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第05話

 昔ながらの黒電話風の着信音がさして広くないフロアに響き渡る。


「あちゃ、寝ちゃってたか」


 彼女は寝ぼけ眼で携帯電話を手にする。



「はい、藤華興信所――、じゃない。こちら八識。何事?」


 まだ頭に眠気が残ってるのかつい、いつもの固定電話の対応をしてしまった。

 携帯のディスプレイを見ると、パトロール部隊からだ。


「炎気を感知? 確かね? 場所を特定出来る?

 あなたと組んでる炎気読み担当はかなり優秀だったはずだけど。うん、そう。ちょっとまって」


 片方に携帯をもったまま、空いている手でペンをとりメモ帳に走り書きをしていく。

 メモ帳の方をろくに見ずに書いているので読み取れるかどうか怪しげだったが、かまわず次々と書き足していく。


「感知した炎気は両方とも【燈火】のものではない事は間違いないのね?

 OK。あなた達はその場で待機していて頂戴。斬場が近いはずだから向かわせる。私も現地に行くから状況に変化があったら連絡頂戴。

 え? なぜって【燈火】以外のDFがテリトリー内で争っている状況なんて、慎重に見極める必要があるわ。

 いえ、もしかしたら、諦めていた手札が手に入る可能性も出てきたかも知れないわ」


 一端電話を切って、彼女は身支度を整える。


「おっと、忘れちゃいけない」


 彼女は走り書きをしたメモ帳を破りとった。

 瞬間、破られたメモ帳は消失した。

 そして、床に散る粉々になった灰。

 再び彼女は携帯電話をいじり出す。

 電話帳から目的の相手を見つけて、通話ボタンを押す。


「八識よ。斬場、今どこら辺にいるか知らないけど、今から言う場所に急行して。

 ひょっとすると今の状況を覆す一手が手にはいるかもしれないの」



*---*



 本能が告げた。

 それは死の塊だと。


「健太郎っ!!」


 智子は考えるより早く、健太郎に抱きつくように倒れこんだ。

 背中を焼く熱気と髪のこげるにおいがあの黒い炎がまやかし等ではない事を暗に伝えた。

 視線を熱気が通った先へ向けるも黒い炎は四散し消え去っていく所だった。

 だが、安心したのもつかの間だった。

 本能が視線を黒い炎が放たれた方を向く。

 そこには男が倒れた二人へと両手をかざしていた。


「健太郎、起きてっ。逃げるわよ」


 いいつつ覆いかぶさっている自分の体をよけようとして足首に痛みが走った。

 予想外の痛みに、起き上がろうとした手から力が抜けて健太郎の脇に再び倒れこんだ。


「と、智子?!」


 顔色を変えて抱え起こそうとする健太郎を智子は青い表情でその手を跳ね除けた。


「行って! 早く逃げて助けを呼んで来て!!」

「何言ってるの、早く起きて一緒に――」

「足を挫いたみたい。あたしはいいから早くっ!」

「出来ないよっ、そんなの。智子を置いていくなんて」

「馬鹿言ってるんじゃないっ! 早くしないと二人とも殺されるっ!」

「余計な心配だな。早くても遅くても結果は同じだよ」


 男の言葉に二人をそちらを見た。

 かざした両手の前に浮かぶ漆黒の火炎球。それは男の両腕からもれるように放たれる黒い炎を吸収し、より濃くより大きくなっていく。


「二人同時か、順番か。お前達に残された選択肢はそれだけだ。……まぁ、もっとも時間切れだがな」


 智子は上半身だけ身を起こし、両手で健太郎の腹を突き飛ばした。健太郎の位置が、火炎球と智子の後ろになるように。


「逃げてっ!!!」


 健太郎の視界には智子の泣き顔とその後ろに迫る黒い火炎球が移っている。

 このままでは智子は焼かれこの世から消滅してしまう。

 させるものか。


 モウ、二度ト。


「ば、ばかぁ!!」


 智子の声は背中から。

 健太郎は両手を広げて、智子と火炎球の間に立ち塞がった。

 黒い火炎球は、智子よりも先に健太郎を包み込んだ。


「いやぁぁぁぁっ!!!」



*---*



 ちょっと手を抜いたか?

 彼は眉を潜めた。

 二人丸ごと巻き込めると思っていたが、彼の炎術は女の前に立ちふさがった男を焼き包むに留まった。


 まぁ、あんなでも同族だしな。

 耐性だけは一人前だったのかもしれねぇ。


 女の方は黒い炎に包まれた男を見つめて悲鳴を上げている。

 足を引きずっているところを見ると、ひねったかなにか故障したのだろう。


 悲鳴はまずいな。

 とりあえず、あれを狩って。

 すぐここを離脱……だな。


 彼はすでに次の行動を考えていた。

 腕を女の方へ向けて、そして初めて違和感に気付いた。

 炎術の手ごたえがない。

 炎術で焼いた以上、黒い炎を通して焼いたものの状態が分かるはずなのに。

 いや、焼くどころか――


 届いていない……だと?


 彼は目を見張った。

 黒い炎は確かに男を包んでいる。

 しかし、中にいる人影はその形を保ったままだ。

 しかも、あの弱々しかった炎気は急速に膨らんでいく。

 彼の炎術に対抗するように。

 否、それを飲み込むように。


「馬鹿なっ、うそだろ」



*---*



「けん……たろう?」


 智子にも分かった。健太郎が無事なのが。

 黒い炎の中にあって、その人影が苦しんでいる様子はない。

 そして、それは唐突に起きた。

 黒炎が膨れ上がり、そして四散した。

 そこには男の方へ両腕を突き出した健太郎の姿があった。



「うああああああっ!!」


 男が悲鳴を上げた。

 痛み苦しんでいる。

 まるで、自らが放った黒い炎が己の一部であるかのように。


「てめぇ、謀ってやがったな!」


 男は再度、黒い火球を生み出した。

 今度は先ほどとは比較にならない大きさだ。

 まだ放たれてすらいないのに、その熱気が智子の肌に伝わってくるようだ。


「くたばれっ!」


 男の姿を覆い隠すほどの炎弾が放たれた。


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