10日目:思いがけず再会
動ける4人にスープを飲ませていると、如月くんからの連絡はそれほど待たずに来た。
イオくんが統治神スペルシアに報告をすると、砦の中央部にセーフティエリアにあるような竜の形をした杭が現れて、淡い銀色の光が砦を包んだ。そして、扉から続く道がざーっと伸びていく。
正道の1/3くらいの幅しか無いけど、道そのものは確かに正道と同じ感じ。これが枝道かあ。
その道幅を見て、慌てて道迷いのお守りを作った僕。道幅が狭いとちょっとふらついただけでアウトに思えて怖いんだよね。
戻ってきた如月くんは鬼人と犬獣人のトラベラーさんと一緒だった。それぞれが3人ずつ兵士さんとパーティーを組んで来たらしい。正道をうっかり外れても、トラベラーとパーティーを組んでいる住人は迷わないって決まりがあったからだ。サンガまで戻ってそれを思い出したから、南西門近くに居たトラベラーに声をかけて協力してもらったらしい。
「如月くんえらすぎでは……!?」
「よく思い出せたな」
「なんとか思い出せてよかったですよ」
兵士さんたちがテキパキと担架で寝たきりの人を運び出して、歩ける人たちは背負ったり、肩を貸したり……とやってくれたおかげで、5人を砦から運び出すのはかなり迅速に終わった。一応作ったお守りも持たせたよ、保険だからね。犬獣人のトラベラーさんが先頭で、敵を感知しながら張り切って運んでくれた。
ひとまず南西門の詰め所に全員を避難させ、これから5人は病院からの迎えを待つようだ。衰弱が酷いため入院となるらしい。そりゃそうだよね、と納得しかけたけど、気になるのはナルのことだ。
ナルの契約者はハイデンさんだし、側にいたいだろうけど、契約獣も普通のお医者さんにかかるんだろうか。えーと、シーニャくんからもらった契約獣の本で確認……うん、そうだよねー。契約獣が病気や怪我のときには最寄りの契約獣屋さんへ! って書いてある。
「ハイデンさん、ナルは契約獣屋さんで退院まで面倒見てもらったほうがいいよ。僕たち預けに行こうか?」
「え」
一応本を見せつつ、ハイデンさんにお伺いをたててみたんだけど……。
ハイデンさんは表情を固くして、ナルを抱きしめてしまった。離れるのが不安なんだろうなあ。5年もの間、砦の心の支えになっていたらしい契約獣だから、その気持もよく分かる。
「大丈夫だよ、契約獣と一度契約したら契約を無効になんかできないから。でも、緊急時には契約獣屋さんが預かってくれる制度があるんだ。ナルも療養しないと」
「あ、そ、そうだな。一緒に入院は、できないか……」
僕の説明に納得はしたみたいなんだけど、ハイデンさんはなかなかナルから手を離せない。どうしようかな、と思っていたら、トラベラーの鬼人さんが「ねえ」と声を掛けてきた。黒髪ロングの清楚系正統派美人だ、鬼人らしくちょっと和風な衣装を身にまとっている。
「私、シーニャを呼んでくるわ。契約獣屋さんならすぐそこでしょう?」
「え、いいんですか?」
「ええ。どうせ今日も通うつもりだったから。少し待っていて」
「ありがとうございます!」
ここで僕が付け焼き刃の知識で説得するより、契約獣の管理を任されているケット・シーに説明してもらったほうが断然良いよね! あの鬼人さん、もしかして僕が卵を選んだときに店にいた人だったかな? きっと彼女も契約獣を持っているから、他人事だと思えなかったんだろう。
人の親切ってありがたいなあと思いながら鬼人さんを見送ると、それと入れ違いに見知った顔が詰め所に入ってきた。
「テアルさん!?」
え、ここで!?
驚いて声を上げた僕の隣で、如月くんが「何この人怖い」みたいな顔をするんですけどやめてください、風評被害、風評被害です! イオくんもなんかちょっと呆れた顔しないでください、僕のせいとかじゃないので!
「おお、お前たちが見つけたのか!」
頬を紅潮させたテアルさんがそのまま詰め所に駆け込んでくると、僕達の肩をバシバシ叩いて「よくやった! よくやったぞ!」と嬉しそうに褒めていく。あの、ちょっと手加減を、ち、力強い……っ!
