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革命

 特務課は作戦を早朝開始した。奴隷たちを働かせようとして、警備兵が奴隷を収容所から出そうとしたタイミングを狙った。警備兵もそれは警戒していたが、最初に反乱を起こしたのは、女性のグループだった。警備兵は、まさか女性が反乱を起こすとは思っていなかった。

 警備兵が最初に出てきた女性たち数十人が、木の棒を持っていることに気づいた。


「おい、それは何だ?」


 警備兵が誰何(すいか)したが、誰も答えず、五人ほどが木の棒を自分の方に向けた。だが警備兵は何も疑わず、剣も槍も構えなかった。次の瞬間、大きな銃声が響き、警備兵は倒れた。外しようがない至近距離で撃たれた。

 革命軍に参加していない女性の間から悲鳴が上がった。それに負けないよう、女性のリーダーが声を上げた。


「第一班よし!」


 この様子を見た警備兵たちが、剣や槍を持って駆けつけた。だが彼らはまだ気づいていなかった。奴隷たちが銃を持っていることに。兵士一人に五人が銃を撃った。警備兵たちは撃たれてから気づいた。あの木の棒が銃だということに。


『こちらアルファ1、状況クリア』


 特務課のメンバーがナノマシン経由で特務課のアジトに報告した。成功の報告が次々に来た。革命軍に参加していない女性の奴隷は、散り散りになって逃げ出した。それが警備兵たちを混乱させた。


『デルタより各アルファへ。二杯目のカクテルはオーダー済みだ。乾杯せよ』


 革命軍の女性たちは、隠し場所から新しい銃を手に入れると、他の収容所に向かった。警備兵は収容所内からの攻撃には備えていたが、外からの攻撃は予想していなかった。まさか女性の奴隷が銃を持っているとは、想像すらできなかった。警備兵のほとんどは、無抵抗のまま殺された。瞬(またた)く間に全ての収容所から奴隷が解放された。女性の役割はそこまでだった。後は男性が戦った。

 騒ぎを聞きつけてやって来た警備兵たちに、男性の奴隷が銃火を浴びせた。実際は射撃訓練も受けていなかった奴隷たちの命中率は十パーセントにも満たなかったが、奴隷が銃を持っているという事実に、警備兵は腰を抜かした。彼らは銃を装備した親衛隊がいる宮殿に後退した。

 クイトは宮殿を攻撃するタイミングが来たと思った。前世の経験による戦術指揮は、鈍っていなかった。


「ブラボー1から各ブラボーへ。『狼は目覚めた』」


 七四式戦車の一台に乗っていたクイトが指示を出した。隠蔽されていた七四式たちが走り出した。クイトが乗った七四式は、宮殿に通じる最大の通りに躍り出た。それを見た奴隷たちはパニックを起こしかけた。クイトが素早く砲塔上部のハッチから姿を現した。


「聞け! これは我々を救うために神が授けた神器だ。恐れることはない。これにはいかなる攻撃も効かない。まさに無敵の神器だ」


 七四式の一〇五ミリライフル砲が榴弾(りゅうだん)を撃った。奴隷たちは大音量の砲声と振動に驚いた。その直後、警備兵の詰め所もある役所で大爆発が起きた。通常の榴弾の炸薬(さくやく)には、黒色火薬の二倍の威力があるTNT火薬が使われている。だが撃ったのは、それより威力が大きい、このために作られた特製の榴弾だった。(この世界では)高層建築物の役所の横っ腹に大穴が開いた。そして自分の重量を支えられず、建物が倒壊した。奴隷たちはその威力に、さらに驚いた。その建物は、例えるなら、ロンドンのビッグベンのような存在だった。首都のシンボルのひとつが、たった一発で、完全に破壊された。


