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ログインするのは、終わる世界  作者: 出水 光希


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アスクロ、終わるってよ

 きっかけは本当に何気なく見たネットニュースだった。


 『Astrum Chronicle、今年12月31日をもってサービス終了へ』

 

 Astrum Chronicle通称アスクロ。


 十数年前に発売され、俺が大学生だった頃に黄金期を迎えた大人気ゲームだ。


 いわゆるフルダイブ型VRMMORPGというやつで当時、世界初のフルダイブ型ゲームということで世界中で話題になった。


 嘘かまことか全世界で十億人が一度はプレーしたことがあると言われているほど一世を風靡したゲームだ。


 俺も大学をサボってはギルドメンバーとダンジョン攻略やギルドバトルに励んだものだ。


 あの頃は生活の中心にアスクロがあった。


 今思えば、あれほど何かに夢中になった時間は、あれ以来一度もなかったな。


 しかし、後続の類似ゲームが続々と発売されることでアスクロは徐々に衰退の一途をたどっていったと聞く。


 かく言う俺も大学卒業とともに段々ログインの頻度は減り、気付けばもう十年は触っていない。


 すっかり記憶の片隅に追いやられていたものだからむしろまだサ終してなかったのかとスマホを見ながら感心した。


 たしか家にまだあったはずだ。


 このままサ終してしまうのも寂しい気がするし仕事から帰ったら久しぶりに起動してみよう。


 少しだけ仕事終わりの楽しみができた。


 十年振りのアスクロの世界に思いを馳せているとなんだか午後の仕事はいつもより身が入った気がした。


 終業の時間になるとさっさと身支度を整え、足早に会社から立ち去る。


 五分前出勤、定時退社が俺のモットーだ。年度末で忙しい時期だがそれは変わらない。


 帰宅ラッシュの満員電車に揺られること二十分。


 都心から離れた閑静な住宅エリアの築二十三年のアパートが大学生の頃から変わらない俺の家だ。


 引っ越しを考えたことがないわけじゃないが家賃は安いし、駅も近い。不満がないのにわざわざ環境を変える理由もなかった。


 部屋に着くなり着替えることもなく鞄をベッドに放り投げ、収納スペースを奥の方から探る。


 見覚えのある少しよれた段ボールを引っ張り出すと中にはアスクロ専用のヘルメット型のフルダイブギアが入っていた。


 今のギアはもっと小型化されているらしいが、このヘルメットとゴーグルを装着するだけでゲームの世界に入り込めるというのは当時、世界がひっくり返るほど革新的なものだった。


 ギアを電源に繋ぎ装着する。大事なのは起動する前にベッドでも床でも、とにかく安全な場所で横になることだ。

 

 意識がゲームの世界にいる間、現実の身体は眠っているのと変わらない。

 

 初期の頃はそれを知らず、椅子に座ったままログインしてしまった人間も多かった。


 俺もその一人だ。


 ゲーム終了と同時に現実へ戻ったら、椅子から転げ落ちて全身アザだらけになっていたこともあったっけな。


 そんなことを思い出しながらベッドに横になりギアの横のスイッチを入れる。


 耳元でウィーン…と静かな機械音がする。次の瞬間、暗闇の中に『Astrum Chronicle』のロゴが浮かび上がった。

 

 自分の意識がいつゲームの中に入ったのか分からないシームレスさはあの頃と変わらない。


 次に目の前に広がるのは『Welcome back, eRavn』の文字。


 あぁ、本当に懐かしいな。


 eRavnと書いてイレヴンと読む。


 当時の俺が使っていたユーザーネームだ。特に深い意味があってつけた名前ではないが妙に気に入っていた記憶がある。


 そんな感傷に浸っていると仮想ボタンが出てくる。


『ログイン』『シャットダウン』


 こんなのログインの一択しかないだろうとログインのボタンに手を伸ばすと次に表示されたのはパスワード入力画面だった。


 パ…パスワード?

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