3-10
「子供なんだから危ないことはしないようにな」
「ん……。ありがとう」
ハルの言葉で納得したのかは分からないが、店主はそれ以上は何も言わず、静かに扉を閉めた。まさか心配されているとは思っていなかったので、ハルはそのまましばらく呆けてしまう。ハル、とアークに声をかけられ、我に返った。
ハルは盆をテーブルに置くと、パンを手に取る。ティアナのところで食べたものとは違い、かなり固いパンだ。そのまま食べるとあごが疲れてしまうので、スープに浸して柔らかくして食べていく。ティアナのところで食べていた夕食と比べると美味しいとは言いがたいが、アークとヴォイド曰く、こちらのことを詮索してこないだけましだと思え、とのことだった。
ハルは盆の上を空にすると、扉を少しだけ開けて空の食器を静かに置く。ずっと待っているのか分からないが、すぐにそれらは回収されていった。
「さて……。今日は何を食べようかな」
暗くなりつつある部屋。日が落ちるということは、街全体も暗くなるということだ。街の中心部付近では魔法による街灯があるので人の出入りもあるが、この近辺を含め、ほとんどは暗闇に閉ざされる。星や月の明かりで完全な闇ではないが。
そしてそれらの闇は、ハルにとって都合のいいものだ。世界が影に覆われるということなのだから。どこでも好きな場所に行くことができる。当然ながら人の目は気にしなければならないが。
ハルは意気揚々と影の中に沈んでいった。
街に出てハルがすること。第一に買い食い。第二に外食。第三に保存食。
――食べ物ばかりだな。
――美味しいものいっぱい。たくさん食べたい。
――ああ、気持ちは分かるよハル。美味しいは正義だ!
――正義だー!
――…………。
ヴォイドが頭を抱える中、ハルは早速屋台へと向かう。香ばしい匂いから食べたいものを厳選する、ということはしない。目についたものから、片っ端から購入する。買っては食べて、食べては買っての繰り返しだ。途中で休憩がてらに大きめの飲食店に入り、そこでも食べる。そうして食べ歩きを満喫してから、人目を避けて宿の部屋に戻るのが日課になっている。宿の店主には悪いが、夕食があれだけで足りるわけがない。
余談だが、商品の購入などは全てアークが代わりに行っていたりする。
食べ歩きを終えたハルは、部屋に戻ってすぐにベッドに横になった。部屋の中はすでに真っ暗になっているが、すぐに休むので問題はない。
――明日はどうする?
ヴォイドの問いに、ハルはまぶたを閉じながら答えた。
――ティアにちょっと挨拶だけしておくよ。たまたま通りかかったって。
――無理があるが……。まあ、ハルに任せよう。
ハルは小さく頷くと、そのまま意識を手放した。
・・・・・
翌日。ティアナは寮の自室で保存食の朝食を済ませ、校舎へと向かう。食堂に行けば保存食でなくしっかりとしたものが食べられるのだが、ティアナは夕食以外では近づかないようにしている。どうしても視線を集めてしまい、それが少し煩わしいためだ。
校舎の騎士クラスの教室に入ると、すでにリリカが最前列の席に座っていた。ティアナは静かに近づき、その隣に座る。声をかけない理由は、
「すー……すー……」
寝ているからだ。
リリカは日の出と共に起きてすぐに走り込みなどの体力作りをしているらしい。それらが終わってから真っ直ぐにこの教室に来て、そして教師が来るまで眠っている。そういった経緯のことを他のクラスメイトや教師たちも知っているので、咎めることはしない。
しばらく待つと、クラスメイトたちが入ってくる。さらに少しして、
「ティアナ! おはよう!」
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ではでは。