「銃を撃った者はこれを使え」


 クイトがそう言った直後、七四式に乗っていた別の乗員が刃先をばらまいた。


「銃口にこれを刺せば、槍として使える。神は自らを救う者しか救わない。奴隷ではなく、人間に戻りたい者は、我に続け!」


 奴隷たちから雄叫びが上がった。多くの奴隷たちが我先に刃先を拾った。クイトは車内に戻った。


『こちらブラボー2。さすがは勇者だ。兵を鼓舞するのが上手いな』


 別の七四式に乗っていた紫音が言った。


「ブラボー1からブラボー2へ。冷やかしは後にしろ。兵は拙速(せっそく)を尊(たっと)ぶ。敵が態勢を整える前に、宮殿に突入する」

『はっ、勇者殿』


 クイトはそれ以上、紫音の冗談を相手にしないことにした。四両の七四式は異なる方向から宮殿に向かって前進した。



「銃を持っている? 奴隷が? そんな訳ないだろう。まだ寝ぼけているのか」


 宮殿の正門を守っていた親衛隊の隊員たちは、奴隷たちが銃を持っているという警備兵たちの話を信用しなかった。


「本当なんだ!」


 警備兵たちは必死に訴えたが、親衛隊は上から目線で警備兵を見るだけだった。


「邪魔だ。とっとと失せ……」


 親衛隊の隊員は、最後まで言えなかった。大音量の爆発音で、声がかき消された。その場にいた全員が、音が聞こえてきた方向を見た。そして、首都で最も高い建物が、無残に崩れるのを見た。

 その場にいた全員が呆然(ぼうぜん)とした。だが最初に警備兵の一人が言った。


「大砲だ! 奴隷は大砲も持っているぞ!」


 それを合図に警備兵たちは逃げ出した。親衛隊の方はさすがに踏みとどまった。その一人が気づいた。


「変な音がしないか?」


 言われてみると、確かに聞き慣れない音が近づいてきた。正門の大通りに、見たこともない物体が現れた。キャタピラで石の舗装を砕きながら、七四式がやってきた。

 親衛隊は目を丸くしたが、すぐに我に返った。一人が警笛を鳴らし、残りは銃を携えて、七四式に接近した。


「よし、構え!」


 リーダーが指示を出すと、親衛隊は停止して銃を構えた。絶対に外しようがない距離まで、七四式に接近していた。


「撃て!」


 リーダーの指示に合わせて、全員が銃を撃った。だが七四式はびくともしない。更に前進してきた。このままでは轢(ひ)かれる、そう思ったリーダーは後退の指示を出した。

 敵の士気をくじき、味方の士気を上げるためには、こちらの火力を見せつけた方がいい。クイトはそう判断して、命令を出した。


「正面の兵士に榴弾を撃て」


 大音量の砲声とともに七四式の一〇五ミリライフル砲から榴弾が放たれた。重量三十八トンの七四式の車体が反動で震えた。榴弾は逃げていく兵士たちの足元に命中し、爆発した。爆風とともに、舗装の石に混じって人間の一部らしいものが飛び散った。土煙が消えたとき、道はえぐられ、親衛隊は跡形もなく消えていた。それを七四式の影から見ていた奴隷たちは歓声を上げた。奴隷たちは七四式を盾にして、後ろからついてきた。

 親衛隊は忠誠心が高いらしく、戦意喪失(モラルハザード)を起こさなかった。練度も高かった。宮殿の敷地の中から多くの隊が現れ、七四式に銃火を浴びせた。歯が立たないと見ると、七四式の正面を避けて射撃を加えてきたが、当然歯が立たない。七四式は姿を見せた兵は機銃でなぎ倒し、建物の影に隠れて銃火を浴びせた兵には榴弾を撃って、建物ごと粉砕した。大通りの両側の建物は、瓦礫(がれき)の山になった。確実に非戦闘員にも犠牲者が出ただろう。だが、遠慮ができる状況ではなかった。

 一方、七四式の後ろでは小競り合いが起きていた。銃を持たない警備兵が奴隷に攻撃を仕掛けてきた。だが高揚した奴隷たちは銃と槍で応戦して、警備兵を退けた。

 警備兵の士気は低かった。親衛隊と比べれば、待遇はかなり悪い。階級では上でも、親衛隊に下級扱いされることも頻繁(ひんぱん)にあった。そもそも装備が違う。親衛隊には全員に銃が与えられたが、警備兵は特別な事情でもない限り、銃を与えられなかった。装備の善し悪しは、実戦での生存率に直接響く。なのに親衛隊は安全な宮殿に居座り、街の治安維持は自分たちがやらされる。不満を持たない方が不自然だ。

 皇帝はチートを独占するために、忠誠心が高い親衛隊を作った。だがそれは、軍内部に格差を作り、軍全体としては士気を下げた。それでも連戦連勝で領土を拡げている間は、問題は表面化しなかった。だが宮殿が攻められるという非常事態で、一気にそれが噴出した。攻められているのは宮殿だ。なら親衛隊にやらせればいい。そのための親衛隊じゃないか。親衛隊も少しは痛い目に遭(あ)え。負けてもいいとは思わなかったが、そんな気分が警備兵の間に広がっていた。七四式の本当の威力を知らない警備兵たちは、数に勝る親衛隊が本当に負けるとは思っていなかった。だから奴隷の犠牲者は少なかった。実はクイトと特務課は、そこまで計算していた。

