105 彼女の不安
佐々さんの元気がありません。
夏が過ぎ、秋になった。文化祭も無事に終え、冬までは特にイベントもない。しかしそれは学校行事に限ってのことであり、僕と佐々には重大発表が控えている。
もちろん応募した新人賞の中間発表だ。佐々もかなり気になっているらしく、パソコンに向かっていても上の空の場合が多かった。
今日だって二人で部室にこもり執筆作業に勤しんでいるというのに、聞こえてくるのは佐々の溜息ばかり。こっちまで気が滅入る。
「佐々、そんなに気にしてばかりだと体がもたんぞ。なるようにしかならん。気楽に行け」
「うん。師匠がそう言うなら」
「今書いている小説だって締め切りが近いんだ。そちらに集中して仕上げてしまった方が、後腐れなく結果を受け入れられるのではないか?」
「うん。師匠がそう言うなら」
「・・・・・・この前もらったあれ、実は使ってみようと思うんだ」
「うん。師匠がそう言うなら」
「相手はもちろん・・・・・・お前だ~!」
「やめてください。人を呼びますよ」
「いきなりマジになるなよ怖ぇよ。しかし、話はちゃんと聞いていたか。ならば、僕が言いたいことはわかったな? 今は目の前のことに集中だ」
「・・・・・・師匠。私、落ちてたらどうしよう」
やっぱり聞いてないじゃないか。
「決まっている。また小説を書いて、応募すればいい」
「・・・・・・書けるかなぁ。あんなに苦労して書いた小説も、がんばった時間も、ぜんぶ無駄だったってわかっても」
「書けるさ。今までだってお前は書き続けてきた。今さら新人賞一つ逃したくらいで、書くのをやめられるものか」
「でもさ、あれ、私が初めて書いた小説だよ? そんなのが他の人の作品より面白いなんてことあるのかなあ? だって、中には何年も書き続けて、いくつも小説仕上げてる人もいるわけじゃん? そういう人に比べたら、私・・・・・・」
佐々が両手で顔を覆った。
佐久間くんは、師匠としてどんなアドバイスをするのでしょう。




