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悪役令嬢になる暇なんてありませんでした  作者: 広居 かな


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第二話

元王太子ブラッドは、男爵令嬢を想っていたわけではない。真面目な彼は、虐めを訴える令嬢の相談に乗っただけで、それ以上の関係ではない。

男爵令嬢エマは、勘違いしていたようだが……。


ブラッドは、クリスティーナが廊下でエマを転ばせたのを見ていた。そして、エマが言い返していたのも見ていた。

クリスティーナが悪いのは確かだが、侯爵令嬢に歯向かうエマも悪い。黙って近づかなければ良いものを、何故かクリスティーナの側へ行くエマ。

「ゲーム」やら、「ヒロインが……」と呟いていたようだが、ブラッドには意味がわからない。


何かエマには思惑があったのだろうか。



ブラッドはどうしてもクリスティーナを王妃にしたくなかった。


ブラッドに対し、淑女らしい微笑みと礼儀を見せるクリスティーナの裏の顔を知った時、ブラッドはゾッとした。


まだ幼い時、侍女を扇で殴る様を目にした。どうやら、自分が小さな石に躓いた事を叱責していたらしい。道端の小さな石だ。

侍女がわざと置いたわけでもあるまいし。クリスティーナの歩く道には石ころ一つ無いようにしなければならないのか。


他にもアコスタ侯爵家で開かれた茶会で粗相をしたメイドがいた。

「良いのよ、気にしないで」と気遣うクリスティーナに、

「なんてお優しい」と皆は称賛したが、その後そのメイドの姿を見ることはなかった。


学園でも、クリスティーナの着けていた余りにも美しい髪飾りに、思わず手を伸ばした令嬢がいたが、次の日にはバッサリと肩上まで髪を切っていた。その令嬢の目は涙に濡れ、真っ赤に腫れ上がっていた。


ブラッドはクリスティーナを嫌悪していた。格下の者を人扱いせず、罰を与えることに躊躇しないことを、ブラッドは受け入れることができなかった。


立太子してから、クリスティーナの傲慢は加速していく。将来王太子妃となり、ゆくゆくは王妃となるクリスティーナを誰も止めることは出来ない。

大人達は、クリスティーナの掌で転がされ、クリスティーナの裏の顔を信じない。

国王も王妃さえも……。


ならば自分はどうするべきか。考え悩んでいる時、エマが現れた。

クリスティーナの虐めにも負けない気の強さ。なのに、ブラッドの庇護欲を誘おうとするあざとさ。


利用できると思った。罪悪感がないとは言えない。一人の令嬢の人生を壊してしまう……。ふっとブラッドは自分の中にあった残酷さに苦笑した。


自分が王太子でなくなれば、クリスティーナが王太子妃そして王妃になることはない。


ブラッドが行き着いた先は廃太子だった。


幸い、ブラッドには七つ下の弟がいる。だが、婚約者はまだいない。歳も離れているから、さすがにクリスティーナを据えることはないだろう。

弟の同年代には公爵令嬢もいるし、わざわざクリスティーナを選ぶ理由はない。多少心配ではあるが……。


そしてブラッドは卒業パーティーでクリスティーナに婚約破棄を告げた。


嬉しい誤算は、ルーカスが求婚し、クリスティーナが承諾したこと。これでクリスティーナが国一番の女性になることはない。

マルティン家も今は厳しい状況だが、アコスタ家が付けば、実直なマルティン侯爵夫妻のことだ。立ち直せるだろう。


エマは責任を取り、男爵夫人として苦労をかけないようにするつもりだった。しかし、王太子でなくなったブラッドに用はなかったようだ。

なんと逞しい。あの杞憂は何だったのかと、また笑いが出た。


国王夫妻であるブラッドの両親は、「あの完璧な淑女クリスティーナに婚約破棄など!」と厳しく叱責されたが、クリスティーナは既にルーカスの求婚を受け入れている。証人も沢山居る中で覆すことはできない。

ブラッドの思い通り、廃太子され、男爵へ臣籍降下となった。



ただ、ルーカスに婚約者がいたことは知らなかった……。










お読みいただき、ありがとうございました。

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