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悪役令嬢になる暇なんてありませんでした  作者: 広居 かな


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第四話

王都では、羊毛の絨毯、桑の葉の健康茶と化粧水、絹の夜着が流行りはじめた。

いずれもガルシアン商会経由のウォーレン領の特産である。


絨毯は幾何学的なものから花や風景など模様があり、応接室やベッドの脚元に用いられた。


桑の葉の健康茶と化粧水は、貴族だけでなく、平民にも人気があり、特に体調のすぐれなかった女性に効果が出たという。


絹の夜着は肌触りが極上に良く、深い眠りに誘う事から注文が殺到していた。


貴族の誰もが手にし、茶会や夜会で話題にした。


だが、アコスタ家は一つの絨毯、一つの夜着を手に入れるのに苦労をしていた。ガルシアン商会は、アコスタ家に商品を一切売らない。


もし手に入れたいのなら、隣国の王都まで行かなければならない。移動費が掛かり、国内で買うよりも五倍は費用と時間が必要になった。


アレックスは、わざと国外では、隣国の王都一店のみに品を卸していたのだ。

その上、次々と新作を打ち出す。


そのアイデアは、ブラッドとマリアのもので、鉱山で採れた売り物にならない小さなルビーを更に砕き、染料に混ぜ絹糸を染め織り上げた輝く布地や、羊毛のコートを隣国風にアレンジした物だ。


それら全てがガルシアン商会の棚に並んだ。


流行の最先端を自負していたアコスタ家が周りよりも一ヶ月遅れで品を手に入れる事は、筆頭侯爵家としての面子を潰され、更にアコスタ家の財政を逼迫する事になった。


それだけでは無く、アコスタ家が今まで懇意にしてきた商会が、ガルシアン商会の傘下となり、ドレスやアクセサリーだけでなく、高級品と呼ばれるものはすべて、倍の値段をつけられるようになった。


クリスティーナが夜会で纏うドレスや宝石は、以前より明らかにランクの落ちるものになった。

キラキラと輝くドレスの夫人や令嬢に比べ、自分は型落ちした流行遅れのドレス。

我慢のならなかったクリスティーナは、泣いて同情を誘ったが、今の貴族はガルシアン商会無しでは生きられない。ただ慰められるだけで終わった。



「マリアはクリスティーナを憎んでいる」

「ブラッドと共にクリスティーナに仕返している」

「ガルシアン商会は脱税をしている」

「ウォーレン領では平民を拐い強制労働を課している」



アコスタ家はまた噂を流したが、

マリアはクリスティーナを怒ってはいるが、憎んではいないし、ブラッドと仕返ししているのは確かだし、ガルシアン商会の帳簿は正しく、ウォーレン領に移住してきた者も楽しんで仕事をしている。


