表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/89

決意

豪奢な部屋の窓から、月光が差し込んでいた。

ルクシアは椅子に腰かけ、机に置かれた短剣を見つめていた。

その刃に映るのは、険しい瞳だけ。


夕刻――。

セルヴァーナ伯爵は、執務室で彼女に言ったのだ。


「ルクシア殿下。復讐は……どうかおやめください。

国の王女として、あなたは憎しみに生きるべきではない。

もう剣も手放し、昔のように歌を――」


「黙れ!」

ルクシアは机を叩き、激しく遮った。

「私からすべてを奪った者たちを放っておけというのか!

あなたは平穏の中で忘れて生きろと? 私は……私は絶対に許さない!」


伯爵はなおも諭そうとしたが、彼女の怒りは止まらず、言葉を交わす余地はなかった。


――そして夜。


部屋の扉が、控えめに叩かれた。

「……ルクシア様、私です」


ミリアがそっと入ってくる。

心配そうな瞳でルクシアを見つめ、言葉を選ぶように口を開いた。


「……お願いです。復讐なんて、もうやめて……。

私……昔のルクシア様に戻ってほしいんです」


「……あなたまで伯爵と同じことを言うの!」

ルクシアの青い瞳に、怒りの光が宿る。

「なぜ誰も、私の気持ちをわかろうとしない! 私は必ずあの影を滅ぼす。そのためにここにいるのよ!」


ミリアは一歩も退かず、首を振った。

「わかっています。ルクシア様の気持ちは……でも、私は……」


彼女は胸に手を当て、かすかに震える声で続けた。

「私が子供の頃……まだ両親が生きていて、家族で笑っていられた頃……。

唯一の幸せな思い出は、ルクシア様の歌なんです。

あの歌を聴いている時だけは……本当に幸せで……」


ルクシアの瞳が揺れる。

「……両親は、今は?」


ミリアはしばし沈黙した。

やがて、寂しげに微笑む。

「もう……いません。亡くなってしまいました。

だから、あの頃の思い出だけが私の宝物なんです。

できるなら、あの頃に……戻りたい…」


その言葉に、ルクシアの表情がふっと和らいだ。

怒りの炎が、少しだけ静まる。


彼女は立ち上がり、ミリアの肩に手を置いた。

「……あなたにとって、そんなにも大切なものだったのね…」

声は低く、しかしどこか温かかった。


ミリアは目を潤ませて頷く。

「はい……」


ルクシアは静かに彼女を見つめる。

その瞳には、復讐に囚われた影の奥から、かつての優しさが一瞬だけ顔を覗かせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