
自分は傭兵団なのだから、みんなの傍で街を守りたいと母に宣言した。
最後には父譲りの頑固さに折れ、無事に姿を見せることを約束し、別れを告げたのだ。
「……一緒にわたくしの家に来る?」
「えっ!?」
「一人でお家に居ては不安だし寂しいでしょう? 狭くなるけれどもミシャとならわたくしも安心ですし」
「ええ〜〜!? ううん……でも、いいのかなぁ……」
頭を捻らせながらうんうんと唸るミシャを眺めながら、何に躊躇しているのかパトリシアには分からなかった。
まさか幼いと思っている少年が、美しい女性であるパトリシアと屋根を一つに過ごすことに緊張すること、更に言えば近頃雰囲気の良いヒースに申し訳がないのでは、などと考えているとは。パトリシアは微塵も思っていないだろう。
行商人として過ごしてきた父の元で育てられたミシャは、同じ歳の子供よりもずっと知識や成長に長けているのである。
「うーん……ヒースさんに相談してからにします」
「……分かったわ」
何故ヒースの名前が出るのだろうか。
なんて呑気に考えていたけれども。
数日して出た答えが、「ヒースの家で暫く過ごすことにした」であったので。
どうやらミシャの考えは正しかったようである。
情勢は悪い方向に流れた。
隣国沿いにある小さな農家が襲われたという。
数名の賊が押し寄せ、駆けつけた傭兵が見た光景は悲惨なものであった。
幸いというべきなのか、家主は重傷を負っていたものの命はあり、今は最も近い街であったアルマンで治療を受けている。未だ意識がないため、その主犯がヴィアンズであるか、どのような者に襲われたかなどは分からない。
事件は続く。
次は小さな農村が被害にあった。
ここでは殺人も起きてしまった。
更には人攫いもあったという。
あまりにも非道な行為にパトリシアは怒りを覚えた。
街は恐怖に包まれ、ミシャの母のように身を別の地に潜める者も現れた。
漸く遠方の地に対して帝国が兵を寄越すようになった。
兵が周辺地域を見回りするようになってから被害は落ち着いたように見えた。
時折捕らえられる山賊の話も聞くし、何よりネピアやヴドゥー、アルマンにまで被害は届かず起きているのは小さな農村や集落であると聞く。
大規模な組織ではないのかもしれない……
それであればこちらが動き、総動員で賊のアジトを見つけて壊滅すべきだろう、といった話に変わり出した。
「三つの街の領主と帝国の西軍が話し合いの場を設けて兵を集めてるらしいですよ。アジトも情報が出てきているから、そろそろ片付くかもしれないですね」
商人としての仕事は減ってしまったが、その間出来なかった内部での仕事を進めていたバックスが嬉しそうに話している。
今日はレイド傭兵団の中でパトリシアと共に仕事をしていた。
「それでは賊はヴィアンズではないのでしょうか」
「うーん……それが分からないんですよね。捕まえている賊の答えはみんなバラバラらしくて、ヴィアンズだって主張する者もいれば、全く別の名前を名乗る賊もいるらしくて」
「…………」
パトリシアは俯き、今までの流れを思い出す。
狙われるのはアルマンに近い農村や集落、時には離れた所にある民家だった。大きな町へ手を向けることがないため被害は起きてしまった。国から兵が寄せられて見回りが始まったことにより害は減ったものの、目の届かない位置にある民家は相変わらず襲われているらしい。しかし、これは今に限ったことではない。ただ、頻度が異様に増えていることは確かだった。
自領を警備する必要もあるため、兵や傭兵が守る土地を離れることは少なくあるべきだ。しかし、兵を寄越すということはそれだけ維持費も嵩張る。
だからこそ、賊のアジトを潰すという先制を打つ手が進んでいるのだろう。
「賊のアジトが潰れて頭領が捕まってくれれば商売も再開できるんですよね……早く落ち着かないかなぁ」
基本、色々な街に出歩く事が好きで仕事にしているバックスの嘆きにパトリシアは同意の笑みを浮かべる。
しかし内心はざわついているのだ。
(何かしら……)
パトリシアは仕事に詳しくても、賊の動きや兵の動きになど詳しくはない。
戦略を立てることも出来ないし、やったこともない。
けれど、独り立ちをしてからというもの、危険な目に遭うことは多かった。
楽観視せず、危機管理意識をもつことは仕事でも行ってきた。
その思考が警鐘しているのだ。
(思い過ごしであれば良いのだけれど……)
しかしパトリシアの悪い予感は当たるもので。
アジトが発見され、全地域の兵が出発した当日の夜に。
アルマンの街から狼煙が上がったのだ。




