懐中時計
K
「ところで、今何時だっけ?ここに来てから時計など見たことがないし、暗くなったり明るくなったりもしないし」
カイトと街を歩きながら、雑談を始めた。
「あっ、ごめん。大事なこと、言い忘れた」
そしてカイトは足を止めて、俺に説明し始めた。
「この世界はね、昼とか夜とかそういった現象はないの。何も変わらいこの世界にとって、時間という概念は必要じゃないんだ。ここに暮らす人間だけが変わっていく。しかし時間が気になるのは人間として当然だから、こういう物があるんだ」
カイトは上着のポケットから手のひらくらいの大きさの懐中時計を取り出して、それを俺に見せた。数字盤の上にはたった一つの長い針があり、ぴったりと2の文字を指していた。
「君にもあるはずだ。ポケットを探ってみて」
俺にも?半信半疑でズボンのポケットに手を突っ込んで探ってみたが、やがて彼の見せた懐中時計と同じ物を見付けた。ちょっとびっくりする俺であった。こんな物がポケットに入っているなんて気付きもしなかった。
その懐中時計は銀でできたらしく、蓋にはとてもおしゃれな模様があって、結構貴重な品物みたいだ。蓋をあけて、針は6の文字を指していた。
「この数字は何を意味するのか?」
「それは君がここにいられる時間を示す数字だ。針は反対回りに回るんだ。それが12の数字に回った時、君はここから消える」
「消える?死ぬことか?それともここを出るのか?」
カイトは肩をすくめた。
「俺もよくわかんない。両方とも正解かもしれない。死ぬっていうのは、元の居る場所とは違うとこに旅立つんじゃないの?」
「さぁ」
俺も彼に倣って肩を竦めた。
「でも、この曖昧な数字じゃ、一体どれくらいの時間が残っているのは分からないだろう」
「まぁ、確かにそうね。だが、それを気にする必要はないさ。ここには辛いことややらなきゃいけないことなど存在しない。君には余るほど時間がある。それを何に使うのは君次第だ。終わりが訪れるまで、何か好きな物を見付け出して、それに打ち込めばいいさ。何も急ぐことはない。悠長に過ごすのはここに生きるコツだよ」
「そうか」
そうは言っても、実感がない。自分はどうしてここにいるのか、何をすればいいのか、未だに何も分からなかった。既に決められた、六つの数字を超えた先にある漠然とした結末はまるで湿気で霞んだ窓ガラス越しに見えた景色のようで、どんな気持ちを抱かればいいのか、俺にも分からなかった。
「まぁ、そんなに悩むことじゃないさ。もう少ししたら君にもここでの生活に慣れるはずだ。その頃はきっと気にしなくなるさ。とりあいず今は歩こう、まだ目的地についていないからな」
そう言って、カイトはまた歩き出した。
戸惑いを置いておいて、俺はカイトの後を追った。




