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第05話

 少年は前に出てきた宿木の姿に目を細める。


「久しぶりだね」

「……おや、私の事を知っていましたか。光栄ですね。昇華しているとはいえ末席のメンバーの事を」


 同じ《紅》、昇華したもの同士でもグループ内での立ち位置にはそれぞれ雲泥の差があった。

 顔を合わせたこそあれど、お互い言葉も交わした事はない。

 だからこそ、牙翼には自分が昇華してる事は知られていても、それがどんな型か知られていないはず。

 それが宿木に与えられた唯一有効なカード。

 チャンスは一度だ。

 宿木は自分に言い聞かせる。

 過去に刃烈からは一発芸と呼ばれ、樹連から使えないと嘲笑された。

 だが、今回のような相手を倒す必要のない場合には大きな意味を持つ。


「確認しておきましょう。刃烈の居場所を知っていますかね?」

「……知らない。【燈火】でも同じ事を聞かれて同じ答えを返してる。

 何度聞かれても返事は同じだ」

「それを信じろと?」

「そちらの自由だ、信じる信じないは」

「そうですか。だからと言ってはいそうですかと引き下がる訳にもいかなくてね。

 何しろ後ろにはおっかない人が控えてるもので」


 炎術の《魔獣》がのそりとこちらを向く。

 襲い掛かられたら、一瞬でこちらに到達するだろう。

 その前にっ。


「絡め取れっ!!」


 無数の炎弾が少年を包みこもうとする。

 いくら牙翼とはいえ、これをなんの防御もなしに受けるはずはないだろう。

 必ず魔獣を使って防ぐはず。

 だが、それこそが罠。

 宿木の昇華の型は《付着》。

 対象が物体でも炎術でも張り付く力が付加された炎術。

 一度でも貼りついたならば宿木が解除するか対象を焼き尽くすまで剥がれる事はない。

 無論、相手が相手なので焼き尽くせるなどとは思っていない。

 だが、その状態まで持ち込めれば取引も可能なはず。

 黒い炎に焼かれたままでも牙翼なら自分達を殲滅出来るが、それと引き換えに少なからずダメージを負うからである。

 樹連が後ろに控えている状況でそれが命取りになると理解出来ないほど愚かではないはず。

 ……そう、うまくいけばそうなるはずだった。


「……え?」


 呆然と呟いた時にはすでに眼前に魔獣の牙が迫っていた。


「な……に?」


 目を疑った。

 炎術が破られたはずはない。

 炎術を破られた事によるダメージを受けてはいないのだから。

 では、なぜ魔獣がここにいる?

 簡単だ。

 魔獣はまっすぐ宿木へと襲い掛かったからだ。

 少年への攻撃はお構いなしに、だ。


「くっ」


 迷う暇もなかった。

 相打ちなら牙翼の炎術の《魔獣》に敵うはずもない。

 宿木は辛うじて少年へ放った炎弾をキャンセルし、自ら眼前に全力の炎の壁を張り巡らせる。

 だが、こんなもので【紅】3巨頭の一角であり、最高の突破力を誇ったあの炎術の《魔獣》を防げない。

 せいぜい勢いを多少殺す程度。

 器が完全破壊されない事を祈るくらいだ。

 それでも結果として《付着》の炎術を魔獣にぶつけるという当初の目的は達成されるはずだ。

 後は少々不安だが、残った仲間に任せるしかない。


「なにっ?!」


 しかし、結果はさらに予想を裏切るものになる。


「ひっ」

「く、来るなぁっ」


 魔獣は炎の壁の直前でL字型に曲がる。そして、健太郎への攻撃に備えて自分自身の防御にまで気が回っていなかった仲間達へと襲い掛かっていったのだ。

 彼等が咄嗟に放った炎術は何の足止めにもならなかった。


「食い破れ」


 その一言に従うように魔獣は炎術を突き破り、そしてその爪と牙は悲鳴を上げる間すら惜しむように仲間達の器を破壊していく。

 炎の壁を挟んで宿木は呆然と仲間達がまさに消滅させられていく様を見守るしかなかった。


「なぜ……」

「下手にその炎術を受けるのはマズいからね」

「知っていたのか。

 ……ああ、そうでした。刃烈の友人でしたね、あなたは」


 確かに同じ《紅》にいたのだ。

 直接、目にする機会はなかったとしても人から聞いていた可能性がある。

 宿木自身はなるべく知られないようにしていたが、上と樹連、刃烈は知っている。

 樹連が教えていたのならこの作戦を事前に止めただろうから、恐らくは刃烈から伝わったのだろう。


「残ったのは君だけだよ」


 そう、少年の言うように男の仲間はすでに消滅している。

 器は破壊され、本体と言える部分も魔獣の牙を受けては存在し得ない。

 宿木はじりっと一歩後ずさった。

 炎の壁はすでにない。

 そんなものは無意味。

 一人残った状態では《付着》の炎術は意味をなさない。

 あくまで宿木自身がどんな状態であっても生きていて、彼をフォローし器を安全な場所へ運ぶ仲間がいればこその作戦。


「もはやこれまでですね」


 宿木は悔し紛れに無理に笑った。

 逃げたところで瞬殺。

 ならば、潔く挑んで散るか?

 せめて一瞬でも牙翼の気がそれれば……


「正気か、お前」


 その声はまさに天からの救いの声に聞こえた。

 例え、その声の主が【燈火】のDFであったとしても。


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