23 文通
ヒューは焦っていた。角を曲がって少し歩く。そしてもと来た道を戻る。完全に迷っている人間の動きだった。
「どこかに人がいたりしないかな。さっきまであんなにいたのに何でこっちは人が全然いないんだよ。」
あたりは扉ばかりで中を覗き込めないような作りになっていた。扉も高級感にあふれ、何も知らないヒューですら勝手に開けてはいけないことがわかる。すると、奥のさらに高級そうな扉から見たことのある人が現れた。
「あ、アナスタシア様!」
ヒューが小声で叫ぶ。その声に気が付いたアナスタシアはいつものようにライオネルトをつれてゆっくりとヒューのもとへ歩いてきた。
「あら?ヒュー様。思っていたより早い再会でしたね。どうかなさいました?ここは貴族令息・令嬢の待機室ですよ?」
「えっ!あの、僕幼年部に行きたくて、一緒に授業を受けるんです。基礎教育の。」
「ああ、なるほど・・・。分かりました。入口までご案内しますわ。」
「えっ!良いんですか。ありがとうございます。」
ヒューは心底嬉しそうな顔をする。
「もちろんです。ライオネルト、ここで待機なさい。」
「しかし!」
ライオネルトは強く反対する。
「これは命令です。」
「わかりました。くれぐれもお気を付けください。」
「ヒュー様、行きましょうか。」
アナスタシアは後ろで首を垂れるライオネルトをそのままに歩き始めた。ヒューはライオネルトが気になる様子ではあったが、アナスタシアが歩く理由からもヒューはそのまま頭のつむじが見えるほど深くお辞儀をしているライオネルトに軽くお辞儀をしてアナスタシアに追いついた。
「アナスタシア様。不躾なことを聞きますが良かったのですか?」
「ライオネルトのことですか?いいのです。ここは貴族である私たちのために警備がしっかりしていますから。今から幼年部も同じく。」
「そうなんですね・・・。ありがとうございます。アナスタシア様、このまま迷っていたら授業に遅れるところでした。」
「構いませんわ。用事を済ませたらまた部屋に戻る予定だったのです。用事も大したものではありません。」
その後沈黙が続く。
「アナスタシア様は幼年部に通われていたんですか?」
「私は通っておりません。家で家庭教師から教わっておりました。母の知り合いの子供たちと交流会のようなものを定期的に開いておりましたので新たな人脈を作る必要もありませんでした。」
「そうなんですか・・・。すごいですね。僕も昨日貴族になったはずなのに実感がわきません。」
「それは当たり前でごす。責任や利益も含めそういうものは後から来るものですよ。・・・つきましたね。このまままっすぐ行けば教室が見えますわ。」
アナスタシアが言うように白い廊下の先に1つ教室が見える。
「本当にありがとうございました。」
「お礼はもう結構です。すぐ行かないと授業に遅れてしまいますわ。」
ヒューがアナスタシアを置いて一歩進んだ。しかし、そのまま一歩振り返った。
「どうかされましたか?」
「アナスタシア様!僕と文通してくれませんか!」
アナスタシアは言われたことが飲み込めないとでも言うように長いまつげを動かした。
「文通、ですか?」
「はい!アナスタシア様のこともっと知りたくて!」
アナスタシアが上品に笑う。
「それで文通を?ここまで面白いのは久しぶりですわ。いいでしょう。文通ですね?私から送るので待っていてください。そろそろ行かないと今度こそ間に合いませんわ。行ってらっしゃいませ。」
「あ、ありがとう!それじゃあ。」
ヒューは顔を真っ赤にして小走りでアナスタシアのもとを離れた。残されたアナスタシアの顔は恥じらう乙女のような顔であった。そしてつぶやく。
「手紙、ですか。そんな古いことをするなんて。手配させておきましょう。」
そうして幼年部を去っていった。去り際につぶやく。
「そういえば幼年部にはあの子がいたわね。ヒュー様は大丈夫かしら。」
一方ヒューは幼年部の教室に入り肩身が狭そうに座っていた。体のあちこちから気まずいといった空気が流れだしている。教室のヒューよりある程度下の利発そうな子供たちもヒューの方を向いてひそひそと何か話している。すると教室内でもひときわ大きな人ごみの中から1人の男の子が出てきた。おそらくまだ成長期が来ていないようで身長も低く、体にも逞しさは見られなかったが、気位が高い猫のような表情をしていた。そのまま小さくなっているヒューの目の前までやってくる。
「おい、お前。」
「ん?なにかな?もしかしてここの席にはすわっちゃだめとか?」
「そんなことはどうでもいい。お前はアぺイロン子爵だな?」
「そうだけど・・・。君は?」
「僕はリン・ララ。あの由緒正しいララ侯爵の1人息子だ!」
その時ヒューは思わずやらかしたという顔をしたヒューの惑星に子供はいなかったが、ヒューが学園にいる間年下の子が興味本位で話し掛けてくることも多かった。ついうっかりその子供たちに話し掛けるように話し掛けてしまった。しかし、侯爵令息であればかなり立場が上の人間である。この言葉遣いはヒューのなんちゃって敬語よりもはるかに無礼であった。その顔はリンにもはっきりとヒューが思っていることを悟らせた。
「いや、そのままの口調でいい。お前みたいな小物がどんな言葉遣いをしようがどうでもいいからな。」
「あ、ありがとう。何か用かな?」
「ふん、こんな年下と一緒に授業を受けるやつの顔を見に来ただけだ。」
そういうとリンはさっそうと人ごみの中に戻っていった。あまり何がしたいかよくわからなかったが、ヒューを勧誘したいわけでも強い悪意を持っているわけでもなかった。そうこうしているとおそらく貴族であろう、優雅な所作をした先生が教室にきて授業が始まった。
1話が2000字から3000字あたりでちょうどいいと聞いてそれを目安にしていたのですが、このままではストーリーがあまりに進まないので5000字から6000字を目安に次回から書きます。
調べてみると1話の文字数は作品によって結構ばらつきがあるみたいですね。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。




