第11話 因果はスパイラルする
藤江 幸頼 27歳 関東公安調査局第一部勤務
神楽 伝次郎 42歳 日本宗教調世会企画部長
「次に因果のループを説明しよう」
藤江でも、タイムパラドックス「因果のループ」は知っている。
ある日、科学者の前に男が現れて、タイムマシンの作り方を教えていく。科学者は、タイムマシンを完成させて、過去に戻って自分に作り方を伝えるのだ。科学者の前に現れた男は自分なのだが、では、タイムマシンは誰が作り出したものなのか、パラドックスが生じるのだ。
「神楽さんの説明からすると、自分の前に現れた未来の自分がタイムマシンの作り方を伝えたとしても、それは、別の時間世界にいる自分が発明した内容を教えたものであって、ループしていないということですよね。教えてもらった作り方を更に過去に戻って教えても、情報を使い回しているだけなので、パラドックスは生じていない」
「ループではなく、スパイラルしているんだ」
すごいじゃないかと褒められた。
「ただし、時間管理が複雑になるから神は嫌がるね。歴史の多重化はともかく、因果のスパイラルは実力行使してでも阻止される」
「歴史の多重化は、神が嫌がる気持ちもわかりますが、因果のスパイラルは、結果が一緒になるので問題ないように思えますが」
コツが掴めてきた。
「時間世界間が、密接に繋がってしまうんだ。そんなことを繰り返したら全ての時間世界は関連しあって、問題が生じた時間世界だけを取り除くことができなくなってしまうそうだよ」
「世界を取り除くのですか」
「最終手段だけど、そうするらしいよ」
この時間世界が取り除かれないといいよねと、神楽は呑気なことを言っている。
「神は、因果のスパイラルを防ぐために、どんな実力を行使するのですか」
「そうだね、タイムマシンは冥界を通るので、経路を外され冥界でさまよい続けることになるね。きっと、生きてはいられないかな」
「神は、そんな無慈悲なことをするのですか」
「僕たちが思っているほど、神は慈悲深くなんかないんだよ」
「なぜ、わかるのですか」
先ほどから自信満々に説明する神楽に尋ねた。
「ダンテさんが、神から直接聞いたんだね」
そのダンテが、以前開発エリアで見た携帯端末「ヘルフォン」を冥界に残してきたので、環境データなど様々なデータが観測できるようになった。
この世界のヘルフォンを動かさず、一時間後のデータ、一日後のデータ、一週間後のデータを比較すれば、時間の経過によってどのデータが変化するのかがわかり、時間の特定が可能となるという。
観測し始めて一か月半が経ち、ヘルフォンの通信基盤である量子もつれの挙動によって、時間が特定できたと神楽は説明した。
冥界側の量子が持つエネルギー量が振幅していることが、エネルギーのテレポート現象でわかったそうだ。その振幅の周期は、時間の経過に伴い変化しているので、周期を計算すれば時間世界を特定し、目指せるはずだと神楽は言う。
おそらくは、未来の時間世界から元の時間世界に戻るには、未来の時間世界を基準に計算し直した周期で過去の時間世界に戻ればよいのだろうが、今のところ確証はない。データが揃い確認できるまでは、双方向から空間にエネルギーを滞留させ、ワームホールを確保しておくそうだ。
「完成した暁には、藤江くんを一番に乗せてあげるよ」
神楽にそう言われたが、丁重にお断りする。




