スペシャルエピソード:C・C
「こちらハウンド01、生ゴミ処分完了。回収と後始末頼む」
業務連絡用通信機をオンにして、向こう側に要件だけを伝えた。二三秒ほど待つと、オペレーターから無機質な返答を貰えた。
「了解。ポイントDにて待機せよ」
通信はそれきりで終わった。
腕時計を見て、まだタバコ一本分の時間が残っている。ターボライターでタバコを点けて、飲み終わった缶コーヒーの上に置いておく。ゆっくり立ち上る煙は通り過ぎる風にすぐにどこかに運ばれていった。
「風情がないなぁ」
思わず風に文句をつけた。
まあ、無理もないっか。屋上だし、風が空気を読むわけじゃないし。あれ?風って元々空気の流れじゃなかったっけ?まあ、ここで駄洒落一つ洒落込もうとしても、俺一人しかいないし、意味ないっか。
ちらっと見て、タバコは半分だけ残っている。視線を斜め下、ざっと数百メートル先を向け、真面目にすることにした。タバコは吸わないが、お線香代わりに身に付けるにはちょうどよかった。
コンテナーがずらりと並ぶ港、数多の通路の中、一人の男が人気のない所に倒れていた。背中に綺麗な穴が開き、うつ伏せに倒れている男の名は、確か…井野政道だった。彼は港の作業員の制服を身に付けていた。表向きは空港経由で逃走して消息断ったが、その実は偽装して港経由で逃走を目論み、その半ばに処分された。派閥争いが白熱の中、思わぬ方向から足を引っ張られ、組織に切られた哀れな男だった。
彼が死ぬ理由は世間を騒がす数々の罪ではなく、もっと深いところに、それこそこの地に根付く闇の一部を抱えているからだ。
そんな感じな話を、やつからなんとなく聞いていた気がする。まあ、要するに死ぬべくして死んだ人間だ。哀れも情けも要らない。彼が死んで、ふんぞり返って笑う人間がいても、悲しんで泣くような人間がいるだろう?もっとも、彼が死ぬ事実さえ、広まることなくただ闇に葬れただけになった。
だから、細やかな弔いは、俺なりの優しさだった。
タバコが燃えさしになったのを見て、それを潰して吸殻を空き缶の中に入れた。箱に入れて置いた荷物を背負ってその場を離れることにした。
予定の場所に到着して、三分も待たず足が迎えにきた。荷物を後部座席に放り込んで、助手席に滑り込んだ。
運転手の顔を見て、思わず愚痴をこぼれた。
「あんたかよ」
「私じゃ不満か?」
男はブラックスーツを着ていて、サングラスの上の片眉を吊り上げた。
「あんたがわざわざ出迎えてくるってことは、決まって面倒くさいことなんだよ」
男はゆっくり車を動かして、それから胡散臭い笑顔で続けた。
「心外だな。せっかくバカンスを知らせにきたのに」
「バカンスね。俺はいよいよ処分されるってことか?」
「まさか。とりあえず資料を読んどけ」
そう言って、収納ボックスからタブレットを取り出して、適当に投げてきた。
「なんだ?C・Cって?」
仰々しく書かれた謎のタイトルを見て、素朴な疑問をした。
「聞いたことない?クライム・シティ。無法者の天国ってわけだ」
「天国、ね。アンタの口からそれを聞くと、特別皮肉に聞こえるよ」
ツッコミを入れながら、タブレットに表示される文字の羅列にざっと目を通した。
20XX年、西側諸国はほとんど死刑廃止が事実化され、その盟友として日本も死刑廃止すべきだと圧力をかけられた。世紀のパンデミックの後、犯罪活動が日に日に活発になる中、その議題は民衆から激しく抗議を受けた。その折衷として、流刑が死刑の代わりに提案され、世論がどうとか構わずスームズに進められた。追放先は本島から離れる南海域の人工島、所謂「クライム・シティ」と称される離島であった。その地は死刑に相当する罪を犯した者のみ収監され、国内法不適用特区として設立された。唯一のルールは適者生存であるその島は、ある意味犯罪者の天国と言われることもある……
「なるほど。きな臭い匂いがぷんぷんするね。何か裏がありそう」
「その裏の実体を、君に調査してほしいんだ」
「どうやって?」
「流刑犯として送り込むんだ。君にはそれだけの実績があるんだろ?」
「おい、冗談だろう?」
思わずやつの顔を見たが、冗談という風には見えなかった。
「もちろん君一人にやらせるのは流石に荷が重い過ぎるから、協力者も一応用意してある」
「どんなやつ?」
「それは着いてからの楽しみだ。近いうちに手続きが済んだらまた連絡するから、それまでにその資料をよく読んで頭の中に叩き込め。向こうに着いたら君は何も知らないただの犯罪者になるのだ。へまは許されない」
「断る権利はないのか?」
「ないよ。任務が達成されない限り君は流刑犯としてその島に取り残される。精々励めよ」
「まじか」
いよいよ報いをうけるとき来たというわけか。汚れ仕事をやり続けた報いが。
「私からのアドバイスは一つだけ。とにかく塔の上を目指せ」
「そりゃあどうも。覚えておくよ」
半ば諦めた気持ちになって、背もたれに倒れかかった。目を閉じて今までやった人間を一つ一つ思い出してみた。うむ、悔いの気持ちはない。ならばあの島へ送れて当然か。
まあ、なるようになるしかないな。遠く空の入道雲を窓ガラス越しに眺めて、呆然とそう思っていた。