 七四式が宮殿正面に迫ったとき、親衛隊は宮殿の中に戻り、門を閉めた。予想通りの展開になったので、クイトはあらかじめ用意しておいた命令を出した。


「徹甲弾で門の上の紋章を撃て」

「門ではなく紋章を?」


 砲手の確認に、クイトは答えた。


「敵の士気をくじくためだ」


 七四式の徹甲弾は紋章を砕いて、石の壁を貫通した。放物線を描いて広大な前庭を越えて、宮殿の正面の階段を砕いた。その破壊力に親衛隊は浮足立った。次に木製の門が榴弾で破壊された。クイトが乗った七四式が門の残骸を踏みつぶして、宮殿の敷地に入った。だがそこで止まった。

 七四式は砲塔を旋回させ、宮殿に備えられた大砲を撃った。この世界の冶金(やきん)技術なら榴弾で充分だった。兵士と大砲は粉砕された。

 それを見た兵士たちは大砲を撃ったが、ほとんどの砲弾は七四式に届かなかった。一発だけ命中したが、七四式の砲塔の一部を凹(へこ)ませただけで、何のダメージにもならなかった。七四式の砲塔は鋳物(いもの)で、砲弾を跳ね返すのではなく、装甲の厚さで受け止めるように設計されていた。想定の範囲内だった。

 命中弾を撃った兵士たちは命中した瞬間、喜びの声を上げた。だが七四式の砲塔が旋回したのを見て驚愕(がくぜん)とした。一〇五ミリライフル砲の砲口が自分たちに向けられたとき、恐怖を覚えた。だが逃げ出す前に大砲ごと榴弾で吹き飛ばされた。

 後は一方的なアウトレンジ攻撃で、七四式は大砲を駆逐した。大砲が破壊されるたびに、奴隷たちは歓声を上げた。

 七四式の前の広い前庭に、巨大な魔方陣が現れた。


『こちらブラボー2、敵は切り札を使うつもりだな』


 紫音の通信にクイトが答えた。


「こちらブラボー1、王家を守る魔法か。さて、最初に現れるのはどちらだ?」

『賭けるか?』

「その前に生き残る努力をしろ」


 これはクイトの前世の■■■の口癖の一つだった。やるべきことがあるのに、戦場で無駄口を叩いている人間を叱責する言葉だった。

 王家を守る魔法は三つあった。『大地を征服するものの召喚』、『天空を支配するものの召喚』そして『あらゆる魔法を一方的に無力にする結界』だった。

 魔方陣の中から、岩でできた巨人が現れた。ストーンゴーレムだ。身長は十メートルほどもある。その姿に、奴隷たちの多くは恐れおののいた。だがクイトの計算通りだった。奴隷たちの目の前でストーンゴーレムを倒せば、士気が上がる。


「徹甲弾で頭を狙え」


 七四式に向かって第一歩を踏む寸前に、ストーンゴーレムの頭に、一〇五ミリライフル砲の徹甲弾が撃ち込まれた。訓練をつんだ特務課の砲手は、見事に命中させた。ストーンゴーレムの頭の中央に穴があいた。それでもストーンゴーレムは七四式に向かって、一歩前進した。


「敵が止まるまで撃て」


 クイトは冷静に指示を出した。砲手は恐れを感じ始めたが、二発目を命中させた。ストーンゴーレムの頭の三分の二は粉砕された。それでもストーンゴーレムは二歩目を踏み出した。


「あと一発だ。それで決まる」


 クイトは落ち着いて指示を出した。実はクイトは三発目で倒せるという確信はなかった。だがクイトは部下の雰囲気が読めた。臆病風は伝染する。だからクイトは毅然(きぜん)として命じた。砲手は正確に三発目を命中させた。ストーンゴーレムの頭が完全に粉砕された。頭を粉砕されたストーンゴーレムは、何もできないまま、崩れて岩山になった。


「それじゃあ次の準備をするか」


 クイトはそう言って、車内に積んであった二連装のミサイルランチャーを手にした。

 宮殿の真上に魔方陣が現れた。それを見たクイトは、砲塔上部のハッチから上半身を現した。魔方陣にミサイルランチャーを向けた。

 魔方陣からワイバーンが三頭現れた。クイトは一頭を即座にロックオンし、ミサイルを発射した。ミサイルはクイトの世界の技術とは異なった技術が使われていた。

 クイトの世界の対空ミサイルは、金属で作られた航空機を撃墜するという前提で設計された。航空機のエンジンが出す赤外線か、レーダーを使って追尾を行う。微弱な電波を使って標的に接近したことを検出し、自爆して多数の高速の破片となり、敵機を穴だらけにする。散弾銃と同じだ。

