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橋の彼方  作者: 千里空
霧の向こう側
20/74

案内係

K

しばらく横になっていたら、足の疲れは取れたが、どうしても寝付けなくて、することもなく寝ていても仕方がないと思い、外に出てみよう、と思いっきり起きた。とは言え、建物の外はあの奇妙な霧に覆われているから、いざここを出たら迷子になりかねないし、カイトに探してもらわないといけないし、戻るのに一苦労はするだろう。だから当分はこの建物の中を散策することにした。

建物の探索は何となく子供がやっていた「探険」に似たような気がして、懐かしい感じがする。

一階の廊下の両側に部屋が配置しているのと違い、二階の廊下は部屋を囲むような形になっている。左手側の壁には何メートルごとに窓があって、そのおかげで二階の廊下は一階よりずっと明るい。右手には幾つの部屋があって、カイトの言ったとおり、それらの部屋は全て空っぽだった。

まさか自分の部屋だけが物が置いてあったじゃないよね?そうだとしたら、一体それらの物品はいつそこに置かれたんだろう?それとも、誰かが手を加えることなく俺がここに来るから部屋自体が自然にそうなっていたんだろう?

訳のわからないことを考えているうちに、二階にある部屋を全部見回った。結局目新しい物は発見できず、少々落ち込みながら三階へ上った。三階も同じと思いきや、一際大きい部屋を見付けた。長い廊下のど真ん中にその部屋はどっしりと構えていた。他の部屋より何倍の大きさがある。今度は期待出来そうだ。

好奇心に駆使され、その部屋のドアを開けた。そして今までとは一味違う景色が目の前に現れた。

客間であろうその部屋には赤いカーペットが床に敷かれていて、真ん中に茶色のソファが置いてあって、セットとなっていた長方形のテーブルは大理石で出来ていた。向こうの壁にはおしゃれな彫りの入った戸棚があって、中にはティーカップセットが整然と置いてあった。隅には染付けの花瓶が置いてあった。少し見上げれば、壁に掛けていたいくつの油絵が目に入った。夕暮れの林、雨の草原、晴れた雪原……自然を描いていたそれらの絵はどれも鮮やかな色をしていて、まるで現実をそのまま切り取ってキャンバスに張り付いたようで、とても美しかった。

戸棚を開けてみると、ティーカップセットの層の下にいくつ違う種類の茶葉が置いてあった。茶葉に詳しくない俺にはその中に紅茶やジャスミン茶などがあるくらいしか分からなかった。今はお茶を飲む気はまったくないし、あったとしても、入れるお湯もないし、それで興味を失って戸をしめた。

ソファに腰掛けて、じっくりと壁に掛けていた油絵を見つめていた。美術品を見る目はないと自覚しているから、あくまで自分の好みでそれらの絵を批判するしかかった。結論から言えば、それらの絵は気に入った。鮮やかな色に溢れたそれらの絵の中には一つだけ素朴な色をしている絵があり、そいつは際立って壁の真ん中に掛けていた。白い画面の中に欠落した灰色の橋があり、その上に背中姿を見せた幼い二人の子供が橋の果てに立っていて、遠く彼方を眺めていた。

なぜかその絵に惹かれて目を離せなかった。その絵が発した奇妙な磁力に魂が引き付けられたように、何とも言えない複雑な気持ちが心の底から湧いてきた。それを凝視しているうちに、その絵以外の回りの物はだんだんフェイドアウトしていったような気がした。

「ここにいるのか」

突然声を掛けられて俺ははっと我に返った。とても長い夢から覚めたように、意識がはっきりしないまま、すぐに返事をしなかった。

「絵を見ているのか?」

カイトは近寄って俺の隣にかけて、俺の視線をなぞってその絵を見上げた。

「不思議な絵だろ?気に入った?」

俺は無言で頷いた。

「どこでみた景色のような気がする」

「お前がここを訪れて最初に見た景色じゃないの?」

そう言われると確かにそうかもしれない。心の余裕がなかったゆえ、ちゃんとそれを現実と結びつけなかった。

「皆あそこから始まったんだ。あそこを原初の地とも呼べるだろう」

「なるほど」

俺だけじゃない。皆そこから始まったんだ。そのことでちょっと安心した。

「ところで、ここと俺の部屋以外の部屋何もなかったけど、誰かがこれらの物品を用意したのか?」

カイトはゆっくりと頭を振った。

「俺もさっぱり分からない。俺が来る時点でもうこうなっていた。たぶん俺が来る前に誰かが用意したのかもしれないし、あるいはこの建物自体がいつかくるだろう住民のために用意したのかもしれない」

「前に来たことあるの?」

カイトは軽く頷いた。

「実は俺、隣に住んでいるんだ。ほら、俺は案内係じゃん?ここにやってくる新入り達を宿へ案内しなきゃいけないだろ?それでこの辺りの建物はほとんど調べ済みってわけ」

「案内係?」

「街にうろうろして、お前みたいな新入りを発見したら、街へ案内して、定着させるのは俺の役目さ」

「なるほど」

道理でこんなに親切してくれるわけだ。

「よって、お前がここでの生活に慣れるまでは俺が色々教えてあげることになるわけだ。何か分からないことがあればどんどん聞いても構わん。まぁ、難し過ぎる問題は答えられる保障はないけどね」

理解したと、僕は頷いた。

「これからはよろしく」

「こっちもよろしくね。さて、ここにいてもつまらないでしょうし、外に出てみよう」

そう言ってカイトはソファから起きて、勝手に出て行った。俺も慌てて起きて、彼の後を追った。

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