テアルさんの力強さを実感した僕の肩を、イオくんがドンマイって感じに軽く叩く。そう、そのくらいの強さで全人類に頼みたい。と思ってたら「物理防御にPP振れ」と言われました! 嫌です!
「ハイデン!」
きっちり僕、イオくん、如月くんと肩を叩いたあと、テアルさんはハイデンさんに駆け寄ってハグをした。突然のことに驚いてナルを取り落としたハイデンさんと、挟まれたら痛そう! とばかりに逃げ出すナル。抱っこして歩いてあげたのはイオくんだけど、イオくんを素通りして僕の足の間にびゅっと隠れた。
微妙に残念そうな顔をするイオくんにかける言葉は無い。覇気ってパラメータあったら多分この人めっちゃ数値高いと思うんだよね。それか僕がナツだから、ナルとナツで仲間だと思われている説……は、無いか。
「よく、よく戻ってきた! ハイデン!」
テアルさん、感激してバシバシハイデンさんの背中を叩いてるんだけど、あの、うめいてるのでやめてあげて……? と思っていたら兵士さんが飛んできて「落ち着いてください!」って声をかけたので静観。引き剥がされたハイデンさんがちらっとこっちを見て、ナルの無事を確認したのが分かった。
このままだとまた感極まってハイデンさんに抱きつきそうな勢いのテアルさんに、如月くんが良いタイミングで声をかける。
「お知り合いなんですか?」
ハイデンさんはわけわかんないって顔だけど……。テアルさんは「ああ!」と大声で肯定した。馬車では落ち着いた雰囲気だったんだけど、今はかなり興奮しているなってのがよく分かる。
「ハイデンはリダ家の生き残りだ!」
そして続けられた言葉に、今度は僕たちがわけがわかんないって顔になってしまった。
んん? リダ家って何?
……あ、もしかして。
「4等星の……?」
イチヤにも3家あったらしいし、サンガもあのペンの持ち主であるバル家だけではないだろう。ひょっとして、と思って口にした言葉に、テアルさんは大きく頷いた。
「今はもう、当主しか残っておらんのだ。ハイデンが戻らねば家が途絶えるところだった!」
その声にばっと顔を上げたハイデンさん。
「当主……父が生きている……?」
「いや、今生きているのはお前の父ではない。祖父の方だ」
「お祖父様が!」
ハイデンさんはまじまじとテアルさんを見て、それからなにかに気づいたように「まさか」と。
「あなたは、お祖父様のご友人の……」
「テアル=バルだ。本当に久しいな、最後に会った時、お前はまだ子供だったと思う。だが、父親によく似ている」
……ん!?
バル?
テアル=バルって今……?
「えー……マジっすかナツさんマジで怖い……」
「いや、いやいやいや!?」
「ああ、そういやハンサも名字までは名乗ってくれなかったな。そういうパターンもあるってことか」
「如月くんイオくんもだから! 相乗効果なんでしょこれ!?」
「でもナツさん<グッドラック>ですし……」
「特殊スキルへの信頼感厚すぎぃ!」
*
「本当に感謝する。ハイデンがまさか戻ってくるとは……」
「ああ、いえ。偶然見つけただけですので……」
感極まったテアルさんが落ち着くまでの間に、トラベラーの鬼人さん(美月さんというらしい)がシーニャくんを連れてきたのでナルを託し、病院からの迎えが到着して重病者から病院へ搬送し、ハイデンさんも運ばれていった。そこでようやく普段の落ち着いた感じのテアルさんに戻ってくれる。
いや、もう、これどうしよう。
せっかくの感動の再会のあとに、お身内の方の遺品ですってペンを差し出すのって酷過ぎない? 無神経極まりないような気がするんだけど。どうする? と如月くんに視線を向けてみたけど、如月くんも何事か考え込んでいるらしく沈黙だ。
どうするイオくん? と頼りになる親友に視線を移すと、イオくんは力強く頷いた。お、これは任せろってことですね。
「あー、テアル。すまんが少し聞いてもいいか?」