 だがこの世界は事情が違う。相手は金属の航空機ではない。魔物だ。レーダーも赤外線もあまり当てにならない。クイトが発射したミサイルは、光学センサーを使って、魔物の姿を捉えて追尾する。その弾頭はプラスチック爆薬で作られており、敵に当たったとき、変形して敵に張りついて爆発する。成型炸薬弾が使われたミサイルだ。

 クイトが発射したミサイルが、ワイバーンに命中した。ミサイルのプラスチック爆薬は、爆発で二千度の高温を生んだ。爆発光が輝いた。ワイバーンはあっけなく燃えた。地面に落ちる前に燃え尽きた。

 ミサイルの爆発で、光学センサーが一時的に使えなくなった。クイトはしまったと思ったが、ミサイルを発射したのはクイトだけではなかった。他のミサイルが残りの二頭を撃ち落としていた。

 これを見て、奴隷たちは再び歓声を上げた。恐れが大きかった分、それが倒された興奮も大きくなった。親衛隊の方はさすがに戦意を失った。我先に宮殿の中へ逃げ込んだ。

 クイトはその宮殿を見た。美しい宮殿だ。芸術にはうといクイトでも、素晴らしい彫刻と素晴らしい壁画だとわかった。自分の世界なら、文句なしでユネスコの世界文化遺産に登録されただろう。


「もったいないな」


 クイトはそう言ったが、遠慮はしなかった。物より人を優先。奴隷の解放と暴君(チーター)の退治の方が重要だ。潜入したときに一緒にされた、あの名前も知らない女性の顔が忘れられなかった。ビッグベンはすでに破壊したのだ。


「徹甲弾で壁に穴をあけて、榴弾を宮殿内に撃て」


 クイトが乗った七四式は、徹甲弾と榴弾を交互に撃った。他の三両の七四式も、別の方向から同じ攻撃を行った。宮殿の一階の三分の一は、瓦礫(がれき)と人間のミンチの海になった。これで宮殿の一階にいる大半の兵士は倒しただろう。生き残った兵士も宮殿の奥に後退しているはずだ。

 宮殿の門の外に警備兵が群がって、様子を見ていた。さすがに不安になったらしい。味方の犠牲は増やしたくない。クイトは七四式の砲塔を旋回させて、砲口を宮殿の門に向けた。警備兵たちは一斉に逃げ出した。駄目押しで榴弾を撃った。数人の警備兵が犠牲になったようだ。剣や槍しか持っていない彼らが戻ってくることはないだろう。

 クイトは七四式の砲塔の上に立って、奴隷たちに呼びかけた。


「敵はおびえて逃げ出した。今なら勝てる!」


 奴隷たちがどよめいた。


「だが降伏した者や、女子供を殺してはいけない」


 どよめきが少し静まった。


「我々はただの人間ではない。誇り高い人間にならなければならない。いたずらに人を殺すようでは、奴隷を使う卑劣な人間と変わりない」


 奴隷たちはクイトの言葉に耳を傾けた。


「我々は奴らとは違うのだ。神の教えを忘れた卑劣な人間ではない。神の教えを守る誇り高い人間だ。相手がどんな人間でも、いたずらに殺したりしない。神の前では人は等しいからだ。その誇りを行動で示そう。そうすれば神は大きな加護を授けてくれる。神は我々にそれを期待しているのだ」


 奴隷たちの間から、同意の叫びが起きた。そのとき偶然、クイトと幹部の一人の視線が合った。エズエだった。


「大したやつだ。このままだと、本当に皇帝に勝っちまうぞ。できればもっと早く出会いたかったな」


 エズエは他人に聞かれないように、小声で呟(つぶや)いた。


「戦える者は一階に残っている敵を倒せ! 私は二階の敵を倒す!」


 クイトがそう言うと、即座にエズエが叫んだ。


「一番槍の名誉は俺たちだ! 行くぞ!」


 エズエとその部下たちが最初に宮殿に飛び込んだ。他の奴隷たちも、我先に宮殿の中に突入した。

 別の七四式に乗っていた紫音は、この様子を見ていた。


「完璧だ。君は完璧な勇者だよ。クイト」


 そう呟(つぶや)いた後、指示を出した。


「ブラボー2から各ガンマへ。『狼は吠えた』」

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