叩かれても痛くもないし、商会の売上が落ちることもない。


一度アコスタ家当主ダニエル・アコスタが、ガルシアン商会に怒鳴り込んできたが、居合わせた兄マルクが対応し、


「たかが金で成り上がった子爵風情が!」と言われ、

「では、たかが子爵風情の商会で買い物をしなければ良いのです」と追い返した。


もちろんルーカスも乗り込んだが、マルクに、

「謝罪は?」

「謝罪しないの?」

「お金は?」

「今までの請求をそちらに回したよね」

「君は一体何しに来たの?」

と、繰り返し詰め寄られ、逃げ出したらしい。



クリスティーナは鬱憤が溜まり、八つ当たりを始めた。

格下の令嬢を見つければ、髪飾りを無理矢理引きちぎって外し踏み潰したり、扇で頬を殴り、ワインをぶち撒けドレスを汚した。学園と同じ様に。


しかし、卒業して一年以上経ち、ここは夜会であって学園ではない。本人は隠れてしているつもりでも、大人の目撃者も出てくる。


子供が言っていたことは本当のことだったのではと、親達に疑念が湧いた。


見た目は昔からの完璧な淑女クリスティーナであるが、よく見れば目は釣り上がり、いつも手は握りしめられている。

婚約者ルーカスの正装もどこか草臥れており、ルーカスに話しかけられる度に眉間にシワを寄せていた。


次第にクリスティーナとルーカスに近づく者は居なくなった。



とうとう業を煮やしたアコスタ家は破落戸を雇い、ガルシアン商会とウォーレン領を襲撃した。


ガルシアン商会は屈強な警備で返り討ちにし、

ウォーレン領はというと、


「ブラッド様凄いです!」

「アコスタ家が考えそうな事だったからね、準備しておいて良かったよ」


ブラッドはアレックスの伝を頼り、騎士を引退した者を雇い、自警団を作って訓練していた。

アコスタ家が雇った破落戸は、資金をあまり払えず、程度の低い者しか雇えなかったのだろう。直ぐ様捕らえられ、アコスタ家に送り返された。


その様子は他の貴族の領地を通る度に目撃され、王都のアコスタ邸に破落戸を投げ出された事で、筆頭侯爵家の失態を他の貴族に知られた。


それは国王陛下にも報告され、ここぞと、クリスティーナの被害にあっていた元学園生も声を上げた。


今までもアコスタ家は力でねじ伏せてきたらしい。他にもアコスタ家で働き理不尽にクビになった者や、家族を人質にダニエルに体の関係を求められた者が現れ証言をした。


ついに筆頭侯爵家アコスタ家は子爵に、マルティン家は伯爵に降爵される事になった。そして領地は取り上げられ没落した。

クリスティーナとルーカスは離縁し、クリスティーナは修道院へ。ルーカスは廃嫡され、共に平民となった。





相変わらずウォーレン領はのんびりとしていた。

移住してきた者の家が建ち、人が増えたものの、牧歌的な雰囲気は変わらないままだ。


ブラッドが全ての建物の色を白に統一した事で、外観を揃えた街並みは壮観で、時折観光客が訪れるようになった。



「なんか、意外と呆気なくてがっかりだわ。私、悪役令嬢ぽく高笑いする予定だったのに」

マリアはプクッと頬を膨らませた。


「いや、今までは王太子の婚約者という王家の後ろ盾があったけど、無くなれば黙っていない人も出てくるさ。まあ、それ以上にガルシアン商会の強さに国内中が慄いたんじゃないのかな」


と、ブラッドは、マリアの頬を突き、また陞爵の話が出たんじゃないのと聞いた。


「そうね、でもお父様には必要ないみたいよ。これ以上爵位が上がると自由になるのは難しいって」


「そうだね。義父上の手腕は自由であるからこそ発揮されるようだ。こちらでも精力的に動く様はすごく勉強になったよ」


「ごめんなさいね。まるで自分の領地のように仕切ってたわ」


「いいや。義父上に付いて学ばせてもらって良かった。人との交流の仕方とかね。

一番は将来の展望を形にするやり方かな。

企画、調査、人材確保、資材調達。僕が想像しただけで終わらせていたものが形になっていくんだ。

素晴らしかった。王子教育では教えられない事だよ」


ブラッドとマリアは、丘の上のあの東屋でお茶をする。眼下には白い街並みに、濃い緑の桑の木々と羊の群れ。


マリアがウォーレン領にやって来て一年半。初めて訪れた時と変わらない風の匂い。


先日二人は結婚式を挙げた。

皆に祝福され、光り輝くドレスに身を包んだマリアをブラッドが抱き上げた姿に、父アレックスと兄マルクは男泣きし、母ジュリアはハンカチで目頭を押さえた。


国王夫妻の名代として現王太子が出席し、ブラッドに「両親からです」と手紙を渡した。

そこには、


どこに居ても息子であることは変わらない。

幸せになれ。


ブラッドは手紙を抱きしめ泣いた。王太子である弟も、「兄上、僕も寂しかったのですよ」と言い、ブラッドは弟を優しく抱きしめた。会わなかった少しの間に、弟の背は伸びていた。


「この国を頼む」

「はい……っ」






「時々、陛下から手紙が届く。元気か、くらいだが」

「可愛い息子ですからね。返事は書きましたか?」


「書く事などないよ。仕事の内容位だな」

「今回はしっかり書いてくださいな。来年には孫が生まれますよと」




出会ったばかりの頃、

縁を繋ぐのであれば、心も繋げられたらと思います。……それは可能ですか?と、マリアが問いかけた時、ブラッドは頷いてくれた。


それからマリアはブラッドに尽くし、ブラッドはアレックスに教えを請い、ウォーレン領を発展させた。

ガルシアン商会の力もあったが、それを貪欲に受け入れたブラッドは、この領の良さを無くさないで欲しいというマリアの願いも叶えた。


そして今、ブラッドはまだ膨らみもないマリアの腹を撫でている。愛しそうに。



マリアは、この一年半を思い返し、愛しい人に一生懸命尽くしていたので、悪役令嬢になる暇なんてなかったなと、ブラッドの手に自分の手を添えた。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

できましたら評価&ブックマークお願い致します。


最新作 短編 多少のあざとさは正義です

を投稿しました。


お読みいただけると嬉しいです。


ありがとうございました。



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