「おお、なんでも聞いてくれ。今日は本当に良い日だ」
「いや、すまんな。テアルは4等星だったんだな」
「ああ。まあ、隠し立てをするつもりではなかったが。儂は息子に代替わりした隠居だからな、極力それは名乗らないことにしている」
いつまでも家名を名乗り続けると、息子さんが頼りなくて口出ししているみたいに思われるんだって。その息子さんは市場の責任者だというから、流石の4等星だ。
「テアルは問屋街の方にいるって言ってなかったか?」
「左様。引退はしたが、人手不足でな。今は夫婦で流通部を取り仕切っている」
「それは現役というんじゃないのか……?」
「気持ちの問題だ。まあ、たしかに、家名とはそう簡単に離れられるものではないが」
ソルーダさんも言ってたね、人手不足で星落ちできないって。どこも同じような状況なんだなあ。
「ハイデンの、リダ家というのは?」
「ああ、サンガの領主は3等星イルマ家、ここはまあ安泰だ。その下にテタ家、バル家、リダ家の4等星がついていた。だが、サンガでも戦争で多くの人間が死んだからな。テタ家は終戦時11歳だった長男のみが残され、今は1人。バルは儂ら夫婦と次男が生き残り、今は次男が家督をついで孫もいる。リダ家は、儂と同年代の老いぼれだけが残ってしまってな」
戦争ともなれば、誰が生き残った誰が死んだなんてものは運でしか無い。本来なら若い世代が生き残ってくれたほうがよかった、とテアルさんは言った。
「だが、リダは運が悪くてな。イチヤから食料を運び入れる際、当主夫婦が亡くなり、長男一家も次男も戻らず、ハイデンは三男だが隠し砦に住み込みで、そのまま終戦を迎えてしまった。それで、一度は引退した老いぼれが返り咲くしかなくなったんだ。がむしゃらに仕事があった頃はまだ、余計なことを考えなくてよかったんだがな」
テアルさんは悲しそうに顔を歪めた。
「最近はトラベラーさんたちがやってきて、呪いもどうにかなるかもしれんとなっただろう。それで、あいつはすっかり気が抜けてしまってなあ。ボケたわけでも無かろうに、1日中ぼーっと川を眺めては、そろそろ泳ぎに行く頃合いかもしれん、なんぞとうだうだと」
川を泳ぐ、って、ジンガさんが言ってたやつだよね。こっちの人は死んだら川を泳いで、一番会いたい人がいる岸へたどり着く、っていう……。
「だが、ハイデンが帰ってきた。あいつもおいそれと泳ぎに行けなくなっただろう! 早く戻ってこいと契約獣を使いにやったからな、戻ってきたときにどんな顔をするのか楽しみだよ」
んー、この言い方からすると、どこかにでかけている人がリダ家当主さん……ギルマスじゃんこれ絶対。ゴーラにでかけてて3日後くらいに戻る予定なんだっけ? 色々繋がったなあ。
「そうか。なんにせよ救えて本当に良かった」
「ああ! 儂からも感謝する。そうだ、なにか礼をさせてくれ、あの砦を見つけたのは3人だと聞いたぞ」
「気にしなくていい、と言いたいところだが、一つ頼みがある」
「何だ? 儂にできることか?」
「明日以降、時間を取れる日はあるか? できれば3人で、テアルの家を訪ねたい」
「ほう」
おお。やはりイオくんの謎話術すごい、スムーズに話を進めてしまう……!
イオくんは話したいことがあるから昼間に訪ねたい旨を告げ、スムーズに予定が組まれた。明日の午前10時にテアルさんの家、自宅の場所が地図上にマークされる。これイオくんやっぱり詐欺師になれる……と思ったけど、むしろ交渉人とかの方かなあ。イオくんが悪いことするわけ無いし。
全ての段取りが終わってテアルさんが詰め所を後にするのを見送り、イオくんは僕と如月くんを振り返った。
「勝手に予定組んだが問題ないか?」
「て、天才! 流石イオくん、交渉がスムーズ!」
とりあえず褒める僕。そして如月くんははーっと大きく息を吐いた。
「なるほどイオさんは天才、ナツさんは怖い」
待って? 僕も普通に褒めて!
明日は更新ありません。




